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スイスのブドウ品種④ RÄUSCHLING:ラウシュリング

スイスのドイツ語圏で、27haしか生産されていない白ブドウです。
その面積の約半分は、チューリッヒ湖周辺に存在しています。
他にも、St. Gallen(ザンクト・ガレン)やSchwyz(シュヴィーツ)でもブドウ畑を見つけることができます。

Lake Zurich

個人的には、中華の前菜など、オイルのまろやかな雰囲気とこの白ブドウの持つ柑橘が合うように思います。


原産地

RÄUSCHLINGはドイツが原産です。
西暦1000年頃にDrava(Drau)川を経て
南チロル、チューレティエン(Churrätien)、ヴァレー上流に渡り、
そこからスイス北部とライン渓谷に広がったと考えられています。

Drava(Drau)川
延長:749 km
平均流量 :670 m³/s
流域面積:11,828 km²
流域:イタリア, オーストリア, スロベニア,クロアチア, ハンガリー

Dorava川

16世紀以降(1546年)になると、南プファルツ地方(Südpfalz)にもRÄUSCHLINGの記録が残っています。
そのため、中世においてこのRÄUSCHLINGは、かなりメジャーなブドウだったようです。以下のエリアで生育されていた記録が残っています。

ドイツ:アルザス、フランケン、プファルツ、ラインヘッセン、ラインガウ、Baden-Württemberg、
フランス:アルザス・ロレーヌ
スイス:ドイツ語圏のスイス(スイス西部)

スイスにおいてRÄUSCHLINGは、Müller-Thurgau(ミュラー・トゥルガウ)が普及する前には、最も古いブドウ品種の一つとされるElbling(エルブリング)と並び、最も多く生産されていました。

名前の由来

RÄUSCHLINGの名前の由来は、鬱蒼と茂る葉を吹き抜ける風の音を意味する動詞、”rauschen”に由来するとされています。

あるいは、”Rußling”(すす、または 暗い木、の意)の動詞化ともいわれます。

RÄUSCHLINGの名前が最初に登場したのは、1614年、フランケン地方のPhilipp Ernst von Hohenlohe-Langenburg伯爵(1584-1628)による著作、 ”Weingartordnungーブドウ園の規則ー”に初めて登場します。

なお、RÄUSCHLINGは、シノニム(別名)が60以上あるブドウとして知られています。

Hieronymus Bock

例えば、1550年頃は、ドイツの植物学者ヒエロニムス・ボック(Hieronymus Bock, 1498-1554)の植物図鑑に”Drutsch”または”Drutscht”として記載されていました。

また、1836年にドイツの植物学者カール・フリードリッヒ・ゴック(Karl Friedrich Gok, 1776-1849)は、秋に雨が降ると実が裂けやすいことからこの品種を ”Vitis fissilis”(裂け目)といいました。


雨によりブドウはたやすく避けてしまう

他にも、以下のような別名があります。ご参考まで。

Brauner Nürnberger / Divicina / Divojcica / Dretsch / Drutsch / Drutscht
Dünnelbling / Férdant Vert / Frankentraube / Großfränkisch
Gros Räuschling / Großer Räuschling / Großer Traminer /
Grünspat, Klöpfer / Luttenberger / Luttenbergerstock /
Lyonnaise Blanche / Melon Blanc / Offenburger / Pfäffling /
Pfaffentraube / Ruchelin / Ruschling / Rüschling / Silberweiß /
Vigne de Zuri / Weißer Räuschling / Weißwelscher / Zürirebe /
Zürichrebe / Züriwiss

RÄUSCHLINGのDNA分析結果

2013年に行われた、20のDNAマーカーを用いた分析によると、RÄUSCHLINGはホイニッシュと未知のパートナーの自然交配種だとわかりました。
実は、かねてはハイダ HEIDA (= Savagnin blanc=トラミネール)と言われていたのですが、DNA鑑定によってそちらは否定された形です。

RÄUSCHLING = Heunisch (Gouais Blanc) × 不明 ※ 自然交配

https://www.vivc.de/index.php?r=passport%2Fview&id=9874

ホイニッシュはグエブランともいわれ、Riesling(リースリング)の親の一つですから、RÄUSCHLINGとRiesling兄弟姉妹のようなものと言えます。

ハイダについてはこちら

RÄUSCHLINGから作られたワインの特徴

Lexikonより、完熟前のブドウとブドウの葉

RÄUSCHLINGの特徴の一つであるレモンのデリケートなノートは、親であるグエ・ブラン由来と言われています。
柑橘系のニュアンスがあり、一般的に際立った酸味のある軽やかなアロマのワインが生み出されます。

特徴:フレッシュな酸味と柑橘系アロマのブーケ

実は、RÄUSCHLINGは素晴らしい熟成ポテンシャルを持っているので、ワインは時間の経過とともにリースリングに似てきます。

RÄUSCHLINGは大粒で、9月末には熟す早熟から中熟のブドウです。
樹勢は、過去に親だと勘違いされていたSavangninに良く似ているようです。
この木は霜には強く、肥沃で、開花も問題なく、収量も安定しています。ただし、ボトリティス・シネレア(貴腐菌)にはやや弱いという特徴があります。

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