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紅茶のティーバッグ

早く退勤できた日の衝動。 疲れ切った昨日と明日なんて忘れた。 今日は、紅茶を淹れて、 お菓子をあけて、本を読もう。 昨日と明日の私は もし時間があればとにかく寝たいって 言っているけど、まあいいよね。 家に帰ったらお湯を沸かす。 早く帰るためにとことん働いた私は 熱が出ているのではないかと思うくらいほてっているし おまけに少し震えている。 ストックしてある紅茶を選ぶ。 直感で選ぶ。脳みそは使わない。 ここにストックしたあの日の自分を信じてる。 お湯が沸いた。 お気

    • てんとう虫

      最近は働いてばかり。 退勤したと思ったら 寝て起きて、また出勤している。 オフィスに向かう。 くるくるまわる自分の足を見ながら体を運ぶ。 建物の入り口には階段がある。 タイルが貼られた階段。 そのタイルの隙間にビビットな赤。 てんとう虫が挟まっていた。 人が流れる中で、 一瞬の鮮やかな色を思い出す。 てんとう虫は おそらく挟まっていたわけではなくて、 ただそこにいただけだろう。 ふと現れたてんとう虫には申し訳ないけれど 私は慰め合いたかったのだと思う。 自由なてん

      • 空に溶ける

        仕事納めの日は午後休だった。 私は午後休が嬉しくて、髪を切りに行った。 帰り道はまだ16時。 いつも渋滞する道も空いていて 車は滑るように走る。 仕事で来たこの土地の空は今日も広い。 雲はなく、 水色のミルクセーキの中に 桃色の砂糖を溶かしたみたいだった。 思い出すのは前に住んでいた場所と 家族と友人と、目の前の仕事と暮らし。 私は、空に溶けた。 私自身も気付かぬようにそっと。

        • 睫毛

          助手席に乗り込む朝、 車のエンジンがかかり、 私もふるえてエンジンがかかったみたい。 流れ出すあなたが好きなプレイリスト。 差し込む陽の光が眩しくて、 助手席から寄りかかった セーターはふかふか、心地良くて、 右側に意識を集中させたくて、 瞼を下ろしてみる。 重なる光。 水滴のように睫毛について ゆらゆら柔らかい。 もっと見ていたくて、 ふかふかセーターの中、睫毛を伏せる。 閉じると見える私だけの世界。 流れ始める好きになった曲。 私は内緒で睫毛を伏せた。

        紅茶のティーバッグ

          恋とか愛とか、無償とか①これが恋だと思った

          よく、恋とか愛とか、無償とか この好きはどうなのか、お風呂の中で考えてきた。 これまで色々な好きがあった。 私は基本的に人が好きだ。 自分と違うところに魅力に魅力を感じる。 そして私はいつも、どの好きが恋なのか知りたい。 初めてこれが恋かと思ったのは 中学生、国語の音読の時間。 その子の順番が心地よくて楽しみでしょうがなかった。 声が好きだった。 女の子みたいに綺麗な子で 照れると赤くなるのが可愛くて 何度も見たくて話したかけた。 シンプルなときめきだった。 今とな

          恋とか愛とか、無償とか①これが恋だと思った

          虫の鳴く声

          退勤。 退勤とは大抵の場合 やることが終わって帰るわけではない。 頭がだんだんと回らなくなって もう帰らざるをえないだけ。 パラパラと帰り道を歩く人。 みんなそれぞれ今日も働いて どこかに帰って行くと思うと 働くってなんなんだろうなと頭の中に浮かぶ。 答えは求めない。 考えるエネルギーはもうない。 りりっ 歩道の横、左足の隣、 草むらから虫の声が聞こえた 鈴虫かしら どうだろう、、 途端 虫の声が広がる。 向こうにも、、向こうにも、、 流れ星が降ってきた

          虫の鳴く声

          目の覚まし方

          アラームは本当に起きなければならない15分前。 手を伸ばす。 隣にふわふわ。 柔らかい髪。 ふわふわしながら目を覚ます。 もっとふわふわしたくて ぼんやりした朝が鮮明になっていく。 内緒の方法。 あなたは朝が弱いから あなたの朝が 心地良くやってきたらいいな。 ふわふわしながら思う。 あなたがこの朝を好きになってくれたら。

          目の覚まし方

          アスファルトを割る木の根。 逞しくていいな。と思った。 いつも目に留まるものは沢山ある。 私の心に留まるのは 風に揺れる柔らかい草。 傘についた水の粒になりたい。 素敵なものなんて溢れているから 流されて、分からなくなる。 心が惹かれるものを見つめて。 私だけの毎日にしたい。

          通勤

          ドアを開ける。 全然明るい気持ちになんてなれないが 朝は眩しく透明な光の膜が降りている。 水のような桃のような 春、新しい教室に入った あの時の色によく似ている。 気分が上がらない時は上を見る。 何かでよく聞いたあの歌が私の文化になったのだろう。 電線を辿る。 今日は、曲がる場所、この先に続く場所が もうわかってしまっているのが残念だが どこまでも続く電線は私の気持ちを落ち着かせた。 電線の奥、 朝焼けのちぎりパンの雲。 休日にはパン屋に行きたい。

          工場夜景

          退勤。 イヤホンをしてバスに乗る。 目を瞑って、音楽を流して 何もかもを無くしたい。 まだ、降車のアナウンスのために ほんの少しの意識を残す。 バスを降りる。 誰もいない、暗い道。 体に溜まった毒素を、ゆっくりと流していく。 イヤホンから流れる音楽を塗って 溶かして、蒸発して、無くなっていく。 今ここにあるのは何か。 夜。 少し冷たい空気。 アスファルトの白線。 フェンスからはみ出す雑草。 まばらに停まった駐車場。 住宅街。 駐車場の奥、住宅街の屋根の隙間に のぼる

          工場夜景

          金木犀

          夜の空気が少し冷たくなった。 見上げれば、やはり星が綺麗だ。 あんなに鬱陶しくまとわりついていた夏も、いなくなってしまうと思うと、少し寂しい気持ちになるのは何かに似ている。 ひんやりとした夜を泳ぎたくて歩く。 地面をふむ足は確かにここにあって、あとは浮いて離れて流れている。 金木犀の香り。 秋の夜に流れ出した私の全てが、巻き戻されるように体の中に戻ってきた。 水中の私が広い空の下に放り出される。 香りの記憶。あの秋の記憶。