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Bride Of BlackDragon 忍殺同人誌サンプル

この小説は


2024年6月23日開催のニンジャスレイヤーオンリーイベント『ニンジャオン4』で発行する二次創作小説本のサンプルです。

本作は2016年に発行しましたオイラン・ナブナガ・レイジとザイバツニンジャ・ブラックドラゴンの物語の完結編となります。
本編は18禁描写があります。
2016年発行の本を再録し前後シーンをカットした
『Bride Of BlackDragon 全年齢』も発行します。



恋するわたしは狂っている
そう言えるわたしは狂っていない
―死んだ人の言葉
 


アンダー・ザ・ムーン
 


《前回までのあらすじ》
アッパーガイオンの高校生ナブナガ・レイジは父の死後、親戚の退役軍人に男専門のオイランハウス『シマバラ』に売られてしまう。
客としてやってきた同級生のイダに襲われ、逃げ出したレイジは任務中のザイバツニンジャ、ブラックドラゴンと出会う。自分を殺してくれるようブラックドラゴンに懇願するレイジだったが、ブラックドラゴンは彼を身請けする・・・

満月が昇った。
地上を埋めるネオンに比べれば、あまりにも淡い光。
ここキョートでは電気照明より幽かな月光の方が尊ばれる。
カチグミたちは作られた暗闇の中で月光を浴びるのだ。
この部屋の主もそうらしい。
簡素な作りのオチョコを口に運ぶ男は異形である。月光を弾く黒いウロコ。
裂けた口元から除く爬虫類の牙。鋭い鉤爪に持ったオチョコはいかにも小さく玩具めいて見えた。
そのオチョコに酌をする者がいる。
両手でトックリを持つのは高校生くらいの少年だった。差し出されたオチョコにトックリを傾ける仕草はぎこちない。
こんな怪物めいた男に酌をするよりもアッパーの家でセンタ試験の勉強でもしていた方が合っているだろう。案の定、少年はサケを零した。透明な雫がオチョコから溢れて恐ろしく筋肉の張りつめた男の腕を伝い、ユカタに染みていく。
「スミマセン!すぐに拭きます!」
慌てて伸ばした手は鉤爪に掴まれた。
「あっ・・・」

フェン・イズ・ユア・ウェディング?(パープルタコとブラックドラゴン)


「オメデトウ!」
パープルタコが微笑んで渡してきたのは、パックド食品に装飾ワ・シが巻かれたものだ。
ブラックドラゴンはつい受け取ってしまった。
慶事を表すルーンカンジ『寿』に、イビルスピリットを払うと古事記にも書かれているナンテンの図。
キョートに於いて祝い事があると食される聖なる食品―レッドライスだ!
「まさか、ブラックドラゴン=サンがヨメを連れてくるとはな」
アイボリーイーグルの声には喜色が滲んでいる。
「ホンにメデタイ!何ならワシがナコドをやってやっても良いぞ!」
レッドゴリラも声を張り上げた。
 
「ヨメ」
「ヨメだろう」
「ヨメだな。確と」
「ヨメじゃなかったら、どうするのぉ?」
 
茶目っ気タップリに微笑んでいる目の中に、強い色がある。
「戸籍作って学校にでも行かす?」
 
何秒かの無言。アッパーでオイランに売られた者が、通常の生活に戻る事などできはしない。
「で、結婚式はいつにするの?」
「どこまで話を進める?」
ブラックドラゴンは息を吐く。『女の噂は半時あればフジサンの頂きまで昇る』!
平安時代の剣豪にして哲人ミヤモト・マサシの言葉だ!
((マサシも苦労したのだろうな・・・))

ホーム・スィート・ユニックス(ヨモギ)

【前回までのあらすじ】
思い人であるレイジの行方を探すハイスクール生、ヨモギはハッキングで手掛かりを探すうちに、ザイバツというタイガーの尾を踏んでしまう。
ザイバツ電算室のニンジャ、ストーカーはヨモギに利用価値があると判断。キョート城電算室へとヨモギを誘うのだった・・・

ヨモギは荒野に一人だ。
彼方から吹いてくる風にフリルと装飾コードが揺れている。
ヨモギの身を包むのは『憤怒』のハードサイバーゴスワンピース。

欲しいのに手が届かなかった服だ。

遥かな高みから注ぐ金色の光が、ガラス繊維を煌めかせている。

真っ直ぐな一本道。
前方になにか巨大な建造物が見えてくる。
ナムサン!何もない中空から吊り下げられた物体。それは巨大なオノだ!
ヨモギの身長の数倍の刃が、振り子のように揺れている。

自分は一瞬でサシミめいて切断されるだろう。
仮想の手足が痺れてくる。あの刃が体に刺されば、現実世界の自分の心停止は免れまい。

一瞬、LANケーブルに繋がった自分の死体を幻視した。

――コレを消せば・・・!レイジ=サンに会える・・・!

ニューロンに祈りのチャントを再生し、ヨモギは一歩踏み出す!

テンプルの鐘めいた音を響かる刃の間を、紙一重ですり抜けていく。

連なったオノを抜け出すと、視界は一変。
今度は巨大な芋虫がヨモギの周囲を取り囲む。

「KSSSSSSSSSIRRR!」「GGLLLLLLLLLLLLLL・・・・」
おおブッダ・・・ブヨブヨと汚水が詰まった風船めいた体を蠢かせ、先端部分についている顔は牙を剝き出しにしたイヌやサルだ!

腐ったマグロめいた目がヨモギを嘲笑している。口から粘液がこぼれ落ちると、地面にジュウッと穴が開いた。
子供の悪夢を稚拙に映像化したような光景。

((おちついて・・・全てはマボロシ・・・))

インポーテンス・オブ・ディスインフェクション(アンダーでの戦闘)


照光機が落とされた天井を、フクスケドローンやマグロバルーンがLEDを点滅させて浮かぶ。
『ネオサイタマ最新流行!』のカンバンの下の蛍光刺繍キモノ。
しつこいポンビキ・スカウトの声に、型落ちオイランドロイドが歌うスカムポップスが重なり、不協和音となる。
『オーガニック有りマス』のノボリが踊る迷路めいた繁華街。

「どういうコトだよォ!」

狼狽しきった声が響く。

「モータルペットにしてフヌケたって話だったろ!」
マヌケな観光客かと思いきや、声の主はニンジャである。

二人のニンジャは戦慄したままアイサツする。
「ドーモ、オーガストボギーです」
「ドーモ、オピウムです」
「ドーモ、オーガストボギー=サン、オピウム=サン」

黒いウロコのニンジャがクラブのフロアに立っているのは、悪夢めいた光景だった。

「ブラックドラゴンです」

牙が光る爬虫類の口から黒いブレスを吐けば、フロアに充満していた人間は溶けだした内臓を吹いて死んでいた。
皆、オピウムが流通させた新型ドラッグに群がってきたヤクザやヨタモノ達だ。
「俺が来た理由もわからない程愚か者か? 貴様らはキョートの秩序を乱した」

ここ、アンダーガイオンではドラッグの売買など罪にもならない。
だが、薬物カクテルにニンジャが精製した毒物を混入した、数ミリグラ
ム摂取すれば即死のシロモノを観光客に流したのが問題だった。

少なくない死者の中にはネオサイタマ・カチグミの子弟もいる。
外交問題になりかけているのだ。

「ハサミウチだ!」
常人の3倍の速度で駆けながらオーガストボギーが叫ぶ。
「女子高生にウツツぬかして何が懲罰騎士だ!」

「イヤーッ!」
死体と瓦礫の欠片の中からオーガストボギーは重さ50キロの鉄製ボーを振りかぶった。
「死ね! ブラックドラゴン=サン! 死ね!」
ブラックドラゴンは無造作に片手でボーを掴んだ。
オーガストボギーの腕の筋肉がブルブルと痙攣し、足は床にめり込み始める。
受け止められたボーは全く動かない!
「イヤーッ!」
後ろからオピウムが毒スリケンを投擲!

ヌンチャクワークのごとく鉤爪が閃いた。
投擲された毒スリケンは全て爪とウロコに弾かれる。

「モータルとチンチンカモカモしてりゃいいんじゃないですかァ!」

「イカレた爬虫類マニアだろ! そのオイラン!」

悪罵を喚きながら、オピウムとオーガストボギーは思い切り足を踏み込んだ!

ブラックドラゴンの足から放射上に床がひび割れていく。

この界隈は積み木を重ねたような違法増築だ。
安普請の床はニンジャ三人のイクサに耐えられずセンベイのように砕け散る!

ブラックドラゴンは瓦礫とともに下層階に沈み、二人のニンジャは跳び離れた。

「これがフーリンカザンよお!」

「どうする? オーガストボギー=サン」

「逃げるぞ! キョート城のアレコレミヤゲにすりゃネオサイタ・・・アバッ」
オーガストボギーの腹部から金属製のボーが生える。
内臓が潰れる音が響いた。
「サヨナラ!」

「フーリンカザン? 笑わせるな」
「アイエエエエエエ!」
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
オピウムはメチャクチャに毒スリケンを投擲する!
「俺の麻痺毒はドウダ! 動けまい!」

ブラックドラゴンは無言でブレスを吐きつける!
「グワーッ!」

暗黒のブレスは意思を持ってオピウムにまとわりつき、蝕む!
「オゴーッ!」
オピウムが即死しなかったのは毒耐性のためだ。

全速力で遁走しながらIRC通信機に怒鳴る。

『ハイ。ゴフクのムラクモでございます』
柔らかいアッパー風の口調! ますますオピウムをイラつかせた。
マスター位階もニンジャ装束を仕立てる店を、冷やかしたのが仇となった。

「ゴフク屋ぁ! テメエ位置情報チクったなァ!」

『まあ、どちら様でしょう?』
「ザッケンナコラー!オピウムだ!」
『あらあ、パーガトリー=サンの派閥の方にお伺いしたら、当派閥にそんなニンジャはいないと。一体どこの恥知らずが、畏れ多くもグランドマスターのお名前を出しているのかしら?』
「・・・!」
オピウムは衝撃で声が出ない。
『死に装束はぜひムラクモへって・・・ああ、爆発四散するんでしたわねぇ』

スナック菓子めいて通信機を握りつぶした。猥雑な空気に、粉々に砕けた部品が散っていく。

「あの年増、次にあったらサヨナラアンドファック・・・」

入り組んだアンダーの隙間や屋根を迷走するオピウムは、自分が何処にいるのか把握できなくなっていく。
前方百メートル。

ネオンカンバンが照らす中、人型に黒い闇がわかだまっている。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

オピウムの目にはそれは刃にしか映らなかった。
「ハイクを詠め。オピウム=サン」
鱗が覆う太い腕と、鉤爪が一閃! 首を高く跳ね飛ばす。
「サヨナラ!」

ブラックドラゴンは不機嫌そうに血にまみれた手を振った。
飛び散った裏切者にはもう関心を無くしたように。


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