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「だれ」を増やすことが学力向上に効果的?

教育予算、特に「ヒト」に関する予算をより拡大してほしいというのは、公教育に関わる方々の多くが願うところです。しかし、財務省曰く、1) 日本は教育支出の対GDP比は低いものの、在学者1人当たり教育支出の対1人当たりGDP比はOECD諸国平均と遜色がない、2) 諸外国に比べて学級規模は大きいが、教員1人当たりの児童生徒数は主要先進国並みである(日本は1クラス当たりの担任外教員数が多い)と主張しています(令和4年5月25日 財政制度等審議会 参考資料より)。

さて、単純に他先進国並みであるということをもって、質の高い教育を実現するための予算が十分配置されていると判断してよいのでしょうか?特に「(担任以外を含む)教員1人当たりの児童生徒数」は適切な指標なのでしょうか?

以前の記事ではスクールカウンセラーの効果を紹介しました。今回は、さらに広げて、教員・ティーチングアシスタント・ソーシャルワーカー・その他教職員の配置をそれぞれ増やすことによる学力向上への効果を比較したアメリカの研究を紹介します。

キーテーマ

教職員配置・ティーチングアシスタント・ソーシャルワーカー

結論

  • ティーチングアシスタント(※1)の配置を10%増やすことにより、読解力では偏差値0.05, 算数では偏差値0.04向上の効果が見られました。

  • 複数の分析結果を踏まえると、教員の配置を10%増やすことにより、読解力では偏差値0.04 ~ 0.11, 算数では偏差値0.08 ~ 0.19向上の効果があると考察されました。ただし、分析方法によっては効果が見られない場合もありました。

  • ソーシャルワーカー(※2)の配置を10%増やすことにより、読解力では偏差値0.02, 算数では偏差値0.05向上の効果が見られました。

  • その他教職員(スクールカウンセラー・学校管理職・教員資格はないが教えることに関わる教職員)の配置を増やすことによる読解力・算数への効果は見られませんでした。

※1 ここでのティーチングアシスタントは、多くの場合、学士を2年目まで終えている、または準学士号を取得していることが求められます。高校卒業というのが多くの校区での最低要件ですが、対象となったノースカロライナ州では70%の校区が前者のより高い水準を求めています。実際の業務は、授業の準備、個別・小グループでの指導、事務作業、生徒指導、学習評価など多岐に渡ります。
※2 論文内では医療スタッフというカテゴリーとなっていますが、実際はナース・学校心理士を除き、ソーシャルワーカーが対象となっていることから、分かりやすさのため、本記事ではソーシャルワーカーと表記します。

研究デザイン

アメリカのノースカロライナ州における2001年から2012年にかけての小学校における学力や教職員配置データを用いて、1) 回帰分析、2) 教職員配置データを州からの予算による教職員配置に絞った回帰分析、3) 操作変数法による分析が行われました。
論文の筆者は、結果におけるバイアスが少ないと想定され、地域・連邦政府の予算による教職員配置も含む3を主の結果として報告していることから、当記事でも3の結果を主にご紹介します。ただし、2,3では結果に大きな違いはありませんでした。

結果

ティーチングアシスタントの追加配置による効果

  • ティーチングアシスタントを10%増やすことにより、読解力では偏差値0.05, 算数では偏差値0.04向上の効果が見られました。

  • 特に、白人以外の生徒へはより高い効果(読解力では偏差値0.1, 算数では偏差値0.08向上)が見られました。また、貧困率が高い校区でより大きな効果(算数で偏差値0.31向上)が見られました。

教員の追加配置による効果

  • 3) 操作変数法においては、教員の配置を10%増やすことによる読解力・算数への効果は見られませんでした。

  • しかし、これは教員配置は年度によって大きく変動しないことから、3) 操作変数法では効果が見られにくいことによるのではないかと論文筆者は考察しています。1) 回帰分析では、読解力では偏差値0.1, 算数では偏差値0.2向上の効果が見られました。このことから、実際の効果は1) 回帰分析と3) 操作変数法の間と想定され、読解力では偏差値0.04 ~ 0.11, 算数では偏差値0.08 ~ 0.19向上程度と考察されています。

  • 特に、貧困率が高い校区でより大きな効果(読解力では偏差値0.1, 算数では偏差値0.2向上)が見られました。

ソーシャルワーカーの追加配置による効果

  • ソーシャルワーカーの配置を10%増やすことにより、読解力では偏差値0.02, 算数では偏差値0.05向上の効果が見られました。

  • 生徒の特徴(白人か否か)では効果に違いはありませんでしたが、貧困率が中程度の校区でより大きな効果(読解力では偏差値0.03, 算数では偏差値0.06向上)が見られました。

その他教職員の追加配置による効果

  • その他教職員(スクールカウンセラー・学校管理職・教員資格がないが教えることに関わる教職員)の配置を増やすことによる読解力・算数への効果は見られませんでした。

留意点

大都市から貧困率が高い地方まで多様な校区を抱え、アメリカの中でも比較的貧困率が高い州を対象に実施された研究であり、他の国の文脈に応用する際は留意が必要です。

また、上記の結果のみを考慮すると、教員を追加配置することが最も効果的となりますが、今回の研究では追加配置のコストが考慮されていません。ティーチングアシスタントを10%増やすことと、教員を10%増やすことではコストが全く異なると考えられることから、実際の政策に応用するにはコストの面も追加で検討する必要があります。

エビデンスレベル:ケーススタディ(比較対象あり)
※「エビデンスレベル」に関してはこちらの記事をご参照ください。

編集後記

あくまでアメリカの研究ではありますが、単純に「児童生徒1人あたりの教職員数」ではなく、「”ポジションごとの”児童生徒1人あたりの教職員数」に分解して、適切な教職員配置がされているのかを検討する必要があるのではという考えから、今回の論文を紹介させていただきました。

以前のスクールカウンセラーの記事でも、スクールカウンセラーに求められる役割が国によって異なる点に言及しましたが、単純に「教職員」や同じ名称のポジションでも、実際に行っている業務は異なり、児童生徒への影響も異なると考えられることから、学校における専門職配置を推進するには、もう一歩踏み込んで、各ポジションの追加配置による効果を検証することが望まれます。

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過去記事のまとめはこちら

文責:井澤 萌

Hemelt, Steven W., Helen F. Ladd, and Calen R. Clifton. 2021. “Do Teacher Assistants Improve Student Outcomes? Evidence From School Funding Cutbacks in North Carolina.” Educational Evaluation and Policy Analysis 43 (2): 280–304. https://doi.org/10.3102/0162373721990361.

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