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『藝人春秋2』の書評 6 /芸能と政治に踏み込む By太田 省一(社会学者)

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 2021年2月9日、3月9日と2ヶ月連続して発売となる『藝人春秋2』上下巻の文庫化が『藝人春秋2』と『藝人春秋3』です。
 2017年発売の単行本版『藝人春秋2』上下巻には多くの書評が寄せられましたが、そのなかから順次紹介して行きたいと思います。


 
 6回目は、社会学者の太田省一さんの書評です。

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芸能と政治に踏み込む    By.太田 省一(社会学者)

                     「共同通信配信」より

 1962年岡山県生まれ。著者のプロフィルにはこうある。

 60年代前半、地方に生まれ育った人間にとって、テレビやラジオの影響力は想像以上に大きい。なかには目や耳にするものすべてを漏らさず記憶しようとし、向こう側にいる演者に憧れを募らせる人間もいる。ただ実際にその世界に飛び込む人は限られる。著者はそのまれなひとりである。

 かくして著者は芸能の観察者であり当事者でもあるという二つの顔を持った。そんな自分を007もどきの「スパイ」に見立て、テレビやラジオに棲む「芸人」(それは、ジャンルを問わずメディアのなかで独特のオーラを放つすべての人を指す)の生態を描き尽くそうとしたのが本書だ。

 ノンフィクションと評伝を織り交ぜた手法から紡ぎ出される芸人の姿はどれも鮮やかで、味わい深い。
 たとえば、タモリが落とした財布の話からリリー・フランキーのラブドールの話へとつながるくだりには抜群の面白さと同時に不思議な余韻があるし、照英がすさまじい熱量で語る冒険譚を絶妙に再現した章には笑った果に不覚にも感動させられる。
 エピローグを飾る立川談志と泰葉のエピソードも印象的だ。

 だが、そのような愛すべきエピソードばかりではない。

 テレビやラジオが生み出す芸人はいまや政治の世界に影響力を持ち、現実に政治家にもなっている。
 橋下徹をはじめとするそうした人々と共演もする著者は、その火中でもがきながらも芸人としての己を貫こうとする。
 その実体験をもとに、芸能と政治をめぐるアクチュアルな問題に踏み込んでいく著者の姿も本書の大きな読みどころだ。

 そこには、観察者であり当事者でもある著者ならではの苦汁がのぞく。
 だがそれゆえに、現在のメディアと社会の紛れもない実像が見えてくる思いにもさせられる。
 上下巻あわせて700ページ超という大部ながら、一気に読める第一級の体験的メディア論である。

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 太田省一先生の芸能にまつわる数々の著作は今も読み続けている。
 アイドル研究番組での共演経験もあります。
「共同通信配信」という全国配信紙の限られた文字数のなかで十二分に長大過ぎる拙著の魅力を語っていただいて感無量です。

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