|short story|ふたご の おはなし
ふたりはそっくり
そっくりおなじ
きみはぼくで
ぼくはきみで
ほんとにまったく
おんなじで
おんなじことを
おもってて
言葉も名前も
必要なかった
ある日
虹色の世界は
突然あらわれて
そのころぼくたちには
まだ
羽が生えていた
ぼくは右から
きみは左から
ぐるりと飛んで一周し
やがてここに戻ってきた
不思議な生き物
きれいな滝
おおきな海
ちいさな花
たくさんたくさん
あまりにたくさん
見つけて
ぼくはきみに
伝えたかった
きみもぼくに
伝えたかった
けれどぼくたちに
言葉はなかった
言葉をつくって
名前をつけよう
ぼくたちは一緒に
世界をめぐって
ひとつひとつに
名前をつけた
見つけたときの
気持ちをこめて
大切に
大切に
それでぼくたちは
伝え合うことが
できるようになった
大切な言葉
大切な名前
伝え合いながら
名前をつけ続け
たくさん
たくさん
星の数ほど
名前をつけて
最初の場所へ
もどってきた
まだ名前をつけて
いないもの
あったかな
ぼくはきみを見て
きみはぼくを見た
ぼくは
とってもうつくしい音を
きみにあげた
きみは
とっても荘厳な音を
ぼくにくれた
ぼくはきみの名前を呼んで
きみはぼくの名前を呼んだ
羽が消えてしまうこと
わかっていたんだ
でも
きみの名前を
呼んでみたかった
おなじでなくなってしまうこと
わかっていたんだ
でもどうしても
きみに伝えたかった
ぼくたちの羽は
消えてしまった
もう空は飛べない
ぼくたちの羽は
目には見えない
たくさんの
たくさんの
ちいさな羽に
生まれ変わった