見出し画像

棋士の世代交代(2)羽生さんのA級陥落(前編)

 
 2月4日の順位戦で最終戦を待たず、羽生さんのA級陥落が決まった。すでにネットのニュースでも大きく取り扱われ、広く知られている。
 将棋ファンにとって、とてもショッキングな出来事だった。
 
 
 まず、棋界の説明から。
 
 将棋界には、いくつかの棋戦があって、将棋のルールは同じだがタイトルを獲るまでのシステムがちがう。
 サッカーで例えると分かりやすい。サッカーは1年通して戦う『リーグ戦』の他に、『天皇杯』や、以前は『ナビスコ』と言っていた『カップ』があり、3冠タイトルと言われる。それらは、サッカーのルールは一緒だが、優勝するまでの、勝ち上がっていくシステムがちがう。それと、将棋の棋戦は同じだ。
 
 今回羽生さんで話題になった順位戦は、一般には『名人戦』と言われいる、サッカーで言うところの『リーグ戦』だ。1年を通して、総当たりで勝ち星の多さを競うカタチのもの。
 この将棋の『名人戦』は、相撲の本場所との方が、Jリーグより似ていると思う。『名人戦』には、相撲のようなクラスがあるからだ。もちろんJリーグにもクラスがあって入れ替え戦をするが、相撲の方が似ているのは、クラスによっては総当たりではないところだ。将棋のクラスは、下の方は総当たりではない。
 
 相撲の場合は、トップクラスの平幕はかなり大所帯だ。その大所帯で、一括りにされている。例えば前頭15枚目が全勝で突っ走っていたら、千秋楽に近付くにつれて3役と当てられることもある。また、横綱が優勝しても、前頭15枚目が優勝しても、平幕優勝ということは一緒。「同じクラス」だからだ。
 
 将棋の場合は、トップクラスは10人。決められている。これはずっと変わらない。このトップクラスを、「A級」という。
 クラスは1年を通して同じクラスの棋士と戦う。「A級」は10人が総当たり。そして最も勝ち星の多かった者が名人挑戦者となり、負け数の多かった2人が下位の「B級1組」に落ちる。勝ち数で並んだときは決定戦をやり、負け数で並んだときは昨年度のA級での勝ち星で判断する。相撲の大関横綱昇進のような、曖昧な部分はない。成績の上下動は数字の優劣だけ。
 
 ここまでが、説明。こんなカタチなのです。
 
 
 羽生さんは、このトップクラスの「A級」に29年間、途切れることなく居続けた。相撲でいう、横綱大関クラスばかりが集まる最上クラスの中で、29年間、下位2名になることがなかった。
 それが今期、下位2名に入ってしまい、陥落となった。
 
 29年間というのは歴代5指入るに大記録だが、羽生さんの実績を考えるともの足りない年数だ。羽生さんはよく大山康晴と比べられるが、大山康晴は44期。69歳で亡くなるまでA級に居続けた。多くのファンは、羽生さんも亡くなるまで40期も50期もA級に留まるだろうと思っていたはずだ。それほどの、飛び抜けた実績だった。まさか、実績ではかなり差がある加藤一二三や谷川浩司より前に、A級在位記録が途切れるとは思ってもいなかった。一応付け加えるが、これは羽生さんをモノサシに話を組み立てているからということで、加藤一二三や谷川浩司も類まれな実績を持つ棋士だ。加藤さんはA級在位36期で、谷川さんは32期。また、ともに名人経験者。
 
 もっとも、落ちたとはいえ、また下位クラスで上位2名に入ればA級に戻れる。そうなったら、30期、31期と、在位記録が増えていくわけだ。加藤一二三は何度かB級1組に落ちているので、36期は通算の成績だ。
 多くのファンは、再びA級に返り咲くだろうと言っているが、そう簡単にいくだろうか。ぼくは正直、むずかしいと見ている。
 ぼく自身は、羽生さんに返り咲りを果たしてもらいたいと思っている。もっと言えば、タイトル戦に顔を出してもらいたいとも思っている。しかし、それはとてもむずかしいと、思っている。
 
 (長くなったので、後半へ)
 

 

 

この記事が参加している募集

書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。