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コンペ落選作品を無駄にしないために(その3)

これからの時代を見据えた クリエイターのコンペへの臨み

(2018年7月)
前回のコラムに引き続き、今回はコンペ方式に対してのクリエイター視点からの問題提起を書き綴ります。しかしあくまで著者の現時点での考え方であり、ベター、ベストであるかは賛否あるでしょう。それだけ、コンペ方式という仕組みをwin-winなビジネスモデルに持っていく難しさはありますが、自分なりの提言を記したいと思います。

コンペ形式はなくならない

 私の友人は、落選したら無償労働になってしまうコンペ方式は「先行投資」と言っていました。3年後の企業規模の発展を考えて通常業務と別に、落札すれば名前が知られる有名なコンペへ挑戦する、そういう姿勢が本来のクリエイターがコンペ方式に臨む姿勢だろうと思います。
しかし、若い個人の建築家と酒席を共にした時に不満を聞きましたが、そもそもが、大きなお金の動く建築物なんかだと新人が注文を取るのも大変で、コンペで勝負するしかないとか…。公募ガイドのような昔からのコンペ、そして昨今のクラウドでのお手軽コンペ。主に個人が応募しているのですが、先行投資でやっているケースだけでないように見受けられます。会社員が自分の会社で手がけていない分野のデザインを勉強したくてと、余暇で応募する副業パターンなら自己投資として成り立っているのですが、例えば事業規模が縮小していく紙媒体などは、昔活躍した実力あるベテランフリーランサーなどが、食いつなぐ為に応募している面も見受けられます。

コンペ方式のような不確定で、かかった経費や費やした労働がマネタイズできない可能性の高いビジネスモデルで事業を行うなんてのは、株主視点から見たら眉をしかめてしまうでしょう。もう少しビジネスモデルを発展させないと救われないと考えます。

しかし、発注者の側からなら、 ポートフォリオからの脳内想像でなく、自社の欲しいイメージ/アイディアを具体性を伴ってお金をさほど使わずに多く集まるのは魅力ではあります。(優秀なアイディアがあるかは別ですが…。)本当は、自社をよく理解している相手に頼むのがベストですが、委託先が廃業したとか、女性のフリーランサーなら結婚で遠方に引っ越したとか、全くの初めてでなくとも、新たな委託先を探さざるを得ないケースもあります。ですが、知らないデザイン事務所に声をかけるのは敷居が高いと感じる人もいるでしょう。

それに、常に決まった相手先の場合、中には甘えが生じて、真剣にお客様と向き合わず慢心してしまう業者の例もあるでしょう。広告代理店が介在する大きな企業のキャンペーンなどだと、一社だけと付き合うケースも少なく、コンペは頻繁に行われます。新興勢力の参入のチャンスとも捉えられますが、「仕事の獲得」だけが目標になってしまう悪いパターンにも陥る可能性もあります。良くも悪くも新しいモデルを作っていけない限り、コンペ方式は残っていくでしょう。 クラウドコンペ方式、低価格スキル販売といったオンラインビジネスモデルが増えていく昨今では、クリエイティブの仕事は二極化してしまうことが懸念されます。ある程度の予算があるクライアントが付き合いのある数社(数人)と、密度の濃いコミュニケーションから自社にマッチした質の高い戦略提案や制作物を提供ー検証ー最適化とサイクルで進展していけるケース。もう一方が、玉石混交の安価なオンラインコンペで希薄なコミュニケーションから失敗の可能性、継続的な関係ができない可能性も含めた取引をしていくケース。この間の溝が大きいと問題になるのかなと私は考えています。

考え続けることと提案できることこそクリエイターの本流

 コンペでなんとか仕事を獲得しようという「目標設定の間違い(=案件獲得がゴール)」をしているクリエイターの最悪のワークスタイルが、効率的に数を打とうとするケースです。悪い意味での素材使い回しなんかもそうですし、しっかりと考えない、小手先だけで早く量を作る。劣化版の大量生産体制です。もはやクリエイトでなく製造オペレーションです。1000本素振りするのは、練習の上では大事かも知れませんが、1本1本飛んでくるであろう球に自分のフォームを崩さずに集中してやる1000本と、布団叩きでバンバン意味もなく数だけ叩いているのでは全く違うのはお分かりでしょう。

本物のクリエイターとしての意識を持っている人は、そこまで「質」を軽視しないと思いますが、受け身の提案になっているケースもあります。言われたことしかやらない「指示待ちスタイル」になっていませんか?ということです。

 もちろん「言われたことを無視して、言われていないことをやってしまう」のはNGです。公開公募コンペなら規定を無視した時点で落選です。しかし、昨今のオンラインでのコンペ方式は、お気軽さが特徴の一つなのですから、「ご要望通りの案と別に、プラスアルファの提案」という事が行いやすくなりました。 稀に、私のお客様にオンラインコンペで募集されたデザイン案の選定アドバイスを求めらた事があったのですが、(デザイナーの私が差置かれているのも悲しいですけど (^_^;ゞ)ちょっとノンプロの依頼者に説明が足りていないなあと思うケースもありました。説明といっても、デザイン案件ならデザイナーの独りよがりな講釈ということではありません。

  例は、宅配弁当のチラシのデザインコンペだったのですが、依頼者さんの気に入った作品の一つが、「プロの写真家が撮影したであろう美味しそうな(シズル感)料理の写真をダミー写真として掲載」していました。人間は、文字の前にビジュアルに視点が行ってしまうのです。この場合、「美味しそうな料理の写真」により、チラシが魅力的に見えました。でも、この依頼者さんの取り扱いは宅配弁当ですし、レストランのようなお皿に盛られた豪華料理を用意なんてできないのです。

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ここでクリエイター側の「提案不足、コミュニケーション不足」が露呈したなと感じました。チラシが魅力的に見え、依頼者さんも気に入ったのは、非常に良い得点を稼いでいます。しかし、魅力的に映っている料理のイメージ写真自体は、依頼者が提供した物でなく、依頼者がその場で撮影して実現できるクオリティでもないです。ダミーで現在掲載されているプロ撮影の料理写真を依頼者が撮影したお弁当の素人写真に差し替えたら魅力的に見えるでしょうか?

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 私が昔教えを請うたアートディレクターから「こんな作品できました!」とそのまま見せるだけでは負け犬のプレゼンテーションと言われました。先の例では、見た目のイメージの誘引力のある写真で依頼者側の気持ちを惹きつけても、それを実現可能なのかまで実際に本番で仕上がってくるイメージを伝えきれていなかったのです。

実際の仕上がりを想定できない制作ではNGですが、諦める必要はないです。オンラインコンペなどの場は、単なるデザインの説明プレゼンテーションと思わないことです。営業から企画、サポート体制など全てに渡ってのプレゼンテーションとなるのです。つまりテレビショッピングで商品紹介する場です。

そう考えれば、クリエイターの説明が、「コンセプトは●●をモチーフにしたイメージで、●●には△△という由来もあり、貴社にふさわしいと企画しました。修正も、柔軟にスピーディーに対応します。」という1分で終わってしまうものになると残念です。「こんなお困り事ないですか?そんな時に」も「特別な機能が」も「さらに今日だけ特別」も「お申込みは今から限定で50台」もないのです。(意味のない割引は無用ですけど(^^ゞ)中には、簡単な仕事を低コストでとクラウドコンペに依頼するケースもあるでしょうが、「そもそも、どう売り出せばいいかわからない」「印刷もwebもさっぱりわからない」という依頼者も結構います。

先のダミー料理写真を掲載した例なら、当然「選定された時の写真はどうするか?」という話をできていなければ親切で仕上がりの期待値との落差の少ない物にはなっていきません。「(1)撮影する予算があるケース」「(2)予算がないけど市販イメージ写真を加工することで(写真はイメージです)の注釈でうまく背景等であわせる見せ方」「(3)市販イメージも使えなく素人撮影になる場合の最低限の盛り付けと光の当て方、撮影アングル、トリミングの注意点」あれやこれやをメニューを出すと迷って逆効果ですが、予算的に「松竹梅」程度のメニューは、依頼の範囲(例で言えばチラシ)を超えた部分(撮影)までも、しっかりとカバーするのも、プレゼンテーションのうちです。

 もちろん、一例ですので、いろんな手法があります。 カバーできる守備範囲が広くないなら、デザインのアイディアを様々に数をだすことで解決策につながるヒントになるケース、プレゼンの魅せ方を他社とは変えるケース、個人的な知り合いの有名人を起用できると売り込むケース。そしてクリエイティブなら、徹底的に磨き上げていくことは、どこの広告代理店でも普通にやることです。

 なんにせよ、クラウドのコンペ方式では、オリエンテーション(広告コンペの内容説明で数社を合同で会議室に集め、説明と質疑応答等をします。)がないのですが、質問欄というのは用意されています。公開コンペですから、公正に回答は情報共有されてしまいますが、クライアントの望むゴールの先への課題解決を聞き出せるかも大事です。「こんな宿題できました!」と出すだけの提案では、これからの時代残っていくのは苦しくなるかもしれません。

落選してしまった後に

どんなに熱意と理論と情報収集を駆使しても、コンペなら落選は普通にあります。そうなってしまったら、注ぎ込んだエネルギーも熱意も時間も経費も全てが無駄になるというのがコンペ方式です。

受注側視点では、非効率でビジネスモデルが破綻していると思いませんか?

スポーツ大会のトーナメント戦でもないのに、そこだけで頑張った結果を終わりにするのも残念なことです。例えばロゴやネーミングは、その製品や企業にフォーカスを集中させて作っています。しかし頭の中のアイディア帳にしっかりと、考えた物は残っていきます。

例えば就活ならば、A社でだめならB社、C社と履歴書やポートフォリオやを持って動くものです。これは大事なことで、ポジションやターゲットを変えることで売れる例が実際にあるのです。つまり、提案先のA社の場合は何かの要因により提案が採用されなかったというのが、必ずしも競合が自社を凌駕するようなアイディアを出した、あるいは自社の提案が劣っていたということでは無い場合もあるのです。会社の事情、会社の関係者の都合や意向、予算、作品以外の要因、諸々によって決定されていることもあります。実は先方社内では良い提案と思われているケースもあります。(もちろん内容によります。)

ただし、NDA(秘密保持)契約を締結していなくとも、ある企業のためのアイディアをそのままロゴを差し替えて別の企業に提案するというのは、良くない方法です。どうすれば努力した作業が報われるか、その考察は長くなってきましたので、次回に引き継ぎたいと思います。

次回コラム これからの時代、本質の価値への成果主義が残っていけるスタイル

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