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罰や制裁は生徒のためならず

教育現場にせよ、職場にせよ、生徒や職員のモチベーションを上げるということは学びや成果を実現するうえで非常に大きなカギを握っています。どうすれば相手のやる気を引き出すことができるのか・・・は指導者にとっての永遠のテーマと言えるかもしれませんが、認知科学・心理学においても古くからに盛んに研究が行われている分野の一つでもあります。今回は実証実験をベースに、内発的モチベーションに悪影響を与えてしまう行為に関しての研究を行った論文を紹介します。

キーテーマ

内発的モチベーション・フィードバック・恐怖

結論

批判的なフィードバックは、相手の内発的モチベーションを下げる。
罰や制裁によって行動を促すことは、相手の内発的モチベーションを下げる。

解説:内発的モチベーションと外発的モチベーション

外発的モチベーション
外的要因によって行動が促されること。
例:
給料を得るために仕事をする。
先生に叱られないように宿題をする。

内発的モチベーション
外的要因の影響ではなく、自分の内なる感情や価値観によって行動が促されること。
例:
週末に趣味のテレビゲームで遊ぶ。
平安時代の貴族の生活に関心があり、源氏物語を読む。

*より詳しく知りたい方はこちら!

実験デザイン

*わかりやすさを考慮し、実験の一部を省略して記載しています。

ステップ0:
米国大学生40人を二つのグループ(対照群と実験群)に分け、各グループの参加者を一人ずつ実験室に案内した。
実験室の中には学生が座るための椅子とテーブルが設置され、テーブルには異なる難易度のパズルが4種類、そして異なるジャンルの雑誌(情報誌と娯楽誌)が置かれていた。
学生が着席後、実験者は部屋を退室し、ドアに設置された一方通行の窓から学生を観察した。
学生は自身が観察されていることは事前に伝えられていた。

ステップ1:
実験者が部屋を退室後、各グループの参加者に以下の指示が外からのインターコムを通じて与えられた。

対照群:
「この実験ではあなたに4つのパズルを解いてもらいます。各パズルの制限時間は10分です。10分が経過しても解けなかった場合、インターコムを通してそのパズルの解法を伝えるので、次のパズルに移ってください。」

実験群:
「この実験ではあなたに4つのパズルを解いてもらいます。各パズルの制限時間は10分です。10分が経過しても解けなかった場合、インターコムを通してそのパズルの解法を伝えたのちに、ペナルティとして1秒間大きなブザーを鳴らします。ブザーの終了後、次のパズルに移ってください。」

実験群にのみ、解けなかった際の罰(不愉快なブザー音)が設けられた。

ステップ2:
4つのパズル全てを解き終わった後、両グループともに実験者から以下の指示が伝えられた。

「この後、アンケートに答えてもらいます。これまでの結果をいったんデータ入力したうえで個別にアンケートを用意するので、5分から10分ほど部屋の中で待っていてください。待っている間は自由に過ごしていて結構です。」
指示が伝えられた後、実験者は大きな音を立てながら実験部屋から離れていった(実験者が去ったことを学生に明示するため)。

学生が待機している間、実験部屋の隠し窓から別の実験者が待機時間中の学生の行動を観察した。

10分後、元々の実験者がアンケートをもって実験部屋に戻り、生徒が回答した時点で実験終了となった。

結果、対照群に比べて実験群の方が待機時間の間、机の上に残っているパズルで遊んでいる時間が短かった。
→実験群のパズルへの内発的モチベーションが下がった。

まとめ

罰や制裁を通して行動を促されると、その行動への内発的モチベーションは低下してしまう。

エビデンスレベル:対照実験

編集後記

やらされていると感じるとかえってやる気が低下する、という現象を実証しようとした実験でした。生活指導や補習等、未だに「罰」ともとらえられる指導は今でも行われていますし、こうした指導を完全に廃止するということはあまり現実的ではないかもしれません。また、生活指導や補習を実験で行われたような無意味且つ理不尽な罰と同列に捉えることはできないと思います。一方で、これらの指導を実施する場合は、その背景をどう生徒に伝えていくかが根本的な行動改善のためには重要なのかもしれないと考えさせられました。

文責:山根 寛

Deci, Edward & Cascio, Wayne. (1972). Changes in Intrinsic Motivation as A Function of Negative Feedback and Threats.

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