見出し画像

【オススメ本】四方八州男『つれづれなるままに』環境情報、2021(非売品)

人口約30,000人の京都府北部のまち・綾部市の前市長、四方八州男氏が『環境情報』に寄稿したコラムをまとめた一冊。


綾部市と言えば、合気道や大本教、グンゼの発祥の地として知られるだけでなく、世界連邦都市宣言自治体の第1号の都市、また限界集落という言葉を「水源の里」と言う言葉に置き換え、全国で150を超える自治体に共感を生んだまちでも知られる。

数年前に「驚きの地方創生「京都・あやべスタイル」」という本が出版されたことで綾部市のことを知られた方も多いことだろう。

(参考)「驚きの地方創生「京都・あやべスタイル」」https://www.amazon.co.jp/驚きの地方創生「京都・あやべスタイル」-扶桑社新書-蒲田-正樹/dp/4594075835


四方前市長は1940年に兵庫県西宮市で生まれ、疎開で両親が生まれた綾部市に疎開。爾来、小中高と綾部で過ごし、大学から京都へ(京都大学経済学部卒)。その後、三菱重工に就職するが、労働運動の過程で解雇され、綾部にUターン。1978年からは市議、府議を経て、1998年から2010年まで3期綾部市長を務められた方である。市長勇退後はNPO法人北近畿みらい理事長や大相撲京都場所の勧進元などをお務めである。


私も2008年の中丹地域の職員研修でご縁をいただき、綾部でのJC主催の公開討論会やロータリークラブ主催のイベントなど、ことあるたびにお会いし、意見交換をさせて頂いている。本書でも触れられているが非常に筆まめな方で私も幾度かお手紙を頂いたことがある。


職業柄様々な自治体の首長さんとお付き合いさせて頂くことが少なくないが、ここ数十年を振り返ると、四方前市長のようなビジョナリーかつ、リーダーシップがある首長は減ったと感じる(なお、綾部市は四方前市長とはまた違ったリーダーシップがあり、ビジョナリーかつ行動力溢れる山崎市長が四方市政を継承している)。その一端が本書の以下の言説でも確認できよう。


・もともと「見て見ぬふり」をしてきた自責の念から、他市町村では既に取り組んでおられるだろう、遅まきながら頑張ってみよう、と言う気持ちで(限界集落を跳ね飛ばした元気な村に)出発した(p.8)
・限界集落は、おしなべて川の上流・水源にある。ならばマイナスイメージの限界集落「水源の里」と言い直そう。それはまた古来から日本で尊ばれた上流と下流との関係を復活させることにつながるのではないか。そんなことを考えて「上流は下流を思い、下流は上流に感謝する」というキャッチフレーズをつくった(p.10)。
・在任中、職員に対し「市役所はサービス業」「市民の皆さんに喜んでもらってなんぼだ」と言い続けてきた。中には、勢い余ってパワハラがあったかもしれない。しかし、それぐらいでいいのだと思う(p.70)。
・57歳にして市長になった。その時、掲げたのが「小さくともキラリと光るあやべ」出会った。このスローガンは、(中略)秋田県の横手市長を二十年間やっておられた千田謙蔵さんがつくられたものだが、ご本人にお断りして貸してもらった(p.114)
・市長の当て職でもあった私立病院の理事長をやっている時には、何年かに一度だが、いわゆる医療ミスがあった。(中略)そんな時には、何をおいてもまず私が出向いて謝り、後の対応を約束することにしていた。(中略)最終責任者たる者の使命は、何より、いざ、という時に逃げない。自らの責任を取る覚悟を持つことだと思う(p.152-153)。

いずれも一部であるが、最近の首長にまつわるニュースといえば、賄賂を受け取ったり、シャワー室を作ったり、秘書にセクハラをしたり、といった不祥事のたぐいの知らせが絶えない。

また、国レベルでも国民の世論ばかり気にし政策を二転三転させたり、また世論やメディアに負け数日で撤回したり、原稿を読み違えたり、式典に遅刻したりと緊急時のリーダーシップとしていかがなものか、という残念なニュースが続いている。

VUCAという言葉に象徴されるように社会問題が高度化・複雑化・多様化・不確実化する時代においては、決して強いリーダーシップだけでは解決できないことは周知の通りである。しかし、リーダーシップの不在が続き、混乱がここまで長引くと、四方前市長のようなビジョナリーかつ強いリーダーシップ、行動力溢れるリーダーが欲しくなるのも人間の性であろう。そんなことを感じた一冊であった。

四方本


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?