伝統技法と生計

志村ふくみ女史のことを唐突に思い出したので、走り書きをします。

職業としての染織に興味を持ち、調べていた時期がありました。

当時、一番印象に残ったのが志村ふくみ女史の言葉で、「織物で難しいのは糸を績むことでも染めることでも織ることでもない、売ることだ」と。

そして、結城紬の工業指導所の方に伺ったお話です。
「糸を一反分紡ぐのに三ヶ月かかって七八万、糸括りして染色して七八万、一月かけて織って七八万、統括する織元の取り分が十四五万、そして倍付けして小売りの取り分を含めて反物一反分の代金が七八十万、これを高いとみるか安いとみるかはあなた次第」と。
コンスタントに売れるものではなく、生活は非常に苦しいものになることを知った瞬間でした。

翻って先日、金工の人間国宝の講演会に行きました。その場には私は気付きませんでしたが、文化庁長官夫妻が居たそうですよ。
講演開始からややあって、私の席の裏側から野次が飛びました。

「こんなんじゃ飯が喰えないよ!」
はい、ご名答、その通りですわ。

先の人間国宝も子供に家業を継ぐことを強制しなかったと聞き及んでいます。
確かに伝統技術が後継者難によって保持されにくくなっているでしょうが、金工に関しては希望的観測ですが、当座は大丈夫だと思いますよ。

私は果たして何が出来るのだろうと自問自答をし続けています。

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