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じいちゃんの掃除機の話
わたしのじいちゃんはわたしが6歳の時に死んだ。
最後の1年間くらいはほぼ病院にいて、実際に暮らしていた 5歳くらいまでの中で覚えているのは、じいちゃんの下着がふんどしだった位しかない。
そのじいちゃんは、兄を溺愛していた。
わたしの実家の家業は農家
農家の長男
それは王子
先に生まれた姉はその王子に傅く侍女のように面倒をみせられて、げっそり痩せてしまったらしい。
その頃、まだわたしは生まれていない。
その兄はじいちゃんの愛を一身に受けて育った。
兄もまたじいちゃんが大好きだった。
じいちゃんは田んぼ仕事が終わると、兄を連れて田んぼの真ん中にぽつんと立っていた居酒屋によく連れて行ってたらしい。
わたしは行った覚えはない。
そんな兄を溺愛するじいちゃんが死んだ。
死んだ後の病室の荷物を片していたのは憶えている。
その後のわたしはの記憶は、坊さんが、実家の座敷でじいちゃんの死体の前でお経を読んでいるところまで飛ぶ。
わたしはひとりで座布団に座っていた。
兄はわたしの隣で、なぜか、父の妹、つまり叔母さんの膝の上に座っていた。
お経もクライマックスにさしさかり、坊さんの叩く木魚の音色にも、熱が入る。
最後、
チーン、チーン、チーン
と、りんが鳴る。
それを合図に、大人たちは一斉に目を瞑り、手に持つ数珠を擦り合わせる。
兄は叔母さんの膝に乗り、バッチリ目を開け、坊さんの背中を見ていた。
わたしはバッチリ目を開け、兄を見ていた。
坊さんは高らかに何度もおらぶ。
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
なーむあーみーだぶーつー
じいちゃん!
兄は突然、叔母さんの膝から立ち上がり、じいちゃんの死体の上の天井を指した。
わたしはつられて天井を見たが、そこは天井でしかなかった。
叔母さんは目を瞑ったまま兄を、自分の膝にまた座らせ、うんうんと頷いて、兄の頭を撫でた。
兄はそれでも天井を見つめていた。
大人になって兄や姉とそのことを話すきっかけがあった。
姉は覚えていた。
兄は覚えていなかった。
「じいちゃんの葬式の話」
え?掃除機?
ええ?掃除機?
えええ!本当?
えーと、45年くらい前の掃除機って何であんなに真っ赤だっだでしょうね。
真っ赤なボデーに蛇腹の吸い込み口で、ロボコンみたいだって思ってました。
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うちではなぜかその真っ赤な掃除機は、じいちゃんの部屋が所定の位置みたいになってました。
じいちゃんの掃除機。
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