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〝ゴースト〟たちとのゲーム

先日投稿した《そして、かれらはやって来た》で、映画『フィールド・オブ・ドリームス』のロケ地となったアイオワの野球場から、映画にも出演したメンバーが中心となって結成された「ゴースト・ブレイヤーズ」がやって来たことを書きました。

ドリームフィールドで遊んだ日々のことをまとめた『「草野球の日」宣言。』に、そのことを書いた記事を掲載していますので、ここに転載しておきます。(何箇所か修正)

〈以下〉

ゴーストとWEB

「グッド・ジョブ!」

 1996年5月11日、ぼくたちの野球場「ドリームフィールド」に米国のアイオワから「ゴースト・プレーヤーズ」がやってきた。その〝事件〟の経緯をかいつまんで説明するとこうだ。

 1993年初夏、ぼくは何を思ったか野球場をつくりはじめた。そのモデルとなったのは1990年に封切られたアメリカ映画『フィールド・オブ・ドリームス』のロケ地となったアイオワの野球場だ。天然芝のグラウンド、白い木製のスタンド、外野の向こうはトウモロコシ畑…。
 ぼくは夢を共有できる仲間を集めて“無謀な遊び”に夢中になった。

 だが、野球場を個人的に持つことは「意味のないこと」であり、「荒唐無稽な夢」でもある。当然この無謀な企ては途中で頓挫し、いつしか忘れ去られるはずだった。
 ところが、得体の知れない執念と多少の運と関係者の協力とがあって、ドリームフィールドは1995年の9月3日(草野球の日)になんとか完成した。

 映画では「お前がつくれば、彼はやってくる」という不思議な声を信じた主人公の農夫が、トウモロコシ畑をつぶして野球場をつくる。すると、八百長の嫌疑で大リーグを追われたかつての名選手シューレス・ジョーと、そのチームメイトだったホワイトソックスの選手たち〝アンラッキー・エイト〟が亡霊となってあらわれ、その野球場でプレイをする。シューレス・ジョーのプレイをもう一度見たいと願った主人公の夢が叶うというストーリーだった。

 映画の感動は、東洋の島国の男を野球場づくりにかりたてたように、アイオワのひとびとの心を動かし、映画のためにつくられた野球場は「フィールド・オブ・ドリーム球場」として残されていた。映画の中に登場したゴーストたちが中心となって「ゴースト・プレーヤーズ」というチームが結成されてもいた。こうして映画のマインドは受け継がれていたのだ。

 アイオワの球場では、毎週やって来る大勢のひとびとのために、ゴースト・プレイヤーズのメンバーが映画のシーンそのままにトウモロコシ畑からあらわれ、みんなとキャッチボールをし、ゲームを楽しんでいるという。
 日本版フィールド・オブ・ドリームスの話は、いくつかのメディアにとり上げていただき、彼の地ではワシントンポスト紙にも紹介された。
 その記事を通して、ぼくとその仲間たちのことがアイオワに伝わり、日本の広島という地方都市の、その過疎地にあるドリームフィールドにゴースト・プレイヤーズがやってくることになった。
 映画がきっかけとなってはじまった出来事は、まるで映画のストーリーをなぞるように進行し、同じような夢で結ばれることになった。

 ゴーストプレーヤーズの16名の選手たちは、トウモロコシの畑からではなく、かって日本のプロ野球界に異彩を放って君臨し、やはり『黒い霧事件』で若き豪腕投手を失った西鉄ライオンズの親会社であった西鉄のバスであらわれた。
 オールドファッションのホワイトソックスのユニフォームに身を包んだ〝ゴースト〟たちは、出迎えたぼくたちとの挨拶もそこそこに、まるで懐しい恋人にでも出会ったかのように、そそくさとグラウンドに向かい、ダイヤモンドにつづく階段を下りていった。そして物思いにふけるかのようにあたりを見回した。そのユニフォーム姿は、軽い嫉妬を覚えるほどドリームフィールドに似合っていた。

 本家アイオワの連中に、この野球場がどう映るのか、ぼくは気が気でなかった。映画のロケ地となった野球場と現実の野球場との差は歴然としていたからだ。不安と一緒にダイヤモンドに下りたぼくに、彼らはあらためて握手を求め、申し合わせたように同じ言葉をかけてきた。
「グッド・ジョブ!」
 それは思いもかけない最高級の賛辞だった。彼らと手を握り合い背中を叩き合ったぼくの胸には、熱いものがこみあげていた。

 ゴーストプレーヤーズとぼくたちのチーム「コーンズ」との親善試合は12対5という、力の差ほど点差のないスコアでコーンズが負けた。それは彼らが手を抜いた結果ではなく、相手と同じベースボールを遊ぼうとする彼らの姿勢の証しだった。ゲーム後の彼らのコメントを聞いて、ぼくは不覚にもまた目頭が熱くなった。
「コーンズは、ベースボールの楽しさを知っている。それをここで教えてもらった」
 国民性の違いを越えて、かくも人間はわかりあえるものなのか。ぼくはあの日、ベースボールの素晴らしさを痛感させられた。そして、彼らとフレンドシップを持てたことに、いいしれぬ喜びと誇りとを感じた。

 ぼくは近いうちにアイオワのダイヤーズビルにあるという『フィールド・オブ・ドリームス球場』を訪れるつもりだ。その夢が叶ったとき、彼我に同じ匂いをかぎながら、彼らに「グッド・ジョブ!」そういいたい思っている。
〈以上〉

ゴースト・プレイヤーズと


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