WR-V vs ZR-V
1.対照的な2台
WR-Vが気になって、気になって仕方がありません。もうZR-Vを買うことが決まっているというのに、WR-Vの存在は考えれば考えるほど興味深く感じます。
これはエンジン開発を止めると公言したホンダの純エンジン車に対する心の叫びであり、最後の提案なのではないかと思えるのです。ここで買っておかねば、ホンダの純エンジン車技術に対する消極的な反対票を投じてしまうことになるのではないか、「結局出しても売れない」と廃止してしまったかつてのスバルとマツダのMT(マニュアルトランスミッション)車のように、あとで後悔しても遅いと思うと居ても立ってもいられません。
日本国内市場では、WR-Vと同じくホンダのヴェゼルを比較検討する方が多いと思われますが、私にとってはすでに契約しているZR-Vと比較したくなります。WR-VとZR-V、比較すると非常に対照的な2台であることがわかりました。
2.どちらも自由を求めている
WR-Vのプレスインフォメーションを見てみると「自由」というキーワードがストレートに前面に押し出されていました。一方ZR-Vのプレスインフォメーションには「異彩解放」とあり、なにかと息苦しさを感じるこの世の中に対してクルマというツールで精神を解放し自由を手に入れようというホンダからの提案を感じ取りました。この2台はアプローチは違えどどちらも自由を求めているのです。
世間一般(とモータージャーナリスト、マスコミ)からはZR-VはホンダSUVの国内フラッグシップ、その弟分がヴェゼル、末弟がWR-Vという格付けがされているようですが、ヒエラルキー(序列)が昔ほどの威光がなくなりつつある現在、ホンダはヴェゼルも含めてSUVをクラスレスに造っているのではないかと思います。
もともと日本のSUVの源流RVブームは、当時の若者が主流であるセダンの序列から飛び出した安くて大きいトヨタハイラックスサーフなどで渋谷に乗り付けたりして流行りだしたと認識しております。オフロードバイクであるヤマハTWも街中で乗るのに流行りましたね、一昔前からすでに都市型のボーダー(垣根)をオフローダーは超えてしまっているのです。
いかにも都市型SUVとして流麗なフォルムをまとい黒樹脂パーツを極力排したZR-V、一方角の立った力強いフォルムを強調したWR-VもCMでスーパーマーケットでの買い物と街中での使用を描写しています。どちらがかっこいいか、私はどちらもかっこいいなと思いました。
3.技術的アプローチの違い
単純化するとローテクvsハイテクとなるのでしょう。WR-Vは枯れた技術を煮詰めて造られた逸品に対してZR-Vは先進的な技術を積極的に取り入れたといえるのではないでしょうか。
そしてホンダはどちらもこなしてしまう天才的技術者集団です。方向性が違うものをどちらが優れているとか優劣をつけるのは不毛な議論だと思います。その違いを個性として楽しむのことで幸せなカーライフとなるのではないでしょうか。
ホンダのホームページでもサスペンションのトーションビーム式とダブルウィッシュボーン式(同様の効果を狙ったマルチリンク式も)での優劣はないと書かれていました。 https://www.honda.co.jp/sportscar/mechanism/suspension01/page2/ 技術の選択は使用される状況と哲学的考え方によるのではないかと思います。
4.構成要素の検証
ここでは、私がクルマを技術的な面で最も楽しめると考える、私が買おうと思っている、WR-VではZグレード、ZR-VではZグレードe:HEV 4WDを主軸において比較検証していきたいと思います。
①パワートレイン
WR-Vは排気量1.5L自然吸気エンジンのトランスミッションCVT、前輪駆動FF、出力87kW、トルク142N・m
ZR-Vは排気量2.0L自然吸気エンジンを発電機関とした電動機で電気式変速(VVVFインバーターによる)、四輪駆動アクティブ電子制御4WD、出力135kW、315N・m
スペック上、ZR-Vがすべての面で上回っているとも言えますが、WR-Vはシンプルな機構ゆえに軽く(ZR-V1,630kgに対して1,230kg)、メンテナンスも楽でしょう。
②エンジン
パワートレインとかぶりますが、エンジン単体で詳細に比較してみます。どちらも直列4気筒エンジンです。最近は3気筒化が進んでいますが、私はバイクの4気筒の回り方が好きなので、1.5Lクラス以上は4気筒であってほしいと考えています。
WR-VのエンジンはVTEC機構(バルブタイミングとバルブリフト量を可変させる)をもっているのに対して、ZR-Vのエンジンはバルブタイミングを可変させるのみなのでVTECを名乗れません。
ただしZR-Vのエンジンは直噴、アトキンソンサイクルを採用しており圧縮比は13.9、WR-Vのエンジンの圧縮比は10.6です。昔々レギュラーガソリンでは圧縮比10を超えると厳しくなるといわれ三菱RVR初代の2L NAガソリンエンジンが圧縮比10.5でハイオクガソリン仕様となっていたことを考えると技術が底上げされていることを実感します。どちらもレギュラーガソリン仕様であり、WR-Vのエンジンも十分高効率化されていると言えます。以前乗っていたフィアットムルティプラは1.6Lエンジンで出力103ps→76kWで不足は感じないどころか使い切る楽しさがあったので、WR-Vも十分以上の性能だと思います。惜しむらくはMTが導入されれば最強だったのですが、日本市場では無理であることは理解しています。
ZR-Vのエンジンは発電用に特化することで熱効率は40%になっているらしいです。これは13.9の高圧縮と並んで驚異的なことで、私が学校で熱力学を学んだ時にはガソリンエンジンでは熱効率30%を超えることは難しい(ほぼ無理)と言われていた常識を軽々と超えてしまったことに驚愕しています。
ハイブリッド用のエンジンを普通のエンジン動力車にも積めば良いのにとつい考えてしまいますが、最も効率のよい状態で燃焼させるための回転域が狭められているのと思うので、ドライバビリティが悪くなると推察されます。そしてやはりホンダのエンジン技術でブランド化されたVTECがWR-Vには搭載されているのは良いですね。実は私、バイクもクルマもVTECは持ったことがないので、消滅してしまう前に欲しいなと思います。
③変速機
WR-Vは金属コマとつなげたベルトとプーリーで動力を伝達するCVT、ZR-Vの方も無段階で連続的に速度を変化させるCVTではありますが、機械としての変速機は存在しません。VVVFインバーターで電圧と周波数を変化させて交流モーターを速度制御します。機械式CVTも変速ショックのない滑らかな加速をしますが、電気制御は次元の違う滑らかさに加え加速の仕方もプログラムを変えるだけで自由自在です。よくZR-Vの出だしが少しもたつくという声を聴きますが、こればホンダの技術的限界などではなく意図的なもののはずです。モーターは電気が流れた瞬間に最大トルクを発生するので、最初から大電圧を流せば出だしの良いクルマは造れてしまうのですが、使う側の人間の感性と安全性を考慮したのだと思います。
面白いのはどちらもギアの切り替えのようなステップ制御を取り入れていることです。これはホンダが、あえて最高効率を目指すことを二の次にして、あくまで運転する人間本位で考えた結果だと思います。ホンダの製品は二輪も四輪もとにかく乗って楽しい、マン・マシンインターフェースに優れている、目に見える数値性能よりも人間を中心としたモノ作りは、商売をするにあたっては不利に働く場合が多いです。乗ればわかる良さがあるのですが、宣伝下手な会社だと思います。特にCVTは登場当時のラバーフィーリングと人間の感性に合わない加速とともにエンジン回転数が下がっていく悪いイメージがあるので、最新を試してみたいと思っています。
④FFか4WDか
ZR-Vの4WDは悪路走破性に優れるのはもちろん通常走行時にも後輪を駆動させる「リアルタイムAWD」で優れたコーナリングを実現するようですが、熟成のすすんだFFのコーナリングも良いものです。
4WDの必要性についてはジムニーのパートタイム式4WDでの走行が10万km中の1/100程度しか使わなかったことから、あくまで保険であり、FFでもたいていの道は走れることを考えると、WR-VはFFのみと割り切ったのは妥当な判断だと思います。
4WDが必要になるのは雪の急傾斜上り坂、新雪のラッセル、砂地だと思いますが、走りたいときはもう一台ジムニーを用意した方が合理的かもしれません。前回はまさにFFのムルティプラと4WDのジムニーの2台体制でした。
⑤燃費・航続距離と長距離走行
WR-VはWLTCモード燃費16.2km/L、燃料タンク容量40Lで648km現実的な航続距離は550kmくらい、ZR-VはWLTCモード燃費21.5km/L、燃料タンク容量57Lで1,225km現実的な航続距離は1,000kmくらいかと考えられます。
倍くらいの差が生じるのは、構造上仕方のないことではあります。
この両車の購入価格の差は150万円くらいあるのですが、その価格差をペイするのはガソリンが170円/Lとして約58万km走る必要があり現実問題無理でしょう、ZR-VをFFで比較すると価格差は130万円となり約50万kmでペイするようになりますが、これも現実的ではありません。環境を考えてハイブリットを選ぶのではなく、純粋に走りの好みで選ぶべきだとわかりました。
航続距離については、東京から青森まで走ろうとしたときに途中高速道路で給油しなくて済むのに越したことはないですが、WR-Vは純ガソリン車で500km以上走れるのは航続距離が長い方だと思います。途中の大都市圏仙台で降りて食事・休憩がてら給油するなど行程の組み立て方を考えたいところです。
⑥サスペンション
WR-Vはリヤサスがトーションビーム式、ZR-Vはリヤサスがマルチリンク式で、フロントはどちらもマクファーソン式です。
トーションビームは左右の車輪をビーム(梁)でつなげた構造なので片方の車輪で受ける衝撃が反対の車輪にも伝わり、乗り心地が良くないとのイメージがありましたが、もともと梁がたわむことと近年解析が進んで、かなり良くなったようです。ちょっと試乗しただけだと判別できないのではなないでしょうか。もはや形式の違いによる優劣ではなくて、それぞれどこまでテスト走行して煮詰めたかによるのではないかと思います。
これは両方じっくり試してみたいところです。
⑦シート
WR-Vはファブリックと合皮のコンビネーション、ZR-Vは本革シートでシートヒーターが付いてくるのが嬉しいところです。本革はファブリック(布)に比べて手触りが冷たく耐久性に劣るため以前は価値を感じなかったのですが、体力の弱った人に乗ってもらうときに身体をすべらせてずらしやすそうなのでZR-V選定の決め手となりました。さらにシートヒーターが付けば冬場でヒートショックに陥ることもなく快適に乗ってもらえそうです。
ただシートそのもの出来については、長時間、長期間乗ってみないと評価できません。今のフィットe:HEVには一日1,000km以上、5万km以上乗って大変満足しており、日本車のシートのレベルが欧州車にほぼ並んだと思う今日この頃ですが、クルマごとの差や相性もあるのでスペックだけでは判断できない難しいところです。
⑧積載容量
WR-Vは458L、ZR-Vは395L、スクエアなボディも相まってWR-Vの方が荷物がたくさん積めそうですが、後席を倒してしまえばどちらも1人ぶんのワンルームへの引っ越しはできそうです。経験上トノカバーは外さなければいけないのですが、1回で運び終えるためにはトノカバーも一緒に運ぶ必要があり、結構邪魔になってしまいます。今のフィットでもたびたび不便な思いをしていますが、ZR-Vには荷室床板に格納できるのが良いですね。WR-Vにはなさそうですが、乗員と荷室の区切りとなるトノカバーは必要と考えているので、多少の不便は割り切りれます。
車中泊では後席を倒すとほぼフラットになるZR-Vの方が良さそうですが、室内高により起きたら頭がつかえてしまうのではないかと不安があります。
荷室は容量だけではなく、実際に使ってみての判断が必要になると思います。
5.ホンダからの提案を私は真正面から受け止めたい
WR-VとZR-V、比較検証してみてどちらが優れているとか単純に判断できないということが良くわかりました。どちらも自由への翼を与えてくれる、夢のあるクルマです。
ただ自由とはいえWR-Vはフリーダム(持って生まれた自由、先天的)に対してZR-Vはリバティ(勝ち取った自由、後天的)のように思えます。どちらを選ぶかでライフスタイルの色合いも変わってくると思います。
そして両車とも日本市場に初めて投入する新ブランドモデル、特にWR-Vはインドからの輸入車にしては異例なほどのマーケティングをしていると思います。かつてのアメリカらのアコードワゴンとかイギリスからのシビックタイプRとか、好きな人だけ買えばいい、とは明らかに一線を画します。
ホンダも並々ならぬ想いをこめて売り出しているのです。そのホンダからの提案をどう受け止めるか、それにより今後のホンダの方向性も変わってしまうのではないかと危惧しています。
正直WR-Vも欲しい、これから頑張ってみようと思います。
#WRV #ZRV
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