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声優の炎上とトナラー
炎上しているポストの存在を知ったのは、フォローしている人が「キモイキモイ」とつぶやいたからだった。
「知らない女性の隣に座ったら逃げられて、見ていたら他の男性が隣に座ってきていてもまた逃げていた。不愉快。」
「そうやって男性から逃げることは人を不愉快にさせているかもと気を付けてくださいね。」
簡単に書けばこういう内容だった。
さっきヤフーニュースで謝罪を出したことを知った。遅い。
これを読んで私は中学生の頃のことを思い出してそしてその記憶が離れない。
もうずっと前の話で、中二だったけれど私は田舎育ちなので電車通学などしていない。
しかし、私は塾の夏期講習にバスで通っていた。
ある日の帰り。
その日は珍しく早く帰ることができて、明るいうちにバスに乗ることができた。
これがあと少し遅くなったら通勤客でいっぱいになるのだろう。
バスは座席は満席だったが、立って乗る分には余裕があった。
私が乗ったバス停ではもう一人男性が乗ってきた。
年のころは20代前半。いまでも忘れない。細身で真面目そうな外見だった。
乗って見渡すと、座れそうなところはない。
その時の私は参考書や辞書の詰まったバッグを足元に置けたら平気な道のりだ。この荷物、五教科の参考書、国語英和辞書、ノートなどが入って10kgはあった。
講習期間が終わったら肩にあざができていたほどだ。
一旦重いバッグを床に置き、手すりを持った。背が低いので吊り輪は持てなかった。
ふと気づくと一緒に乗った男性がぴったりくっついてくる。
バスが動き出すと私の傾きに合わせてすり寄ってきた。
なにが起きているか当時の私にはわからなかったのだが、嫌な気分にはなったので、荷物を持ち上げ肩にかけた。
少し離れるようにずれる。なるべく運転士さんや他の乗客の見えるところに。
男性は寄ってくる。
そしてあろうことか私のお尻の割れ目をスカートの上から指だけで触りだしたのだ。
なんのことかわかってないので「はあ?」という非難の目で見ると男性は目を逸らしながらにじり寄ってきた。
私は重い重いカバンでお尻をガードする。すこし肩から下げることになるので、重さが倍増する。
カバンの上から触ろうとまさぐっているのはわかるが、一冊400ページ×5教科のガードだ。安堵した。
変なことされない。
しかし少し気を緩めるとスカートの中に手を入れようとする。
昔の学生なのでひざ下丈のスカートなのに。
そうしていくらか攻防をくりかえした後、男女5人くらいが乗ってきた。
そのうちの一人の男性が私の隣の男性に「やあー!」と声をかけ、隣の男性も「おー!」と返事をする。
「なにやってるの?」「今から○○に」
という会話を交わして離れていった。
今考えてみたら5分か10分くらいのことだったのかもしれない、と思うが、当時は1時間くらいに感じた。いまでも思い出したらそれくらいに思える。
帰ってから制服を脱いだら両方の二の腕ににカバンで圧迫されたあざができていた。
そして私は変な人がいたなぁ、もう会いたくないな、という気持ちを抱えながら、誰にも言えずに今までいた。
あの声優のポストはそれを思い出させるのに十分だった。
あれが「痴漢」だとわかったのはそれから10年近く経ってからだった。
そして気づけば私はしっかりその傷を負っていた。
長い時間をかけて過去の私に嫌だったね。怖かったね。と心で慰めて、それが怒りに変わったら本当にクズだったね。と怒りをなだめて何年もかけてやっと平静でいられるようになった。
加害する方は「気楽な気持ちで」「相手も楽しいと思っている(もしくは怖がっているがそれが嬉しい)」と考えているんだと理解した。
この理解は知識としてわかったという意味で痴漢をしていいと許したわけではない。
到底許せる言動ではないが、自分の近くにいない人間だし、関わることはないだろうということで流すことにした
こんな大人になってまで記憶が鮮明に思い出させるのだ。
傷は消えない。
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