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七夕の夜、父のことを思い出した

父が亡くなる前の年。

父と一緒に、父の生まれ故郷を旅した。

「生きているうちに親戚に会いたい」という、父の願いを叶えるため。


旅行したのは、ちょうど七夕の頃。

ホテルのロビーには立派な笹が飾られていて、短冊とペンが置いてあった。

せっかくだから…と、二人で短冊に願い事を書くことにした。

父は、「早く●●(母の名前)の体調が良くなりますように」。

私は、「いつも笑顔で過ごせますように」と。


父は、とても不器用な生き方しかできない人だった。

愛情深いのに、それを上手に伝えられない人なのだ。

面と向かって、母に気遣うような言葉をかけるようなことはなかったから、そんな父の姿を見ることができて良かった。


この旅行中、私は写真をたくさん撮った。

そして、その中の1枚が父の遺影になった。

とてもいい笑顔の写真だ。

あの日、旅行へ行ってなければ、父の遺影写真探しに苦労したと思う。

そして、私には深い後悔が残っただろう。


父が「生きているうちに親戚に会いたい」と言った時、余命宣告を受けていたわけではなかった。

でも、本人には「自分に死が近づいていること」はわかるのかもしれない。

きっと、わかるのだ。

大切な家族にお礼とお別れを告げることができて良かったね、お父さん。



今年の七夕の夜は、珍しく晴れた。

東京で天の川を見ることは難しいと思いながらも、淡い期待を胸に川岸を1時間近く散歩した。

天の川どころか星を1つも見つけることはできなかったけれど、涼しい夜風が心地良かった。

来年こそ、短冊に何か願い事を書いてみようかな…

このところ泣いてばかりだから、また「いつも笑顔で過ごせますように」って書こうかな。



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