職場いじめ・目撃者:Does bystander behavior make a difference? How passive and active bystanders in the group moderate the effects of bullying exposure
概要
問題と目的
職場いじめが社会的文脈で生じることから、実践家は目撃者の訓練に理論を適用し、目撃者となる可能性のあるものに対し、被害者のウェルビーイングをサポートするような行動を奨励している (Scully & Rowe, 2009)
先行研究では、目撃者の行動の種類、その要因は報告されて目撃者の行動が被害者に及ぼす影響は理論として提唱されているが、実証研究が少ない
本研究は目撃者の行動が職場いじめ被害者のウェルビーイングに及ぼす影響を明らかにする
仕事の要求度-資源モデル (JD-R; Schaufeli et al., 2014)に基づき、ウェルビーイングは心身症状とウェルビーイングとする
すなわち職場いじめはdemandであり、Resoursesである目撃者の行動は要求度の結果生ずる心身の症状及びウェルビーイングに影響を及ぼすものと考える
したがって、目撃者の積極的な行動は、いじめ被害と心身症状及びワークエンゲージメントの負の関係を弱めるが、反対に消極的な行動はその関連を強めると考えられる
職場いじめ workplace bullying
職場いじめは例えば噂を広める、無視する、仲間はずれにする、被害者を犠牲にして悪ふざけをするなど幅広い言動が含まれる
しかし職場いじめは、固執及び長期にわたるという特徴があり、また時間がたつごとにエスカレートして加害者・被害者関係を超えて影響が生じ、被害者は孤立していくという特徴を持つ
職場いじめの目撃者 Workplace bullying bystanders
受動的で建設的な目撃者は、被害者の痛みを感じて共感するがつまるところ何もしない
受動的で破壊的な目撃者は、職場いじめを無視する
なお、セクハラのケースにおける受動的な目撃者の割合は66%である ((McDonald et al., 2016)
対照的に、能動的で建設的な目撃者は状況を改善しようとし、能動的で破壊的な目撃者は被害者の状況を悪化させようとする
目撃者の行動がどのように被害者に影響を及ぼすか、JD-Rモデルに従い明らかにするのが本研究の目的である
JD-Rモデル
従業員のウェルビーイングには、仕事の要求と仕事の資源という2つの要因が重要であるとするモデル
仕事の要求は、身体・社会・組織的側面から心身の努力を要するもの
仕事の資源は身体・社会・組織的側面から望ましい目標や仕事を通じた個人的成長を援助するもの
仕事の資源は仕事の要求による疲労を緩和するものとされている (仕事の要求と資源はおなじ次元の話ではないような気もするが業界の人たちはあまり疑問を抱かないのだろうか)
そして本研究では、第一に、職場環境(すなわちジョブデマンド)によりいじめが生じるという従来の職場環境仮説ではなく、職場いじめそのものがジョブデマンドであると仮定する
(意味がない、何故なら職場環境そのものが互いに関連があるわけなので)
(しかし、職場いじめよりも環境因子が先行するなら職場いじめを減少させるために環境に介入する必要が生じるが、職場いじめをデマンドととらえることでそれを直接緩和させる取り組みが重要となるのはよいことかもしれない
第二に、ジョブデマンドそのものが独立ではなく相互作用すると仮定する
実際に、仕事のデマンドと情緒的デマンドの重畳により阿武線ティーイズムが上昇することが知られている (Van Woerkom et al., 2016)
目撃者の行動によるモデレート効果
能動的・建設的な目撃者
能動的・建設的な目撃者とは、被害者を守り、いじめの状況に直接介入し、またはそれを和らげようとするものを指す
能動的・建設的な行動は職場内の資源として作用すると考えられる
また、人数が多いほど資源が増えると考えられ、職場いじめによる影響を強く緩和すると仮定される
受動的な目撃者
何もアクションを起こさない人のことを指す
職場いじめにおける傍観者効果では、目撃者は状況が深刻ではないと解釈するか、被害者にいじめの原因があると考えるか、介入しても意味がないと考えて行動が抑制されるとする (Ng et al., 2019)
職場いじめの受動的な目撃者は、被害者の孤独を強め、加害者を支持していると感じさせる
それどころか被害者のインタビューによれば、受動的な目撃者は職場いじめを観察して楽しんでいると被害者に感じさせる (D'Cruz et al., 2016)
したがって、職場いじめの受動的な目撃者そのものが被害者の状況理解へのデマンドをかすことになる
受動的な目撃者の数はデマンドを増やして資源を減らすことから、職場いじめが心身症状とワークエンゲージメントに及ぼす負の影響を強めるモデレート効果を示すと仮定できる
方法
対象者
4836名の労働者を対象とする調査
回収率は26%、1257名の労働者、238事業所が欠損なくアンケートを返送
調査の目的上、6名以上の労働者が回答した事業所を分析対象とした
55事業所、572名の従業員を最終的な分析対象とした (平均年齢42歳、SD=12.8、女性62%、各事業所に10.4名所属、55%が大学のポジションを持ち、その他はサポートする仕事
分析の結果、女性が多く (p<.001)、大学のポジションを得ているものが多かった (p<001)
尺度
short nac (9item) (Notelaers et al., 2019)
目撃者の決定:①shortNACでいじめ被害にあっていない、②グループ内でいじめ被害者がいると回答した (これで加害者か傍観者のいずれかとなる)
Active or Passive bystandarts in the group:
「私は関与しなかった。言い換えれば受動的なままだった (passive)」
「私はいじめの行動を防ぐまたは止めようとした (Active Constructive)」
「だれかがいじめ行動を始めたとき私も同調した (Active Destructive)」
「私はいじめを始めた (Perpetrator)」
572名のうち179名が目撃者としての行動に回答した
そのうち134名がいじめの目撃者であった
そのうちActive-Constructiveな目撃者は41.6%、Passiveな目撃者は58.2%、加害者もActive-Destructiveな目撃者もいなかった (うそつきがいるが仕方がない)
心身症状
ワークエンゲージメント
統制変数:組織の役職
分析方法
階層線形モデルでグループ下に個人が存在するとする
アウトカムの分散は個人レベルとグループレベルに分解される
尺度は確認的因子分析で構造を検証
モデレータ(アクティブ・パッシブな目撃者の人数)をグループレベルとし、他は個人レベルとする
切片のみのモデルから、コバリエートの投入、独立変数としてのいじめ、ランダム切片・傾きモデル、グループ変数の投入し、クロスレベルの交互作用を検証した
結果
zero-order correlation
階層線形モデル (ワークエンゲージメント)
階層線形モデル (心身症状)
model2によって、いじめ被害が心身症状を促進し、ワークエンゲージメントを抑制する効果を持つことが示された
ワークエンゲージメントは、能動的で建設的な傍観者の数と職場いじめの交互作用を投入してもbetweenのinterceptとスロープのバリアンスが有意だった
クロスレベルの職場いじめと能動的・建設的な傍観者の人数の正の交互作用が見られた
しかし、心身症状では、クロスレベルの能動的で建設的な傍観者の数といじめの交互作用は効果を持たなかった
Figure2は、能動的で建設的な傍観者の数が、いじめへの暴露がワークエンゲージメントを抑制する効果を緩和する様子を示している
ワークエンゲージメントは、受動的な傍観者といじめの交互作用をくわえてもbetweenのinterceptとスロープのバリアンスが有意だった
ワークエンゲージメントでは、クロスレベルの職場いじめと受け身的な傍観者の人数の負の交互作用が見られた
しかし心身症状では、交互作用をくわえるとbetweenのインターセプトとスロープのバリアンスは有意ではなかった。したがって、心身症状でも交互作用は有意であったがbetweenの効果が否定されているため擬陽性と考えられる
Figure3は、受動的な傍観者の数が、いじめへの暴露がワークエンゲージメントを抑制する効果を緩和する様子を示している
考察
ジョブデマンドと資源の観点から、受動的な職場いじめの傍観者の数の効果のほうが能動的で建設的な職場いじめ傍観者数の効果よりも大きい結果は、資源よりもいじめのネガティブなジョブデマンド効果が大きいことを示している
これは、被害者はいじめそのものよりも受動的な傍観者をより負担に感じるという質的研究を裏付けている
理論的貢献
ワークエンゲージメントにおいては、betweenのインターセプト・スロープのバリアンスが有意であることから、いじめとワークエンゲージメントの関連においては集団ごとに特徴を明らかにする必要があることを示している
また、JDRモデルの観点からは、デマンド*資源のインタラクションだけではなく、デマンド*デマンドのインタラクションも重要であることが示された
実践的貢献
先行研究では、加害者や被害者を対象とする職場いじめへの介入の効果は一貫していないことから、傍観者による介入は新たな経路となりうる
これを示唆する研究として、職場ではないが、大学生を対象に性的暴力に関する目撃者への能動的で建設的な行動を促すプログラムは、被害者を17%減ずる効果をもたらした (Coker et al, 2016)
職場いじめの中でも特に行動が顕著ではないincivilityのようなものは、いじめに対して能動的で建設的な行動を起こすようなグループ内での強力な規範を形成することで早期に抑制できるかもしれない (Salmivalli et al. 2011)
文献
Coker, A. L., Bush, H. M., Fisher, B. S., Swan, S. C., Williams, C. M., Clear, E. R., & DeGue, S. (2016). Multi-college bystander intervention evaluation for violence prevention. American journal of preventive medicine, 50(3), 295-302.
D'Cruz, P., Paull, M., Omari, M., & Guneri-Cangarli, B. (2016). Target experiences of workplace bullying: Insights from Australia, India and Turkey. Employee Relations, 38(5), 805-823.
McDonald, P., Charlesworth, S., & Graham, T. (2016). Action or inaction: Bystander intervention in workplace sexual harassment. The International Journal of Human Resource Management, 27(5), 548-566.
Ng, K., Niven, K., & Hoel, H. (2019). ‘I could help, but . . .’: A dynamic sensemaking model of workplace bullying bystanders. Human Relations, 73(12), 1718-1746.
Niven, N.K. and Notelaers, G. (2022). Does bystander behavior make a difference? How passive and active bystanders in the group moderate the effects of bullying exposure. Journal of Occupational Health Psychology, 27, 119-135.
Notelaers, G., Van der Heijden, B., Hoel, H., & Einarsen, S. (2019). Measuring bullying at work with the short-negative acts questionnaire: identification of targets and criterion validity. Work & Stress, 33(1), 58-75.
Salmivalli, C., Voeten, M., & Poskiparta, E. (2011). Bystanders matter: Associations between reinforcing, defending, and the frequency of bullying behavior in classrooms. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 40(5), 668-676.
Schaufeli, W. B., & Taris, T. W. (2014). A critical review of the job demands-resources model: Implications for improving work and health. In Bauer, G. F., & Hämmig, O.
Scully, M., & Rowe, M. (2009). Bystander training within organizations. Journal of the International Ombudsman Association, 2(1), 89-95.
Van Woerkom, M., Bakker, A. B., & Nishii, L. H. (2016). Accumulative job demands and support for strength use: Fine-tuning the job demands-resources model using conservation of resources theory. Journal of Applied Psychology, 101(1), 141-150.
Appendix A Short-NAC
所感
階層線形モデル分析はとても面白い
この領域はあとは加害者分析
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