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モチベーション古典シリーズ③:達成動機理論

*モチベーション古典シリーズとは、現代のモチベーションに関する学問分野の礎となっているような研究を紹介する試みです。
(モチベーション古典シリーズ: 

やる気。どうしてやる気がある人とない人がいるんだろう、という疑問は誰しもが感じたことのあるのではないでしょうか。自分から率先して宿題をする人もいれば、どうしてもさぼってしまう人もいますよね。モチベーションの研究の中で、教育の文脈で非常に重要だと考えられているテーマの一つが達成動機です。自己成長と密接な関係があるとされる達成動機に関して、今回は紹介します。

キーテーマ

モチベーション・達成動機・マネジメント・古典

前提

タスクに対するモチベーションは、以下の三要素の組み合わせによって決定される。

モチベーション = 報酬 × 動機 × 想定期待値

ここでいう動機(Motive)とは、その人が何を求めているか、報酬をどう評価するか、ということ。同じタスクに直面した際も、個人によって動機は異なる。

動機の例:
・成功したい、成長したいと思う動機(Need for achievement)
・人間関係や他者との心理的つながりを求める動機(Need for affiliation)
・出世したい、他の人より上に立ちたいと思う動機(Need for power)

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参考:

結論

様々な動機のうち、「成功したい、成長したいと思う動機」(Need for Achievement)を達成動機と呼ぶ。達成動機の高い人は「タスクを達成する行為」「自ら成長する行為」そのものに対して価値を見出す。
達成動機を高める方法は明確にわかってはいない。相関性の高い大きな要因として、幼少期に自律を促す育て方をすること(トイレ訓練等)が挙げられている。


考察

①達成動機の高い人に対し、モチベーションを高めるために外発的報酬を提供するとむしろパフォーマンスが下がる可能性がある

例:達成動機の高いA君が算数の宿題をしている際の声掛け
「宿題をするのは、算数が得意になるようになるためだよ」
⇒〇。成長したい、という達成動機を刺激する。
「お小遣いを挙げるから宿題をしなさい」
⇒△。与えている報酬(お小遣い)が本人の動機と釣り合っていない。

②達成動機の高い人は、「ほどほど」の難易度のタスクを好む。極端に簡単なタスクでは成功したとしてもやりがいを感じることができず、極端に難しいタスクはそもそも成功することが難しいため。

③達成動機の高い人は、フィードバックを好む。また、タスクの結果に対して自ら責任を負うことを好む。
⇒自分自身の力によってタスクを成功させたということに価値を見出すため。

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教育の文脈において

①クラス全体に対して同じ課題を出すことは、達成動機の高い生徒のモチベーションが下がる可能性がある。

例:
成績が高く、達成動機の高いA君⇒「この宿題簡単すぎて解けても別にうれしくないな・・・」
成績が低く、達成動機の高いB君⇒「どうせこの宿題解けないから意味ないや・・・」

②クラス内の学力幅が大きいと、達成動機の高い生徒のモチベーションが下がる可能性がある。

例:
成績が高く、達成動機の高いA君⇒「そんなに頑張らなくてもどうせ毎回クラスで成績トップだし、手抜きでいいや!」(成績トップである事実がフィードバックとしての効果を失っている)
成績が低く、達成動機の高いB君⇒「どんなに頑張っても全然成績が伸びない・・・」(成長実感を得ることが環境的に難しくなっている)

達成動機の伸ばし方

残念ながら、因果関係を示す明確な結論は出ていません。
達成動機の高さと相関性が比較的高い要因として、幼少期における親のしつけが指摘されています。
具体的には、「規則正しい食事スケジュールを身に着けさせる」「適切な時と場所で排泄をさせる」等のしつけが挙げられます。
こうしたしつけが達成動機と関連する理由は仮説レベルで何個か挙げられています。
あらゆる事象(空腹や排泄欲)が自身でコントロールできるという実感が強化される。
②空腹や排泄欲などを、徐々に制御できるようになる成長実感を提供することができる。

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まとめ

「成長したい、成功したいと思う動機」=達成動機
達成動機の高い人は「ほどほど」の難易度や、フィードバックが豊富な環境等、自身の成長を実感しやすい条件下で最もモチベーションが高まる。
達成動機を高める方法は明確にはわかってはいないが、幼少期のしつけが一つの関連要素として注目されている。

留意点

達成動機が高い⇒他の動機(他者とのつながりを求める動機、等)が低い、ということではありません。人はあらゆる動機を持ち合わせており、状況に応じてそれらの動機が複雑に組み合わさりながら選択が下されていきます。
達成動機を高める方法は明確ではないものの、達成動機が全くない人が存在することもかなり考えにくいので、対峙している相手の達成動機をどう刺激するかが重要だと考えます。

編集後記

教育の一つのゴールとして、「自ら学ぶ喜びを知ってもらう」ことが挙げられますが、この達成動機の考え方はまさに関連していますよね。勉強に限らず、趣味・スポーツ等、何事も自らやりたいと思えば上達はなんだかんだついてくるもの。生徒一人一人の達成動機が刺激されるような教育機会を提供していきたいですね。

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文責:山根 寛

McClelland, D. C., Atkinson, J. W., Clark, R. A., & Lowell, E. L. (1953). The achievement motive. Appleton-Century-Crofts. https://doi.org/10.1037/11144-000


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