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フィジー留学体験記⑭

〜前回のあらすじ〜
筆者は自己都合で約束を破ったクソ人間である。それでも達成したい目標があった。

9/14(木)【14日目】

今日は5時半に目が覚めた。

4時半くらいに何かずっとアラームが鳴ってたので目が覚めてしまった。

部屋を出るとママが慌てて準備をしていた。


寝坊したそうだ。
大変だなあなんて他人事のように朝の準備を続けたが、ママはいつも4時半に起きていることに気がついた。



えっしんど。
子供も十分に育った専業主婦はそこまで忙しくないのだと思っていたけどめっちゃ大変やん。

この家広いし庭もでっかくてたくさん植物あるもんなあ。管理大変なんやろな。

前、ディーと結婚するのいいなって軽く考えてたけどやっぱ無理だ。


朝ごはんはロティ2枚、卵焼き、昨日の家でもらったらしいえんどう豆の炒めもの、バナナ、紅茶。
紅茶に砂糖を入れてもらったのだが、いつもこんなに入ってるんやとびっくりした。


学校には7時に過ぎについた。

ケイ君が来たら話しかけようと思い、教室の前に置いてあった椅子に座りスマホをいじった。

辺りを見回し、誰もいないことを確認してからグロスを塗り直した。
なんとなく化粧をしているところを見られるのが恥ずかしい。

けれど好きな子のためにメイクをするのが女の子っぽくてテンションが上がった。
ときめきに乏しい人生だったのでこの時間が楽しい。


人が集まってきて、ここにいるのがちょっと恥ずかしくなったので教室に戻ろうと立つと、横にケイ君が立っていた。

心臓が飛び出るほどびっくりしたけれど、がんばって平常を装った。

手を振ると振り返してくれたので頑張って近づいた。


あいさつや簡単な会話をしながらケイ君の教室に一緒に向かった。

頑張れ、今根性見せないつ頑張んねん!

声が震えないように今日の放課後予定あるかと聞いた。
ケイ君は町にお土産を買いにいく、と言った。


やった、チャンスだ!

私もついていって良いかと聞くと、ちょっと驚いた顔をしたが、

ああ、今日アイもオオもいないもんな。いいよ、一緒に行こう。

と言って納得してくれた。

あーありがとう二人とも!今日休んでくれて!昨日アイちゃんはホストシスターの留学の見送り、オオ君は温泉に行くと言ってたから学校一人で不安だったんだけど、ほんとにありがとう...



その後、ケイ君は教室にすぐ入らず、教室の前の段差に座ってくれた。私はちゃっかり横に座って少し話をした。


めちゃくちゃ楽しい時間だった。声が2トーンくらい高くなりそうだったから必死に抑えた。

少しするとケイ君の友達が集まってきたのでちょっと鬱陶しかった。
けどまあ、放課後時間あるもんねー!


午前の授業が終わると卒業式が行われた。
今週帰国組達で集まって講堂に向かう。

この式はほぼ毎週行われている。先週温泉でサボったときはこの卒業式の時間だった。

式は長かった。卒業証書授与、スピーチ、歌。楽しかったといえばそうだけど、そんなことよりだった。


式の後、クラスのみんなと喋った。

隣の席の子が寂しがってくれて嬉しかった。
あまり喋ったことが無かったのに写真を撮ろうと言ってくれてた子もいて嬉しかった。
違うクラスの子がスナック菓子をくれた。先生はずっと大きな声で喋っていた。



こんなに簡単に人と仲良くなれる日が来るなんて思っていなかった。

しかも、男女がこれだけ揃っているのに、私の嫌いな"合コンの雰囲気"が一度も無かった。
(男女が集い、お互い品定めをするときの、あのぬめりのある空気を筆者は合コンの雰囲気と呼んでいるのです)



これはすごいことだと思う。
海外を志す若者は、なぜか日本では敬遠される傾向にあるけれど、彼らはみんな本当に純粋なんだろう。
その純粋さがひねくれ者には煩わしいのだと思う。私も前までそうだった。


英語を喋っているからか私の人格もちょっと変わっていた。
それがすごく嬉しかった。

私は確かに明るい陽の元で笑っていた。
ここの、私が生活している圏内のフィジーは世界で一番幸せな場所だ。


カラフルでボロい校舎を周る。隣の高校から笑い声が聞こえる。
空き教室の静謐。夏の終わりの温度。ユートピアに一番近い場所。


卒業式の後、あわてて荷物を取りに教室帰ると長期滞在のベテラン組がいた。本当に温かい言葉をかけてくれて嬉しかった。今でも覚えている。



戻るとケイ君と目が合った。

心臓がきゅっとなった。

ケイ君は行く?とだけ言う、私の好きな声で。

私はなんだか胸がいっぱいになって黙って頷くことしかできなかった。


そうして一緒に街へ向かった。

その時は気がついていなかったのだけど、ケイ君は必ず車道側を歩いてくれていた。そしてこれもあとから気がついたことだが、歩幅も合わせてくれていた。

何にも関心がないように見えてそういうところはちゃんと見えている、そんなところがたまらなく好きだと思った。


あの人、たまに呼び出し、することだけするあの人とは全く違う。
あの人はそれすらも一環なのだ。ジェントルマンを演じることも自分への快楽に繋がっていただけだ。

それを分かっていたけど、やっぱり嬉しかったのだ、女の子扱いをされることは。
でももういらない。今決めた、もう連絡はしない。少しずつでいいから私もまともな人間になりたい。


話すのはとても楽しかった。

いろいろと合うのだ。
うちの特殊な学部にとても近い勉強をしているし、成人式や同窓会には出ない(そんな風に見えなかったからとてもびっくりした)、無駄な飲み会には出ないところも同じだった。
ライン画面の嗜好や会話のテンポも好きだった。

ドキドキして心臓がもたないのに、すごく心地が良くて不思議だった。


そして多分、私が好いていることに気がついている。態度に出し過ぎだろうか。


スーパーでお土産を買うとき、

帰ったら会う子いるんだけど、女の子へのお土産って何がいいと思う?

と聞いてきた。


ああ、確認と牽制をしているのだと思った。
それが悲しかった。

ケイ君は私を面倒くさく思っていて、はっきり言葉にして欲しくないのだろうか。

いや違う、多分反対で、待っている。私が嫌ならもっと分かりやすく拒絶するはずだ。
その続きを言わせたいのだと思った。



女の子って彼女?と聞いた。
正式にはまだ違うと言う。何よそれ。


どうせ付き合えるとは思っていなかった。
地理的にも遠すぎる。日本人だけど遠いところに住んでいる。

もーええわ、嫌われたら一人で帰ろ。

服屋を出た帰り道、

私ケイ君のことかっこいいなって思ってたから、彼女おるのちょっと残念やわ

と言った。

ケイ君は笑っていた。
なんか言っていたがあまり覚えていない。
答えがわかって嬉しいという感じだったからこれで正解だったのだと思う。
ちょっと胸が痛んだ。


タイプってどんな人、と聞かれ、悔しかったから、タイプだから好きになったんやでと答えた。
ちょっと焦っててすっきりした。


その後も気まずくなることなく、一緒にゆっくり帰っってくれた。
歩幅を合わせてくれることをいいことに、私はいつもよりゆっくり進んだ。



別れるとき、さよならをしてから引き止めて、やっぱりLINE教えてと言った。

交換してから2度目のさよならは、さっきよりしっかりと目があって嬉しかった。

部屋に入り、さっきまでの光景を反芻する。


すごく好きだと思った。

髪も服も言葉も全部好きだと思った。
この気持ちを正確に表すには言葉がいくつあっても足りなかった。
きゅっとなったままの心臓を抱えたまま泣いた。
明日で会えなくなる事実が辛くてたまらなかった。


シャワーを浴びて夜ご飯を食べる。
ごはん、チキンカレー、サラダ。ぶつ切りの骨付きチキンを食べるのも最後かと思うと寂しかった。


パパが家に帰ると散歩に行こうと言った。

いつものシーサイドウォーキングかと思うと、その近くにある少し高そうなレストランに入った。


えっ、こんないいとこ行くんやったらちゃんとした格好するのに。めっちゃ部屋着や恥ずかしい。


ラムチョップ、ソーセージ、フィッシュ、キャッサバポテト、タロイモのプレートが出てきた。
ラムチョップがすごく美味しかった。食後のマサラチャイもすごく美味しかった。


私が帰ってしまうから最後のパーティだと言った。
本当にお別れ会をしてくれるとは思わなかった。いろんな思いが巡ってまた少し、泣いてしまいそうになった。



家に帰ると映画を見た。
今日は最後だ、途中で抜けないようにしよう。


見終わったあと、パパからキリスト教のこととキャッシュレス決済の進化について話を聞いた。なんでキャッシュレス決済なんだろう。



パパはかっこいい。優しいし面白いし明るい。
銀行の仕事は大変だろうけどそれを態度に出さないところが素敵だ。

ママは素敵。優しいし面白いし明るい、パパと同じだ。

お見合い結婚らしいが、こんなにぴったりの夫婦はなかなかいないだろう。
パパはママを一番に優先し、ママはパパを一番尊敬している。
こんな家族を私は作りたい。



明日ここを出るなんて信じたくない。
パパやママ、友達、学校、ケイ君、全部今がピークに楽しいのに。


○フィジー'sメモ○
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