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新たな仲間と新たな一歩を ~ Secondo viaggio 第4章「宇賀神参上トナンテ」

はじめに:Secondo viaggioについて

 スマートフォンアプリ「金色のコルダ スターライトオーケストラ」(通称:スタオケ)における長編シナリオシリーズ「Secondo viaggio(通称:SV)」について、紹介と感想を兼ねて書く。Secondo viaggioはスタオケのメインストーリーの続編であり、スタオケのメンバーたちがそれぞれの音楽と人生に向き合っていく青春物語が描かれる。
 Secondo viaggioのストーリーはイベント形式で配信されたが、オフライン版では1~11章まですべて解放されている。閲覧にはアプリのホーム画面の ストーリー > イベント > SV へ遷移する必要があるが、イベントへの参加・不参加を問わず、オフライン版をインストールしたすべてのユーザーに解放されているコンテンツである

 本記事ではSecondo viaggio 第4章として配信された「宇賀神参上トナンテ」について書く。メインストーリーの続編の物語なので、メインストーリーやその他イベントストーリーの内容を踏まえる、つまりネタバレを含むことをご了承いただきたい。

ストーリーライン概観

新たな地で、新たなファンを

 沖縄でのコンサートを終えた4月後半。次の活動の場はどこにしようかと相談していると、スタオケのメールフォームが奇妙なメールを受信したことを成宮が知らせる。

メインストーリー1章の頃からWebサイトを作成・管理してくれている成宮

 動画を用いたビデオレターである。謎の青年&少年の二人がスタオケを石川県金沢市へ“招待”するといいう内容だ。青年が指定した日程はゴールデンウィークで、“金沢音楽まつり”というイベントが催されるらしい。そしてさらに注目すべきは、金沢市にはSecondo viaggio 第1章からストーリー上に登場してきたクラシック音楽統括団体“全国シンフォニー連盟”の本部があること、そのシン連が全面的にバックアップする“北陸ユースフィルハーモニー管弦楽団”があることだ。

情報は青年の声と少年のヴァイオリンの音色のみ

 スターライトオーケストラを「我が良きライバル」と称するということは、北陸ユースフィルハーモニー管弦楽団の関係者である可能性が高い。金沢はこれまで訪れたことのない土地だが、スタオケのメンバーは“招待状”の誘い通りに金沢へ行くことを決定する。

銀河不在の間、引率を一手に引き受けている篠森先生

 金沢にやって来たスタオケメンバーは、ひがし茶屋街など鉄板の観光地を巡った後、美術館を訪れる。

先生それフラグです

 混雑する美術館で一人はぐれた朝日奈は、美術館の庭園で、一風変わった展示品(?)を発見。

名木田恵子の小説「赤い実はじけた」のオマージュだろうか
兄弟二人だけの世界に疎外感を感じた上にこの仕打ちですよ

 ルネサンス期の彫刻を彷彿とさせる美青年は、宇賀神惟世。「お兄ちゃん(惟世)が不審者(朝日奈)に絡まれている」と真顔で警備員を連れてきたのは、惟世の実弟である宇賀神七瀬である。ちょっとアホだけど明るく大らかな兄の惟世はチェリスト、ジト目が強いお兄ちゃん至上主義の七瀬はヴァイオリニストらしい。
 アンサンブルのためにヴァイオリニスト1名を探していたという惟世は、ヴァイオリンケースを背負っている朝日奈を見て協力を要請する。
 惟世に請われるままにアンサンブルに参加した朝日奈に、金沢駅前でようやく追いついた他のスタオケメンバー。ここで、兄弟が例の“招待状”の送り主であることが判明する。

めちゃ挑戦的なビデオレターを送ってきたくせに気づいてなかったんかい!!

 そのとき、スタオケが宿泊を予定していた金沢市内の旅館から「本日からの予約はすべてキャンセルさせてほしい」との連絡が入る。唐突かつ厳しい対応に朝日奈らは戸惑いを隠せない。ゴールデンウィークの観光地ということもあって、新しく宿泊地を探すのは難しい。だが惟世は「ライバルが困ったときは助けてやりたい」と自宅にスタオケメンバーを迎え入れることを申し出る。
 宇賀神兄弟の実家は金箔工房。住み込みの弟子を大勢取ることがあり、大所帯の人間の受け入れも可能らしい。恐縮しつつ、スタオケメンバーは宇賀神家を金沢滞在の拠点にすることにした。

捨てる神あれば拾う神もまたある

 一ノ瀬銀河に憧れて指揮の勉強を専門的に始めたという惟世は、ライバル楽団の一員でもあるにも関わらず、スタオケに終始好意的な態度をとる。一ノ瀬銀河の音楽が好きな彼は、スタオケの演奏も好ましく思っている。銀河が金沢に来ないと知らされても、スタオケの逆境に大いに同情した彼は、「スタオケの音楽をみんなにも聞いてもらいたい!」として、すでに申込みが締め切られていた金沢音楽まつりの最終日のステージでスタオケが演奏できるよう取り計らう。さらに、宿泊施設と同様、予約済み練習施設から利用を断られてしまったスタオケを自楽団の練習施設に招く。
 ……と、ここまで書くと惟世の私権濫用ぶりが凄まじいように見えるが、周囲(両親、音楽まつりの役員たち、北陸フィルのメンバーたち)は全員惟世のストレートな懇願を「惟世がここまで言うなら仕方がない、なんとかしてやるか」と受け入れている様子が描かれるわけである。カリスマ性と人脈が服を着て歩いているようなものである。

北陸フィルのコンマスはモブCGながらストーリー最終章まで出てくる

アウェーの逆風

 “救いの神”惟世のとりなしに感謝しつつ、さっそく練習を始めるスタオケのメンバーたち。金沢音楽まつりで演奏することになった曲は、「ロメオとジュリエット」第2組曲より「モンタギュー家とキャピュレット家」である。これから起こる事件を予感させる重厚で不穏な旋律は、一度聴くと忘れられない。ソフトバンクのCMやTVドラマ「のだめカンタービレ」の挿入曲として使われたため、クラシック音楽に疎くともメロディーだけは知っている日本人は多いだろう。
 もともとはソ連の作曲家・プロコフィエフがシェイクスピアの悲劇「ロメオとジュエリエット」を題材に作曲したバレエ音楽で、イタリアの都市ヴェローナで対立する二大名家・モンタギュー家とキャピュレット家の騎士たちが舞踏会で踊る様子を描いたものだ。ロメオはモンタギュー家の息子、ジュリエットはキャピュレット家の娘である。日本オーケストラ協会と全国シンフォニー連盟の争いに翻弄されるスタオケと北陸フィル(宇賀神兄弟)に、ロメオとジュリエットの悲劇が仮託されていると言ってもいいだろう。

 スタジオ内練習で演奏曲の完成度を高めたスタオケは、いつも通り路上ライブを敢行するが、一般の通行人による大音響の演奏でパフォーマンスを妨害されるという事態が発生する。こうした間接的な妨害は一度のみならず、またバリエーションを増やし、複数回複数日にわたって朝日奈らを悩ませることになった。

 そんな中、スタオケが金沢で様々な妨害行為を受けている原因が判明する。予約済みの旅館や練習施設をドタキャンしまくるという「マナー違反」をしているとの悪評がSNS上で蔓延っており、地元愛の強い一般人が憤慨して個人的に嫌がらせをしに来ている――というのが真相のようだ。スタオケからすればドタキャンされたのはむしろ自分たちであるので、言いがかりである。
 だが――スタオケが金沢に来たのは、もともと予定されていた演奏会のためではない。それなのに金沢に入った途端に嫌がらせを受けるようになったというのは、どうも不自然な流れである。金沢でのスタオケの動きを迅速に把握できる誰かが、意図的にスタオケの悪評を流しているのでは――成宮らはそのような疑念を抱く。

 だが、事態は急展開を迎える。妨害行為を行っていた人物と七瀬が接触していたという情報が惟世のもとに入ってきたのだ。スタオケへの嫌がらせに憤激していた惟世は、練習施設で七瀬を厳しく問い質す。
 七瀬はたまらず、金沢でのスタオケへの妨害行為に自分が関わっていたことを自白する。スタオケが負けて北陸フィルが勝てば兄も嬉しいだろうという思い込みに加え、突然現れたスタオケに惟世がやたらと肩入れすることに対する嫉妬を抑えきれなかったゆえの行いだったようだ。が、崇拝する惟世の一喝に耐え切れない七瀬は、傘も持たずに雷雨の街へ逃げ出し、そこまま行方が知れなくなってしまった。

こういうことをしても兄は喜ばないと気付きかけてはいたのだが…

雷雲一過、そして

 かつての七瀬の体が弱かったことから、惟世は彼を甘やかしてきたという。そのせいで他人に迷惑をかけ、七瀬自身も傷つけてしまったことを、惟世は深く反省した。だが、叱責して七瀬を傷つけた張本人である以上、惟世が自ら七瀬を探しに行きたいとは言えなかった。朝日奈は彼を連れ出し、七瀬を探しに行く。

 「思い出の場所」と話していた病院裏の児童公園にいた七瀬に、惟世から頼まれた朝日奈が声をかける。
 雷を恐れて縮こまりながら「お兄ちゃんに嫌われてしまったら生きる意味がない」「神様に嫌われた人間は、どうでもいい人間だ」と吐露する七瀬。SV2章で銀河から突然の離別を突き付けられ、見捨てられたような絶望を経験した朝日奈にとって、いまの七瀬はかつての自分だった。
 惟世の静かな説諭を受けたこともあり、七瀬は朝日奈に謝罪し、ふたりに連れられて帰宅する。

 音楽まつり最終日。朝日奈やスタオケメンバーに対して妨害行為を謝罪した七瀬は、自分も本番前であるにも関わらずスタオケメンバーのために雑用をこなし、スタオケメンバーも彼の罪滅ぼしを受け入れる。SNS上の悪評を完全に払拭するのは困難ながら、スタオケが音楽まつりで実力を披露することで、彼らに対する評価を好転させた観客も少なからずいたようだ。
 スタオケと宇賀神兄弟は金沢駅で別れたが――第15話のラストシーンで、宇賀神兄弟は横浜にやってくる。在籍していた北陸フィルと袂を分かち、スタオケに加入するために。

兄弟が北陸フィルを脱退した具体的な経緯は、「SV間奏2 兄と奏でるトゥッティ」にて語られる

 SV序盤で大人の事情によって致命的なまでに名誉を傷つけられてしまったスタオケが、SV4章ではデマによってさらに悪評に苦しめられるという、なんともストレスフルなストーリーが展開する。七瀬の苦しみを他人事と思えず彼に手を差し伸べた朝日奈も、彼女以外のメンバーも、七瀬の謝罪を受け入れるまでさして時間がかからなかった。間もなく配信されたイベントストーリー「SV間奏2 兄と奏でるトゥッティ」で補完はされたものの、七瀬が簡単にはデレないキャラクターである以上、少々引っ掛かりを覚えたユーザーもいたかと思われる。
 金沢での一連の事件は、ひとえに兄離れできない七瀬の視野の狭さに起因するものだ。スタオケに加入しSVの物語が進む中で、自省の機会を得た彼が本件のフォローを行えるのは、物語が最終盤になってからということになる。

“宇賀神兄弟”の正体

 キャラクター紹介と彼らの参入の過程とが描かれたメインストーリーと異なり、Secondo viaggioは全体的に物語が動的で、スターライトオーケストラの置かれる立場と評価が大きく揺れ動く。ただし、第4章「宇賀神参上トナンテ」は新キャラクターお披露目回ということもあり、シン連の不審な動きを描く本筋と、宇賀神一家のプライベートな面を描く枝葉が交互に現れる。
 惟世と七瀬のキャラクター性については、すでに「スタオケキャラ雑感:宇賀神兄弟(宇賀神惟世&宇賀神七瀬)」で触れている。ここでは、SV4章で象徴的に描かれた兄弟のキャラクター性についてもう少し精査していく。

 惟世は金沢栄光大学の1年、七瀬はその附属中学の3年であるが、学生生活よりもむしろ、彼らの関係の中心となる家庭生活と北陸フィルでのオケ活動にまつわる情報の方が多く登場する。
 宇賀神家は金沢を代表する金箔工芸職人の一家であり、地元で一目置かれる名家であるという(家庭というか育った環境そのものの開示が、もっと言えば両親が登場するのも、スタオケキャラクターの中では珍しかった)。長男の惟世もいずれ職人として家を継ぐことを期待されて、また本人もその自覚が十分にある。伝統やしきたりを重んじる環境で育っているわけだが、かといって革新性を否定せず、むしろ新しいものごとを積極的に取り入れることで、伝統を未来に繋げていこうとするバランスの取れた考え方をしている。

実家の日本家屋が……デカい!!

 実際に金箔工芸を手がけるシーンがある惟世に対し、七瀬の方は家業について特に言及しない。まだ中学生ということもあってか、ゲーム・SNS・IT技術に強い興味を示す現代っ子である。ただし惟世ほど両親から愛されていないというわけではないのは、惟世よりも遥かに立派な五月人形をしつらえてもらっていることからも明白だろう。

 兄弟は祖母(故人)から箏を習得したという。七瀬は(兄の箏の伴奏をするために)三味線に転向するが、オーケストラでの担当楽器であるチェロやヴァイオリンと演奏歴が同等で、邦楽とクラシック音楽の共通点や違いについて語るシーンがあるのもおもしろかった。アプリ内で流れる宇賀神兄弟のテーマが、チェロ・ヴァイオリン・箏・三味線という、和洋の楽器が見事に調和した名BGMであるのも納得である。

幸福と音楽の神

 宇賀神というとなかなか仰々しい姓に聞こえる……といっても、近年だとサッカー選手やアナウンサーとして活躍する宇賀神姓の著名人がいるので、そちらを連想する人も多いだろう。

 宇賀神(ウガジンまたはウカノカミ)は、福徳の神として信仰されている神だ。日本神話で穀物神として登場するウカノミタマノミコトと関連づける説があるが定かではない。人頭蛇身でとぐろを巻く姿で表すことが多い。
 宇賀神はやがて、仏教で音楽・弁才・財福・知恵にまつわる神(天)とされる弁才天(弁財天とも)と同一視されていく。弁才天は七福神にも列せられているが、七福神の他の神(天)と同様、現世利益をもたらす大衆的な神である。その姿は音楽神らしく、琵琶を持つ天女として描かれる。

ヒンドゥー教の川の女神であるサラスヴァティーが、仏教に取り入れられて「弁才天」とされた

 長い歴史の中で宇賀神と弁才天の習合が進んだ結果、弁才天が頭頂部にとぐろを巻いた蛇を乗せた“宇賀弁才天”が各地で祭られるようになる。特に有名なのは、竹生島宝厳寺の蛇神を乗せた弁才天だ。神奈川県鎌倉市の通称「銭洗弁天」も、正式名称は銭洗弁財天宇賀福神社と言い、宇賀弁財天を祭ったものである。また、現代日本で宇賀神姓が多いのは栃木県だと言われているが、これも栃木県佐野市で磯山弁財天を祭っていたことに由来すると考えられる。石川県金沢市の永安寺でも宇賀弁財天を祭っているのは、今回金沢の地で宇賀神兄弟が登場したことと無関係ではないだろう。

「宇賀神」が同時に「弁才天」を示すのだとすれば、それは福徳神であると同時に音楽神であることになる。一ノ瀬銀河が去り危難に陥ったスタオケを、“幸福と音楽の神”として宇賀神の名を持つ兄弟が助けることになるわけだ。また、弁才天の持つ琵琶が弦楽器のひとつであることを考えると、惟世がチェロと箏、七瀬がヴァイオリンと三味線と、いずれも弦楽器の演奏家であることにも得心がいく。
 Secondo viaggioのストーリーからは離れるが、宇賀神惟世のキャラクターストーリーにおいて、宇賀神家に“白い蛇が描かれた九谷焼の大皿”が家宝として伝わっているとの描写もある。白い蛇は弁才天の使いで、富をもたらす存在として知られるので、“福徳伸としての宇賀神”がキャラクター設定の根底に横たわっているのは間違いないだろう。

宇賀神惟世キャラクターストーリー第3話より

雷――神なる兄の大いなる怒り

 Secondo viaggio 第4章のサブタイトルに付された「トナンテ(tonante)」は、イタリア語で「雷のように」を意味する音楽用語。宇賀神すなわちスタオケにとっての福徳伸である惟世・七瀬の兄弟が、華々しく登場して仲間に加わることをわかりやすく説明したものだが、実際のストーリー内でも“雷”が印象的に描かれていることを取り上げたい。

 北陸が雷の多い地域であることに触れているのは、意図的な演出だろう。これは、日本海側地域が夏だけでなく冬に雷が多く落ちる(冬季雷)ことによる。気象庁の統計によれば、年間の雷日数(1991~2020年までの30年間の平均)は金沢の45.1日が最多であり、全国平均の20.1日と比較するとその差は如実である

 雷はどの文化圏でも古くから神の御業によるものと信じられてきた。ギリシア神話ではゼウス、バラモン教ではインドラなど、いずれもそれぞれの神話における最高神が雷神として知られている。
 日本の雷は“神鳴り”であり、やはり神威を表す現象である。“稲妻”と称されることもあるが、これは稲が開花し結実する旧暦の夏から秋のはじめにかけて多く発生し、雷の光を浴びることで稲穂が実るという信仰があったことに由来する。雷がその年の豊穣と強く関連づけられていたことがうかがえる。豊穣とはすなわち福徳なので、宇賀神の司る分野と拡大解釈することもできるだろう

 Secondo viaggio 第4章13話で惟世が七瀬を叱責した直後、周囲の天気は雷雨となる。惟世は「あんなふうに怒ったことはなかった」と話しているので、七瀬は生まれて初めて兄に厳しく怒られたということだろう。もともと雷を恐れているのに加え、初めて受けた兄の怒りに打たれたことにより、七瀬の驚愕と絶望は一層深いものとして描かれる。兄を神と同一視している彼にとって、このシーンの雷は、メタ的に神(兄)の怒りを象徴するものなのである

 Secondo viaggio 第4章とそれを補完するイベントストーリー「SV間奏2 兄と奏でるトゥッティ」では、幼少期の七瀬が病気がちでほとんど病院で過ごすような状態だったこと、兄の惟世から腎移植を受けた結果回復したことが語られている。渋る両親や医者たちを押し切ってドナーに志願した兄に、七瀬は強い感銘を覚え、その後惟世のことを「俺の神様」と崇めるようになったという。
 この「神様」という表現は、おそらく多神教の神々のうち一柱ではなく、一神教の唯一神として捉えた方がよいだろう。神の体の一部を信者に分け与えることは、キリスト教でいうミサや聖体礼儀を連想させる。
 惟世が“神”であれば、同じ両親から生まれた七瀬もまた彼に釣り合う“神”であるはずだ。SV4章を補完する内容となるイベントストーリー「SV間奏2 兄と奏でるトゥッティ」では、七瀬が「ホームズとホームズよりホームズとワトソンのがいい。そのほうがよっぽど唯一無二だ」「僕はお兄ちゃんのたったひとりの半身なんだから」と考える一幕がある。兄ありきのアイデンティティではあるが、兄の苦手分野を冷静に分析し、自分が補って完全な兄弟であろうとする七瀬のあり方が読み取れよう。


 「金色のコルダ スターライトオーケストラ」のサービスはすでに終了しているが、2024年6月30日まではオフライン版が配信されている。記事冒頭に記載したように、Secondo viaggioのストーリーはメインストーリー第2部として位置づけられるもので、サービス中にプレイした経験がなくとも、オフライン版をインストールすれば読むことができる。新たに加わった宇賀神兄弟も含め、各キャラクターの音楽や人生との向き合い方がドラマチックに描かれていくSecondo viaggioの物語について、筆者は引き続き感想を書いていく予定である。

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