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埋もれた将棋名作ルポ『泪橋のバラード』その1 (全7編)

 
 今朝、ネットニュースで足立区のことが出ていた。

 
 タイトルの冒頭、「治安が悪いって言ったの誰!」とあった。一般に犯罪や貧困のイメージがもたれている足立区だが、現在、区のさまざまな取り組みによって変わってきているという内容。単なるイメージの払しょくではなく、実際に犯罪件数も劇的に減っているということだ。治安が悪いと言っていた一人がぼくです。すみません……。
 
 ただ、そんなマイナスイメージが本当に足立区に存在していたことも事実だ。本や話から、足立区の冴えない部分を目にし、耳にした。
 以前深夜に流していたNHKのアーカイブで、足立区の小学校の白黒ドキュメンタリーを観たことがあった。貧困地域なので、児童も学校もさまざまな問題を抱えているという内容だった。Wikipediaにも、「刑法犯罪の認知件数が東京都内で連続ワーストワンとなっていた時期があった」とか、「区民の平均寿命が短く、糖尿病や子どもの肥満が増加傾向にある」などという記述がある。
 
 先日記事にした湯川博士師匠の『なぜか将棋人生』という将棋の名ルポのなかに、足立区を扱った章がある。1986年刊の本なので、まだまだマイナスイメージそのままの足立区だ。
 「泪橋のバラード」というそのルポルタージュは、ぼくの読んだ将棋を扱った文章の中でベストと言っていい。とりわけ強烈な印象を残す作品だ。もっとも、憂いのあるもの、冴えないもの、寂れているものに心揺らされるぼくなので、万人が評価する文章ではないと思う。しかし、少しでも憂いある文章に関心のある人であれば、読後にうーんと唸ってくれると思う。
 
 この作品が生まれたのは、足立区が貧困地帯だったからだ。ネットで書かれているように足立区が変貌してしまったのであれば、住民にとっては喜ばしいことだ。でも、馴染みの飲み屋が改装してこざっぱりしてしてしまったようなもので、勝手なのは重々承知だが、ちょっとさみしい。
 
 作品を生み出した湯川博士師匠には、自分のものは好きに使っていいと言われているし、また引用の形であれば問題ないので、数回に分けて紹介していこうと思う。こんな作品が埋もれてしまうのはもったいない。
 
 この本では章のタイトルのあと、フォントの小さい文字で章の要約が載っている。「泪橋のバラード」では、こう書かれている。
 

 山谷のドヤ街の真中に、日本でただ一か所24時間いつでもOKというクラブがある。昔は真剣をやっていたという話もある。いったいどんな所で、どんな人達が指しているんだろう。一晩ごやっかいになることにした。

 
 この文章はもったいない。これは「ヒキ」の強い要約だが、読むのは本を購入した人で、興味をそそらせる必要がない。この文章はどこか書籍内でなく、宣伝文として使いたいところだ。
 ともあれ、危なそうなところに平然と入っていくのは、師匠のオハコ。この章は、その『台東将棋クラブ』を訪ねたルポになっている。
 
 (その2)に続く


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書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。