瞬歩堂 2話


#創作大賞2024 #漫画原作部門 #少年マンガ #少女マンガ #青年マンガ

「なるほどね」
「依頼人は人吉瞳さん、ストーカー被害にあって困ってる。で、友達の君が被害を食い止めるためにもよく一緒に居るということですね」
「はい……」
「この子、本当に人が良くて、いろんな人に好かれてるから誰なのか見当もつかなくて」
「他の探偵事務所だと相談料もかかっちゃうかもしれないから……」
「それでウチに来たと」
「はい……私のお小遣いじゃ弁護士事務所にも行けないし、まだ何もされてなくて付きまとわれてるだけだから警察に行っても意味がなくて」
 事務所のソファには、人吉 瞳と名乗る女子中学生と、日向 葵と名乗るその友達が小さく座っていた。
「ここは何でも屋さんみたいなところだって、噂で聞いて……それで」
「まぁ、便利屋です。相談料なんて取りませんよ。ねっ、シュンタロー」
「取れる相手なら取るに決まってんだろ。ガキ二人じゃそんなもん払えねーだろ。しゃあねぇ」
 輝先瞬太郎はテレポーテーションの特異体質者である。その助手、知予丸は予知夢の特異体質者である。
「お茶です……」
 コトンとお茶を出したのは、吹雪幸、不幸の特異体質者である。
 自分を見てゾッとした表情に変わる女子二人に、さっさと別室に捌けていく。
 不幸体質の幸は、自分を見る人間を不安な気持ちにさせる作用がある。
(まっず!茶柱立ってるのにまっず!!)
(美味しいお茶だなぁ)
 二人の表情を見て、輝先と知予丸はあぁやっぱり不味かったかと思いながらも話を進める。
「では瞳さんに付きまとっている相手を突き止めましょう」
「幸がいるから犯人確保までいくだろうな」
「ええ……僕の夢でも犯人が割れるかもしれませんから比較的簡単なお仕事ですね」
「ええっ捕まえるまでしてもらえるんですか」
「まぁな。ウチに任せとけ。その代わり小遣い有り金全部置いてけよ」
「はいっ……!ありがとうございます」
「じゃ、先ずは登下校のルートや家、よく行く店を教えてくれ」
「幸ちゃんがいますから、けん制のためにも僕らと一緒に出向くのが良いでしょうね」
「俺と幸が張り込みしときゃなんとかなるだろうな」
「じゃ、じゃあまずは家から……」
 瞳と葵の話を参考に簡易的な地図を作成し、一緒に出向くこととなった。
「あっ。そういえば商店街の福引。ついでに引いて行っていい?」
 葵が提案する。
「私は良いけど……いいですか?」
「僕たちは勿論」
 知予丸が承諾する。輝先もそれにならい、幸も共に付いて行くことになった。
 カランコローン。
「一等賞でーす!!」
「きゃあー!!」
「葵ー!!あんた凄いじゃない!!」
 葵が一等賞を引き、大型の空気洗浄機を当てた。
「あ……でも、重くて持って帰れないや……」
「ウチが持ちましょうか?」
「いいんですか!?」
「ああ、いや僕ではなくて、このオッサンが」
 知予丸が輝先に空気洗浄機を押し付けた。
「で、ここがよく二人で来る喫茶店で……」
 カランコローン。
「当店十周年記念日のご来店100名様記念です!100人目のお嬢様方には当店自慢のクリームソーダを一つづつ無料でプレゼント致します!」
「きゃあー!!」
「葵ー!!やったね!!超ラッキーじゃない!!」
「え、ええ!?」
「まじかよ、空気清浄機重かったんだ。ついでに休憩していこうぜ」
「え、ええ……!?」
「……」
 知予丸は混乱し、幸は押し黙った。
 特に幸は、混乱というよりも少し警戒態勢に入っていた。不幸体質であると瞬歩堂に来てから知らされた身でありながら、さっきから立て続けにラッキーを目の当たりにしていたからだ。
 喫茶店でクリームソーダを頂き、少しすると今度は葵がゲームセンターを指さした。
「ねぇ瞳、最近ゲームセンターにも寄ってなかったじゃん。今日はこの人たちがいるんだし、ちょっとやってこうよ」
「そうだね。私も最近気晴らしができてなかったから……いいですか?」
「勿論!!」
「知予丸テメー!空気清浄機持ち替われやコラ」
 青筋を浮かべる輝先に対して知予丸は二つ返事でOKを出した。
 その傍らで、女子中学生二人はUFOキャッチャーに夢中である。
「オイ……ウチが犯人とっちめたら払う金のこと考えてんのか」
「まぁまぁ。中学生相手に野暮ですよ」
 ウィーン。アームが動いていく。
 カタンと音を立てもう少しのところで景品が落ちなかった。と、思ったも束の間、アームの位置が元に戻る振動でガタガタと揺れたゲーム機によって景品が転がり落ちてきた。
「きゃあー!!」
「葵―!!調子良いじゃん!!あっこの子……いっつもUFOキャッチャーとかすると一発で景品が落ちるんです!他にも、読者応募サービスとか懸賞での商品もすっごくあたるの!さっきの商店街の一等だって、まぐれじゃないんですよ!!」
「……シュンタロー」
「……ああ」
 今回の依頼人。その友達は、幸の反対、つまり幸運の特異体質者だ。
「つーことはこのガキが友達から離れりゃストーカー被害もなくなるんじゃねーか?幸の場合は他人の不幸も吸い取ってた。こいつが他人の運を吸い取って逆に周囲が不幸になってる可能性がある」
「そうですね……ひとまず葵ちゃんの方を送り届けて引き離してみましょう」
 幸が現場に戻るのを待ち、葵を家に送り届けてた。
「ひとまず依頼人には特異体質のことは伏せておけ。そのうえで引き離す」

 数日後。
「オイ、瞳。まだ誰か付けてきやがるか」
「うーん……。まだ……っていってもおじさんが傍にいてくれるから安心だけど」
「知予丸の夢じゃ今日男が男に刺されるなんつー使えねー夢しか出てこなかったからな。俺もお前の後をつけてみたりしたがその時は犯人もツラ引っ込めやがる。犯人の顔がわからねぇからつかまえようがねぇ」
「ゆ、夢??」
「こっちの話だ、気にすんな」
 知予丸と輝先は二手に分かれて瞳と葵の送迎をここ数日何度か繰り返していた。幸は瞳が気味悪がると困るので暫くお留守番である。
 瞳と葵はクラスが違うらしく、登下校を共にしないので数日距離を設けている。
 が、瞳の話ではストーカー被害が止まないのだ。
(おかしい……葵の体質が理屈じゃ二人が近づかなきゃ自然にストーカーも無くなるはずだ)
 何か他に原因があるのか。
(いや……大前提として、葵の幸運体質はそもそも周囲に影響を及ぼさない!!そうだ、あの日も幸が一緒に居たのに何度も幸運を当てて見せた)
 幸の周囲の不幸を奪い取る体質とは別物だったという事だ。
(つーことは……)
「ちょっとクソしてくるわ」
「クソて……トイレね、おじさん。わかった、ここで待ってるから」
 パッ。瞬間移動で瞬歩堂に戻る。
「オイ幸!」
「瞬太郎」
「お前の出番だ。ストーカー被害のガキが居たろ。あの件だ。一緒に行くぞ」
「ハイ」
 パッ。
 元の場所へ幸と共に戻る。
「あ、あじさん早かったねーって……あ……キミ……」
「ウチの従業員だ。茶ぁ出したろ。クソ不味いの」
「不味いのわかってて飲ませたんかい」
「幸です」
「幸君。……よろしく……」
 瞳が握手しようと手を出した。幸は一瞬戸惑ったが、手を握り返した、その時。
「よ、よろしくって……最近変なオッサンどもが横についてると思ったら!もしかして、そいつと付き合うのか!!」
「!!!」
「ス、ストー……」
 犯人がごく近くの背後から現れた。
 瞳、葵と同じ学校の制服。男子学生だ。
「カッター!?」
 犯人は手にカッターを握りしめていた。
 瞳――ではなく、幸を狙って走ってくる。
「瞳、目ぇ閉じろ!!」
 輝先が叫ぶ。
 パッ。
 警察署の前に瞬間移動する。
 そのまま折り返して元の場所へ。
「うわぁあああ!!」
 犯人はこちらへ向かって走っている途中だった。
「最近のガキは刃物振り回すのが流行ってんのか?!買った漫画持ち歩いてて正解だな」
 ドスッ。
 カッターが漫画雑誌に突き刺さる。
「あっ……ボ、ボクは……」
 犯人の少年の狼狽した様子に突き放すように輝先は答えた。
「心配すんな、誰も刺しちゃいねーよ。それよかちょっとそこまで、付いてこいや」
 パッ。
 警察署の前に瞬間移動する。
 手を繋いだままの瞳と幸がつっ立っている。
「犯人確保だ。瞳、警察に行くぞ」
 犯人の少年の腕をひねり上げながら没収したカッターを漫画ごと拾い上げる。
「あ、あたし、今……どうやってここに……」
「詳しい話はケーサツでしろや。未然に防いだとはいえこっちぁ犯人捕まえてんだ。いくらでもやりようはあるだろ」
「瞬太郎、そいつ……」
 幸が犯人の顔をまじまじと見る。
「お前の不幸が瞳の前に犯人を引きずり出した。狙われたのはお前だ。お前が来なかったら出てこなかったろうな」
「……」
「ストーカーの犯人捜しにゃ警察は協力してくれねーだろうが、犯人のツラが割れてりゃ巡回ぐらいはするようになるだろ。ミッションコンプリートだ」

「シュンタロー!幸ちゃん!無事だったんですね!」
「知予丸」
「俺は……刺されかけたけど」
「オメーのことは俺がテレポで助けただろうが!!ま、お前の男が男に刺される予知夢も意外と役に立ったぜ。なんにせよ……一件落着だな」
「やったー!!」
「……」
 こうして幸運体質の少女と不幸体質の少年との邂逅は終わりを告げ、ストーカー事件は警察によって処理されることとなった。
 瞬歩堂はといえば、女子中学生二人から一週間分の食費を得ることに成功したのだった。

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