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真剣な遊びゆえの滑稽さ

日本版フィールド・オブ・ドリームスは、ひょんなことから新聞雑誌テレビにラジオと、様々なメディアに取り上げられることになりました。てか、メディアの格好のエジキになってしまったというんでしょうか、あれよあれよという間にマスコミの寵児となって、勘違い一直線。(笑)
その節、不快な思いをさせてしまった方には、ここに新ためてお詫びいたします。

最初に取り上げてもらったのは朝日新聞大阪版の社会面でしたか。それからは新聞各社はもちろん、ローカルのテレビ番組、全国のニュース番組とスケールアップし、とうとう天下の朝日新聞は天声人語のコーナーを汚すまでになってしまいました。

1995年といえば神戸の震災があり、オウム真理教の事件もあった年。あるテレビ番組の取材で来られた著名なジャーナリスト氏曰く「世の中が閉塞状況にあるときに、爽やかな話題だからですよ」と、たしかおっしゃっていただいたような。

一緒にはじめたメンバーが一堂に会して、果たして爽やかなメンツだったかはさておき、たしかになんの得にもならないというか、逆にいくらかかるかもわからない野球場づくりをしようなんて、無謀を超えて破天荒に爽快だったのかもしれません。

ちなみに、愚息が通っていた中学校の社会だか倫理だかの授業で、この天声人語をテキストにご使用なさっていて、たまたま掲載された日がその授業の日。先生がその文面を読んだとき、それが愚父のことであると知った愚息は、うかつにも大きな声で叫んでしまったそうです。

「先生、それうちのお父さんです!」

それを聞いた小生の心境、いささか複雑であったことをここに告白しておきたく存じます。

■『天声人語』(朝日新聞 1995年6月15日付)

天声人語

 米国アイオワ州の農場主がある日、不思議な声を聞く。「お前のトウモロコシ畑をつぶして野球場をつくれば、彼はやって来る」▼「彼」とはシューレス・ジョー・ジャクソン、史上最高の打者と言われながら、八百長疑惑に巻き込まれて大リーグを追われ、無念のまま死んだ伝説の選手だ。農場主は畑を球場につくりかえる。町の人の目は冷ややかだ。ところが本当「彼」は球場に現れた……▼こんな粗筋の映画「フィールド・オブ・ドリームス」に感動したのがきっかけで、草野球チームのための野球場をつくる計画を実現しようとしている人々がいる。広島市で広告制作の仕事をしている堀治喜さんと仲間たちだ。野球少年だった堀さんが進学した中学と高校には、野球部がなかった。社会人になって野球への思いはますます強くなる。仲間と草野球を始めたが、試合の場所の確保が一苦労だった。次第に人の集まりが悪くなり、チームは自然消滅する。その繰り返しだった▼「自分たちの球場がほしい」。そんな空想をしていたころ、映画を見た。なかば冗談のつもりで土地を探したら、広島から五十㌔ほどの高宮町で、荒れた段々畑を借りられることになった。二年前のことだ▼三、四十代の様々な職業の男女が集まり「とうもろこしの会」が結成された。週末には草刈りにでかけ、資金集めのバザーや野外映画会を開く。町役場も協力してくれるようになり、整地は土木工事の残土を活用した。夢は少しずつ現実の形になってゆく▼丘陵に囲まれた両翼九十mの球場は「ドリームフィールド」と名付けられた。勝手に「草野球の日」と定めた今年九月三日が、球場開きの日である。外野フェンス代わりに植えた数千本のトウモロコシが、背丈より高く茂っているはずだ▼幼い日の夢を心に持ち続けていれば、そう、きっと「彼」はやってくる。

石拾い


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