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#40.孤独を紛らわせても、孤独はどこにも行かない/Libianca - People

おはようございます。昨日、アメリカで皆既日食が起こったニュースを見た人も多いのではないでしょうか。地球と月と太陽の位置関係が起こす不思議な現象です。

考えてみれば、太陽も月も自分たちはそれぞれの動きをしているだけなのに、その動きの偶然の重なりによって地球上の人間たちが大騒ぎしているのも、太陽や月からしてみれば変に思えるかもしれません。まあ、太陽の気持ちを代弁するのもおかしな話ですが。

さて、今朝は旧作。2023年3月8日のにX(旧Twitter)へ投稿した内容を再構成したものです。


孤独を感じた経験は誰しもが持っているものだと思います。孤独を感じる理由は人それぞれだけど、いちばんわかりやすいのが身近な誰かが自分のそばから去っていった場合じゃないかな。恋人やパートナーと別れたとか、友人や家族との別れみたいなこと。

もちろん、身近な誰かとの場合だけに限らず、孤独を感じることもある。誰一人自分の考えをわかってくれないように思えるときだとか、周囲は楽しそうにしているけど、自分だけ楽しい気分にはなれないとき、みたいな。

孤独をまったく感じない人っているのかな。「自分は今までまったく孤独なんて感じたことない」と主張する人とかね。それはそれで幸福かもしれないけど、そういう人は「人間の深さ」みたいなものがなさそうな気もします。ずいぶんと「浅い人」だなあ、みたいな。

とにかく、孤独とは周囲の人間との関係の断絶から起こるもの。孤独を感じたとき、人はその孤独と向き合うか、孤独から逃げるか、あるいは孤独を紛らわせるか、くらいしか対処しようがないよね。その方法は人それぞれだろうけど。

さて、Libiancaの"People"は孤独を歌う曲。この曲の主人公はなぜ孤独を感じているのか、歌詞の中では明かされていません。この曲のタイトルは"People"。だから、人間が抱える普遍的な孤独、孤独一般のことを歌っているようにも思えます。

Libianca - People (Official Video)

この曲の主人公は深い孤独感を抱えながら、"Oh, holy father"と神みたいな普遍的な存在に呼びかけているようにも聴こえます。だから、この曲は人間が抱える根源的な孤独を歌っているとも言えるんじゃないかな。

さらに、この曲では繰り返し"Did you check on me?"とのフレーズが出てきます。直訳すれば「誰か私をチェックした?」。ここでは「自分自身の幸福や安全を誰かに確認してほしい」と訴えているようにも聞こえます。

その「誰か」というのは"holy father"、つまりは「聖なる父」に。

なぜそんなにも深い孤独を抱えることになったのか、この曲でははっきりと示されてないし、示唆されているわけでもない。それでも孤独を抱える「私」は「聖なる父」に呼びかけ続けている。自分のことを気にかけてほしい、見てほしい、気づいてほしいと。

この曲の深い孤独を抱えた主人公は、自分の抱える孤独を紛らわそうと、あるいは孤独から逃げようと、アルコールを5日間もずっと飲み続け、マリファナにさえ手を出して、充血した目で部屋を歩きまわっています。

そんな「私」は、健全な状態にあるとはとても言えない。それでも「私」は「バンガを吸わない」と言っている。「バンガ」というのはググってもそれらしいものは出てこないけど、ある種の薬物っぽい危険な雰囲気がこの曲の孤独感からは漂っています。

アルコールやマリファナに溺れているのに「バンガ」を吸わない「私」というのは、今にもちょっとした弾みで本当に危険なところへと転がり落ちてしまいそうな、そんな危うい状態にあるようにも思えます。ギリギリの状態にいるわけですね。

「バンガ」を吸えば、後戻りできない完全に危険な状態まで至ってしまうけど、孤独を抱えてアルコールを飲みすぎた「私」を、まだ「バンガ」を吸わない状態のまま、ここで引き留めてほしい。そんな孤独な声で訴えている。

でも、アルコールやマリファナで孤独を紛らわせても、あるいは孤独から逃げても、抱えている深い孤独はどこにも行かない気がするんだよね。けっきょくはちゃんと向き合わなければいけないときが来るものだし。

けれど、そうやって根本的な問題から目を逸らすのも、広く人間に普遍的な態度のような気もします。まあ、人間がみんな合理的に行動するとは限らないから、孤独を抱えてしまう面もあるのかもしれないけど。

ところで、(素人ながら)小説を書く、なんてのは典型的な孤独な作業ですね。孤独だから小説を書くのか、小説を書くと孤独になるのか、みたいなところは人それぞれかもしれないけど。これは読書も基本的には同じ。

小説を書くことは孤独と向き合っているのか、孤独から逃げているのか、みたいな境界線だってずいぶん曖昧な気がする。まあ、アルコールやマリファナよりはずっと、少なくとも肉体的には健全な気がします。精神的に健全なことなのかどうかはわかりませんが。


※ひつじのはなし|Good Morning! Musicは、水月羊(the Maverick Black Sheep)が大胆不敵にも音楽(主に洋楽)エッセイを書こうという目論見と試みです。洋楽の曲を聞いての感想や解釈のエッセイ、コラムとなります。気になった曲の歌詞の意味はそれぞれ訳してみてください。また違った見方ができるかもしれません。


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