自民党の生存本能は目覚めるか?-2021自民党総裁選挙-

コロナの感染爆発とオリンピックと長雨の印象の濃い8月が去ろうとしています。そんな中、菅内閣の支持率は下落に歯止めがかからず、9月は政局の雰囲気が立ち込め始めています。総裁選の日程も9月17日告示、9月29日投開票ということで決まりました。9月は政治の季節となり、様々な情報が飛び交う状況になるでしょう。中でも最大の焦点は自民党総裁選で、ここでの人選が後の衆議院選挙に大きく影響を及ぼすことになるので、今回は総裁選挙に言及しながら、自民党に期待することについて自説を述べたいと思います。

1:国民と自民党支持者の世論を見る

まずは現状をおさらいしましょう。

大手マスコミの世論調査の内、最も直近のものは毎日新聞と日経新聞のものになります。

改めて傾向をピックアップしてみましょう。 

①菅内閣の支持率は低くでれば30%割れ、楽観的に見ても35%に届かず、危機的な水準にある。 

②自民党の政党支持率はややばらつきがあるが、30%近辺を保っており、立憲民主党に対しては2.5倍から3倍近くの差をつけ、内閣が不人気な割には、一定の水準を維持している。

③あいかわらず、野党は左も右も小粒。自民党を脅かす存在はいない。 

ごくごく素直に読み解けば、「自民党の支持は野党がピリッとしないこともあり底堅いが、菅内閣には明確に『NO』という人が多い」と私は解釈できると考えています。これを逆にいうと「菅内閣で選挙に臨まなければ、少しの議席失うだけで、自公政権は盤石じゃないの?」となると思っているんですが、なかなかことは一筋縄ではいかないようです。

2:仮に菅内閣で選挙に臨むとどうなるか?

一応このシュチュエーションの検討をしてみましょう。参考になるのは横浜市長選挙です。この選挙はどういう選挙だったのでしょうか?

①菅総理の選挙区を含むエリアで行われ、側近が立候補した選挙であった。側近の小此木氏の支持を菅総理が全面的にアピールしたために、小此木=菅一派のイメージが有権者に刷り込まれた。

②大都市でおこなわれた選挙である。必然的にコロナ感染爆発が招いた医療崩壊及びワクチン接種の予約がとれないことに対して住民の怒りが充満していた。IR誘致が当初の争点かと思われたが、小此木氏に菅総理のイメージが濃厚に重なったこと及び感染拡大に伴う市民の怒りの増大が影響して、争点は「菅政権の信任の是非」に変節してしまった。

③コロナ対策に怒りを覚える市民が大挙して野党の支持を受けた山中氏に投票、小此木氏は大惨敗を喫し、菅内閣は東京都議会議員選挙についで敗北を喫し、「衆議院選挙で菅総理を担ぐと大惨敗するのでは」という風評がおこるようになった。

つまり横浜市長選挙は、来たるべき衆議院選挙の未来予想図を如実に浮かび上がらせてしまった選挙と言え、自民党が総理の膝下の組織力・動員力を用いても焼け石に水にもならない選挙と世間にしらしめる結果となりました。少なくとも都市部では菅政権の不人気ぶりはすざましく、そのまま衆議院選挙に突入した場合は、多数の討ち死にがでるんではないかと自民党関係者は背筋を凍らせたことでしょう。

その後も、国民の思惑は変わってないといえますので、菅政権で衆議院選挙に望んだ場合は、大幅な議席減、週刊誌報道まで含めると、「自民党単独過半数割れ」の予想や最悪は「自公で過半数割れ」予想まで飛び出す始末で、菅政権での選挙戦はリスキーというか、無謀というのが実態ではないでしょうか?

3:目覚めよ、自民党の生存本能!

さて、自民党は菅総理がヘッドのかなり勝算の低い選挙戦に、相当の損耗がでても突入するつもりでしょうか?ある程度の確率で、そのケースはありえます。ただ、自民党関係者に思い出してほしいのは「ジリ貧のまま、麻生太郎をヘッドに据えた選挙をしたら、大敗北して政権の座を追われたこと」です。

麻生内閣の国民の不人気ぶりはひどいものでしたが、菅政権も負けず劣らず不人気だと思うのです。麻生内閣のときには民主党という明確なライバルがいて、支持率は現内閣よりも低くでていましたが、今の菅内閣に政権交代を期待できる明確なライバルが現時点でおれば、菅内閣の支持率は30%近辺で下げ止まることなく、もっと見るも無残な数字になっていたことでしょう。

「麻生内閣時に起こった痛恨事」をもう一度招くリスクがあるかどうかは横浜市長選挙を見れば一目瞭然です。その無謀な賭けに出る覚悟をもって、自民党は全員を特攻させるつもりでしょうか?確かに野党は弱いけれど、菅政権にガタがきているなら、思い切って新しいリーダーで勝負するつもりがないのかと問いたい。また世論調査からも菅内閣ことは見限っていても、自民党のことはまだ見限っていない人もいるわけだから、総裁を選び直すことは、私には「正着」「正攻法」のように思えてなりません。

私は自民党が政権の座に居座るということに対しての執着は、生き物の生存本能に近い、その生命力の強さに2回過去に驚いたことがあります。

一つには、空前の低支持率8%を叩き出し加藤の乱等でボロボロの森内閣の後釜に当時自民党の中で変人のレッテルをはられていた小泉純一郎を総裁として選び、自民党を立て直させたこと。まっとうに考えれば同時最大派閥・経世会のトップ橋本龍太郎を敵に回しての勝利は誰もが無謀だと思ったところ、意外な人選で、自民党は息を吹き返したのです。

もう一つは、民主党の野田内閣の時に、政権交代を狙って衆議院の解散を迫った時のことです。野田総理に解散を取り付けたのは谷垣総裁ですが、ある意味、谷垣氏は敵の大将首をあげた最大の功労者なわけで、そのまま総理総裁候補として、選挙に打ってでると思われていたところ、なんと出馬すら叶わず、大外から「インフレターゲット論」を掲げた安倍晋三氏が内閣総理大臣に再登板するというウルトラCの決着をみたということもありました。結果としては公約が実行できない上に震災の処理にごたつくリベラル政権に嫌気のさしていた国民は、保守本流の思想に経済対策も充実した安倍氏率いる自民党を選び、政権交代はかなったのでした。

つまり、自民党は危機的状況のときに「意外な人選」や「ウルトラC」を決めて、世間の注目を集め、いままで勝ち抜いてきたという過去があります。私はこれを「自民党の生存本能」と読んでいます。「生存本能」が発露したときには影の面も光の面も二面的な結果を呼び込んでいますが、後から振り返ってみると、小泉内閣の誕生も安倍氏の再登板も、「よくこの常識外のカードを切ってきたな」というのが私の感想です。

ならば、今はどうでしょうか?選挙に果てしなく弱く、あからさまな不人気の菅総理をそのまま冠にいただいていていいんでしょうか?私はいまこそ自民党の関係者は、過去に危機を救った「生存本能」をもう一度呼び覚ますときだと思っています。

「いまさらやめられない」というコンコルド効果の導きに従うままに、菅総理のまま選挙に突入するのは簡単です。しかしそれば自民党の生存戦略に、あるいは大きく言えば国民のためになっているのか、全自民党関係者は自分の良心に聞き、判断する必要があるでしょう。9月になれば政治の季節、後から振り返ってみて、「あの時に違った選択肢にしていれば」という後悔に苛まれないよう、一人一人の意志を行動に変えることを願ってやみません。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?