ワンナイトたこ焼き
同期のほたる火の鳥越タイチロウとしゃぶしゃぶを食べに行くと、その店は肉をしゃぶしゃぶしたい外国人で溢れかえっていた。
混雑しすぎて、客が別の客を箸でつかみ鍋に入れてしまうハプニングが多発する始末。
「こんな環境で肉をしゃぶしゃぶしてられっかよ!!!」
憤った私は、肉をしゃぶしゃぶしたがっていたタイチロウを引きずり、足早に同期のシェアハウスへと向かった────。
*
「いらっしゃい、よく来たね。さあお上がり」
にこやかな顔で言ってほしかったセリフだったが、悲しいかな真顔で言いながら出迎えてくれたのは同期のスーパーフライデー深田だ。
部屋の奥に目をやると、腕を組んでこちらを睨みつけながら仁王立ちしている男が一人。
そう、その男は紛れもなく、アイアンパラドックス堤である。
「二人が今日たこ焼きパーティーをするような気がしたから、来ちゃいました!エヘヘ!」
私がそう言うと、堤の顔がほころんだ。
「なんだ、たこ焼きパーティーするのがバレてたのか。俺はてっきり、水分とタイチロウが俺の大事にしてる勝負パンツを盗みに来たのかなと思ったわ」
普通に意味がわからなかったので、愛想笑いをしながら中指を立てておいた。
彼らがルームシェアしている『むっちゃ大阪やん!あんまし訳わからんこと言わんとってや〜マンション1061号室』には普段からよく遊びに行かせてもらっている。
そして堤はこのマンションに引っ越すにあたって、要らなくなったキューティーハニーのCDを私にくれた優しい男である。
空腹で音を出すお腹をさすりながら食卓を見ると、さあ今からたこ焼きパーティーしまっせ!という状態が出来上がっていてとてもラッキーだった。
「俺が焼くから、みんなどんどん食べてくれ!」
HBのえんぴつで書いたようなうっすいうっすい顔をした堤が、目にも止まらぬ速さでぐちゃぐちゃのたこ焼きを大量生産してくれた。
「そうだ、みんなワンナイト人狼って知ってる?」
ぐちゃぐちゃたこ焼きにテンションが下がり重たい空気になった一同を気遣い、タイチロウがワンナイト人狼を提案した。
一通りルール説明を聞いた堤が言う。
「今回はワンナイト人狼じゃなくて、ワンナイトたこ焼きやろうや。」
他の三人で顔を見合わせながら、どういうこと?こいつ何言ってんの?一回ブタ箱にぶちこむか?とアイコンタクトをしていると、堤が話を続ける。
「俺が提案するワンナイトたこ焼きっていうのはな?調味料側とたこ焼き側に分かれて勝負すんねん。調味料側にはソース、マヨネーズ、かつおぶし、青のりとか役職があって。だから、えっと…ん?なんだっけ?俺、なんの話をしてるんだっけ?まあええわ。あれ?えーと…ん?あーだから、俺が…え、ちょーまって(笑)あれ?あー、ん?」
堤が話を終える頃には、私とタイチロウは靴を履き終えていた。
堤を無視し、深田にだけバイバイを言って『むっちゃ大阪やん!あんまし訳わからんこと言わんとってや〜マンション』を後にした。
帰り道、自転車を漕ぎながらふと独り言を呟く。
「堤、クスリやってんのかな?」
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