ギター掻き鳴らし男

あれは2018年のことである。
当日、仕事関係で地方配属となってから一年。生活には慣れたものの、仕事は一向に慣れず、上手くいかないことばかり。精神的にも参っていた時のこと。
落ち込んで、でも愚痴を言える様な友人も周りにはおらず、一人悶々とする夜。ベランダに出て、ぼぅとしていた時、耳にギターの音色が入ってきた。しかも男性の歌声付きである。

御世辞にもそのギターと歌声は上手いわけではなかったのだが…なんだろう、上手く言えないのだが、魂の叫びを感じるのだ。文字通りギターを"掻き鳴らしている"のである。
この演奏にこそ、ギターを掻き鳴らすという言葉が良く似合う。

彼もギタリストとしての夢があったが、破れてしまったのか…。背景を知ることはできないが、魂の叫びともいえるその演奏に、私は涙し勇気を貰った。

その日以来、彼の掻き鳴らしを聴くことはできなかったが、私はこの日の出来事を一生忘れない。
彼のファン一号になれていたら嬉しく思う。

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