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書評・『鬼才 伝説の編集人 斎藤十一』     (森功著 幻冬舎)

           (週刊現代 掲載版)

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 父が購読していた『週刊新潮』を12歳の時に初めて触れたボクは爾来45年間、ライバル誌『週刊文春』共々生涯の愛読誌としてきた。
 『2016年の週刊文春』(柳澤健著・光文社)は、その『文春』を洛陽の紙価を高らしめた花田紀凱と新谷学というスター編集者を主人公に、文士の寄り合いに端を発した同社が民主的な社風の下、チームワークと競争原理に則った雑誌作りをする様を詳らかにしたが、『週刊新潮』については正反対に「奥の院」からの指示による半世紀にも渡る独裁体制の手法を示唆していた。

 元『週刊新潮』編集者の森功は『鬼才 伝説の編集人 齋藤十一』(幻冬舎)で、その奥の院、「新潮の天皇」斎藤十一の生涯に追った。
 一冊の自著も遺さずシニシズムと自己韜晦を貫き、写真一枚公にしない闇の怪物。後年、佐野眞一は『アエラ』誌上で85歳の齋藤と対談を成すが、その異形ぶりを古代魚のシーラカンスに例えた。
 著者は斎藤と2000年86歳で氏が逝くまでついぞ未対面のまま。社内の斎藤伝説を胸に03年に新潮社を巣立ったが、その悔恨を本書で晴らす。  

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