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師匠湯川博士とのファーストコンタクト(4)

 
 お酒大好きの人が多いみたいで、懇親会は盛り上がっていた。将棋だけに興味のある求道者たちの団体ではないことにホッとしながら、ぼくも缶ビールをあおっていた。
 
 周囲で話されている将棋の会話も、「あの手が」とか「鷺ノ宮定跡の」とかではなく、棋士のうわさ話や好きな女流棋士など、くだけたものだった。
 
 そこで若手の幹事が、初参加のぼくにあいさつに来た。もっとも若手といっても、ぼくと同じくらいだ。その彼と話しながら、いくつか質問された。なにがきっかけで将ペンに入ったのか、とか、交流会に来てみようと思ったのは何故か、とか、まぁ一般的な質問だ。ぼくは正直に、木村弁護士のファンなので、会ってみたいと思って来た、と言った。
 
 じゃあ木村センセイを呼んでくると幹事は言ってくれたが、残念ながら木村センセイは将棋を指していた。そこで、他に話してみたい人はいるかと幹事が言ったので、ぼくは湯川さんを指名した。
 
 湯川博士さんは他の人と話していた。それをその若手幹事が引っ張ってきた。
 
 湯川さんはかなり酒が入っているようで、大きな声であいさつしてきた。のちにそれは、「素」でも同じであることを知る。
 
 ぼくは、湯川さんの著作を何冊も読んだことを話した。もちろん、その内容にも触れた。その書評然とした言葉に、湯川さんが本好きだと気が付いたみたいで、会報になにか書けと言ってきた。
 
 どういうのを書いたらいいのでしょうかと、ぼくが聞くと、
 
「なんでもいいよ、将棋のことなら。あんた会報読んでるでしょ。その中に好きな作品なかった? あったら、それみたいなの書けばいいんだよ」
 
 そう言ったので、すごく気に入った作品があると言った。湯川さんの声が大きいので、周囲は話を控え(というより、できなかったのだ)、こちらの話に聞き入っていた。
 
「なんていう作品?」
 
 湯川さんが聞く。
 
 ぼくは困った。タイトルまでは覚えていなかったからだ。それで、その話の概要を伝えた。主人公が親戚のおじさんと毎週日曜に将棋を指す話だ、と。
 
 その投稿作品は、ほのぼのとした内容だがテンポがよく、ちょっとした緊迫感も合わせ持っていた。無駄なことばもなく、かなりの書き手だと思っていた。こういった書き手が将棋ペンクラブという団体の「ペン」の部分のレベルを伝えているが、それと同時にこういった場への参加を躊躇させてもいた。
 
「それ、おれの投稿だ」
 
 ぼくの横で、さっきのノンアルコールの男が言った。胸の名札には「大沢一公」とあった。
 
 そこでぼくは、のちに将棋ブログの有名人となる大沢さんを知ったのだ。

書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。