消しゴムのない生き物
「消しゴムってありますか」
「消しゴムですか」
「あ、なくていいんです」
「いや、あります」
「なぜあるんでしょう」
「喫茶店ですから。鉛筆があれば、消しゴムがあるでしょうね」
「喫茶店では、どういった場合に消しゴムが必要なのですか」
「お客さんから消しゴムってありますかと言われた場合ですね」
夏休みの宿題を親戚の家などでやるとき、大人たちはすぐに鉛筆を貸してくれたが消しゴムとなると探し回った。大人は消しゴムを持っていない生き物なのだとわかった。そして大人になった自分も持っていなかった。手帳とシャーペンだけ持ち歩いて、間違えたら二重線で消した。
ただならぬ雰囲気のその喫茶店には消しゴムがあって、しかも驚くほど消しやすかった。ということはこの店主に何を言っても大丈夫だと思ったので、さまざまなことを訊いた。まさかと思ったがガラケーユーザーだった。
「人生で一番面白かった本と、最近で一番面白かった本を両方教えてください」
「こっちが人生で、これが最近です」
「鳥にくさかんむりがつくことで蔦になることについてどう思いますか?」
「どうも思わないですね」
「チーズケーキとガトーショコラのどちらが好きそうに見えますか?」
「チーズケーキでしょうね」
「死ぬまでこの店を続けますか?」
「さあ…飽きたらやめるんじゃないですかね」
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