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「美少女戦士 セーラームーン」なぜ死ななければならなかったか

どうしてセーラー戦士が
死ななければならなかったのか、
どうしてセーラー戦士であったことを
忘れなければならなかったのか
今ならずっとよくわかる

変身シーンは1話ごとに絶対1回はあって、
でも何万回みても飽きることはなかった

どんなに辛い戦いでも
バックミュージックのコーラスの
高く澄んだ声と、
揺れるスカートや光る宝石にうっとりして

私は、女の子が強くなる瞬間に
こんなにも愛をこめて描かれていることに
毎回感心していた

カバンの中にお気に入りの口紅を
ひそませているように
どんな戦いであっても
ピッと凛々しくいられるように
そんな祈りのようなものまでも感じられた

セーラームーンは
女の子の成長を細やかに、そうして大胆に
描いている作品だった

それは時に残酷さをもっていて

最終回でセーラー戦士たちが死に、
それを背負って
うさぎちゃんは一人きりで戦い、死ぬ


絶対に死なない、
絶対にあの平凡な毎日がやってくるだろう、
そんな気持ちが吹っ飛ばされた瞬間だった


「月の光に導かれて
何度も巡り合う 幾千万の星から
あなたを見つけられる」

歌詞の意味がようやくわかった

そうして転生して、
もう一度出会う彼女たちは
厳しい目をするようになっていた

あんなに能天気だった
うさぎちゃんですら、
もう誰も死なせたくないなんて
震えた声で言うようになった

涙は流すよりもこらえるべきだと、
こらえて耐えて、
手を動かさなければいけないと
思うようになったきっかけは
もう思い出せないけれど、
私にもこんな風に境目はあったんだと思う

セーラームーンの敵側はいつも
暗くてじめじめして
誰かを蹴落とすことでしか生きていられない
人間関係の渦の中にいて

誰にも愛されない、
誰にも大切に思われていないという気持ちが
刃物となって周りを傷つけていくのをみると

こんな世の中でうさぎちゃんたちは
生きていかなければいけないんだと思った

セーラー戦士としての覚悟が見えたのが、
最終回ともうひとつ
セーラームーンRでの24話で

友だちのなるちゃんが、
敵のネフライトに恋をして、
なるちゃんによって心をほぐされた
ネフライトは裏切り者として殺され

死んだネフライトを抱きしめて泣くなるちゃんを
震えるように見守るセーラー戦士たち


戦士でもない普通の女の子のこんな涙、
もう見たくないだろうと思った
もう二度と見せてはいけないとも

この作品は話が進むごとに
彼女たちは強くなり、迷わなくなる

同時にひたひたと悲しみが後をついてくる

セーラー戦士として目覚める前を
時折思い出すこと



うさぎちゃんたちは
この戦いが終わったら普通に恋をしようと言う

ちょっとしたことが楽しくて嬉しかった
もう戻れない頃を抱える彼女たち


セーラー戦士であることを
否定はしないけれど
ほんの小さな痛みを抱えていることが見えて

セーラー戦士というのは
女の子そのものみたいだと思った

後ろも前も
何にも気にすることなく走ることが
できていた頃があった、
もうあんな風に駆け出すことはできない

だからこそこの作品の描くべきは
最終回のセーラー戦士たちの死ではなくて
そこからもう一度立ち上がって、
強く美しくなっていく成長で、

観るべきはその忠実さだった

でも、時々思い出すことがある

ステッキも変身ペンダントも責任も
何も持っていなかった
かわいいうさぎちゃんのことを

色々な孤独やコンプレックスを抱えていた
セーラー戦士たちを、
変身なんかせずに
なんの偏見も通さずに
ありのままの目で見て、
友だちになろうと言って、
「なんだかいい子だな」なんて
信じてあげたうさぎちゃんのこと


なんてやさしい子なんだろうと思った
たましいのきれいな子、
たくさんの愛情につつまれて
育ってきたんだなぁという感じ

この世の中で生きていくには
いつかどうにもならないことに絶望して、
悲しがってそうして
強くならなければいけないのだけれど  

でも、どうしてあの頃のうさぎちゃんのままで
いけないのだろうと思ってしまう

誰も失いたくはないけれど、
誰かを救うこともできていたあの頃

わたしも、
道はどこまでも続いていて、
どこまでも行けると思っていた

どこまでも行きたいと思ったことが
あったはずだった

「大丈夫だよ、みんな、私が守ってみせる」

という言葉を言うようになったけれど

「もうやだ、戦いたくないよ〜、帰ろうよ〜」

なんていう、
弱くもやさしいうさぎちゃんが
私にはもどかしくも愛おしくて
なんだかとっても、忘れがたい。

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