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切られた脳と、消せないアイツ

俺の頭をいじくるように推薦したのは仁らしい。

「そこのバイク止まりなさい!」
「前原逸男! 君には出頭義務がある!」
パトカー三台、黄色で『処理推進センター』のロゴが入った黒のバン。
「原チャ一台にかよっ!?」

警官に囲まれたオレの前でバンのドアが開く。
出てきたのは女だ。出るとこは出てるカラダをリクスーに包んで、手には竹刀。
「前原くん、出頭命令が出たことはわかってるよね」
笑った。けど、こっちを殴る事しか頭にない。そんな笑顔だ。
「ざっけんなよ!」
女の陸上選手みたいな太ももを見ないように、オレは殴りかかる―
バシィッ!
雷が落ちたみたいな音。
「痛い!痛いぃ‼いてえよおおおぉ!」
今の絶対背骨が折れた!オレは吐きながら泣きわめくしかない。


「ヤベーよ。逸ちゃん」
「問題起こしてる奴とかをさぁ、上級国民のドレイにするんだろ?」
「どんな命令にも絶対服従だって」
二人からセンベツ―3万円をもらってのオレの逃亡はあっという間にダメになった。

オレが仁をイジメ倒したのはしょーもない理由だったと思う。
でもなんで仁だったんだろ。なんでよりにもよって、奥野仁を。

『ここで私が説明したいのは、前頭葉倫理処置は、非人道的なロボトミーとは全く違うという事です』

ぜんとうようりんりしょり。
なんかバトル漫画の必殺技っぽい。
オレが登校拒否にさせた相手―奥野仁の兄貴は流れるような口調で喋る。

『本来十代と言うのは、人生の中で一番大切な時間ですよね。それが罵倒と暴力まみれになる。そんな子供たちを救いたいんです』

頭蓋骨に穴あけたりしないらしい。
鼻から入れたチューブで全部の処置は完了!だそーだ。
何も変わんねーじゃん。

『暴力は、治療可能な脳の症例だと私は思っています』


「処置終わったんだ?」
いかにも良い家の坊ちゃんみたいな顔。アイロンのかかった夏服のシャツ。
「前原くん、海いこっか」
脳ミソ切られたオレの前に現れたのは、俺が前に骨折させた奥野仁だった。

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