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中性点接地の目的と方式の紹介

中性点接地というのは、一般にはあまり知られない用語ですが、電力系統の保安面で重要な技術といえます。本記事では、中性点接地とはどんな目的で行うものであるか、概略を説明した上で、4つの方式を紹介していきます。

予備知識

電力系統のいわゆる電線(送電線や配電線)は、基本的に三相交流によって送電されています。中性点というのは、三相交流をY結線した時の中心部を指します。

詳しく(あまり詳しくもないですが)は、三相交流の記事をまとめましたので、こちらをご確認ください。

中性点接地は1線地絡事故の発生時の対策として行われるものなので、1線地絡のことを知ってく必要があります。1線地絡とは三相交流の3本の電線のうちの1線の電流が、何らかの理由(雷等と思います)で、絶縁皮膜を通過し、地面に通電してしまうことを指します。

中性点接地の目的

特別高圧系統では、変圧器の結線をY結線とし、通常、その中性点を各方式で設置します。その主な目的は、以下の2点です。

1.1線地絡時の電圧上昇抑制
1線地絡発生時、残りの健全相の電圧が上昇します。これを抑制することで、線路や機器の安全を確保し、かつ、絶縁レベルの低減を図って、系統全体としての経済性を向上させます。

絶縁レベルとは、絶縁の能力(高電気抵抗)という意味で、高い性能のものは、当然、コストが高くなります。線路や機器の安全課確保できるなら必要な絶縁レベルは低めに設定でき、その分、送配電網全体に使用する絶縁体のコストを抑えられるという考えです。

2.事故範囲の限定化、波及拡大防止
中性点接地によって、1線地絡発生時の保護継電器の動作を、迅速、かつ、確実なものにし、事故範囲の波及拡大を防止することで、設備の損傷の局限化を図ります。系統の安定確保、通信線への誘導障害の低減も図ります。

中性点接地方式

直接接地方式(187kV以上)
電源変圧器の中性点を直接設置する方式です。中性点が常時確実に設置されていることで、中性点の電位は常にほぼ一定となります。

1線地絡発生時の電位上昇を最小限に抑えられる方式で、187kV以上の特別高圧では、全てこの方式を適用します。

一方で、1線地絡発生時は、地絡相の一相短絡となるため、故障点には数万アンペアの地絡電流が流れてしまいます。大電流のため、他の方式に比べ、地絡時のかと安定度が低い欠点があります。また、大電流は通信線に発生する電磁誘導電圧が高くなりやすい点もデメリットです。

この対策として、変圧器軍の一部を非接地とすることがあります。

抵抗接地方式(22kV~154kV)
系統の中性点と地面の間に抵抗器を挟む接地方式です。

直接接地方式の欠点である、通信線への電磁誘導電圧を抑制し、通信線への誘導障害を防止できる利点があります。中性点抵抗は100~900Ω程度で、1線地絡時の中性点電流が100~500A程度となるように整定します。

反面、抵抗器の設置は、地絡電流の抑制になるので、地絡継電器の事故検出機能は直接接地方式より低下します。

このデメリットの低減策として、零相電圧(中性点の対地電圧)と地絡電流を組み合わせて動作する方式の地絡継電器が多く使用されます。

非接地方式(6.6kV)
日本での高圧(6.6kV)は全てこの方式を取ります。1線地絡発生時の件前奏の電圧上昇率は抵抗接地方式よりも大きくなりますが、電圧が小さいため、6.6kVで使用する分には、上昇の絶対値としては小さくなります。高圧は、市街地ないし施設されるものであるため、通信線への誘導障害防止や保安の確保をより重視する狙いでこの方式を使用します。

この場合の地絡電流は系統の対地充電電流だけになります。(積極的に地面に電流を逃がさないということと思います。)

中性点から地面に線を引き出さないので、この時の線はY結線ではなくΔ結線を採用できます。

ただし、非接地とはいっても電源変電所の母線に設置する接地電圧変成器(EVT)には10kΩ程度の抵抗を接続し、接地しています。完全地絡時には、事故点には400mA程度の電流が流れることになります。

消弧リアクトル接地方式(66~110kV)
架空線系統に適用する方式です。1線地絡時に自然消弧させて、無停電で供給継続を可能にできる利点があります。

この方式では、地中線と大地の間に、抵抗器ではなくリアクトルを挿入します。そのリアクタンスは、系統の対地静電容量と並列共振する値を整定します。この構造によって、1線地絡発生時、この並列共振によって、零相インピーダンスを無限大にして地絡故障電流を流さないようにします。

実際は、直列共振を避けるため、完全な並列共振とはせず、消弧リアクトル電流が対地充電電流より数%大きくなるようにします。地絡が起きた相にはアーク放電が起こりえますが、接地アーク電流値が20A以下であれば、概ね自然消弧させられます。

この方式では、地絡事故が起こっても、遮断することなく、瞬時に消弧できるので、優れた方式のように思えますが、各相の静電容量の増加(電線の亘長に比例)とともにリアクトルの容量も大きくする必要があります。リアクトルの容量が不足し、地絡故障電流を消滅できない場合は、異常電圧が発生する危険があり、系統の安定性を阻害する恐れがあります。また、地絡故障が永久故障の場合、接地継電器が動作できないため、並列で用意した抵抗器によって、地絡相を選択遮断する必要もあります。

このように種々の欠点も存在するため、この方式は、雷害の多い地域などへの適用に限定されます。

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