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キックの「目的」を考えてみよう:ラグビー初心者観戦ガイド(3)


 初心者観戦ガイド、第3回です。
 本当は別のことを書こうと思っていたのですが、今日の開幕戦、キックが重要な役割を果たしたので「キックの見方」を入れることにしました。

キックの役割とは?

 ラグビーは「陣取りゲーム」とよく言われます。
 ラグビーでは、ボールを前に運んでいってトライまで持ち込むことで得点できますが、自陣深くから一つのプレーでトライを取りきることなどはできません。少しずつボールを前進させてマイボールとして確保していく「陣取り」のフェイズがどうしても必要になるのです。
 そしてゴールエリアまで近づければ、トライを狙い、ある程度ボールを失うリスクを冒した攻撃を仕掛けるのです。このあたりはサッカーとも似てますね。自陣ゴール前でリスクを冒すパスを回すチームはありません。着実にビルドアップしたり、あるいはロングボールで一気に相手の方にボールを放り込むといった戦い方があるのと同じことです。

 なお、ラグビーでは、ボールが横に出ることを「タッチ」と言います。どこかに触っているわけではありません。意図的に横に出すキックのことを「タッチキック」と言います。

 

 ラグビーのフィールドには、7本の線が引いてあります。

iStockから。

 真ん中がハーフライン。両端のトライになるエリアを表すのがゴールライン。ハーフラインから10m離れたところに10mライン、ゴールラインから22m離れたところに22mラインです。


攻め込まれたら「リスク回避」のキック

 自陣22mラインよりゴール側に押し込められたら、失点のリスクが非常に高くなります。そのため、この位置からはリスク回避が優先です。
 特に、追い込まれていたらタッチに逃げて一度プレーを切りますが、現代ラグビーではタッチに出さないことも多いです。むしろ距離をキックで稼ぎ、相手に捕らせてプレッシャーをかけ、タックルで止めてブレイクダウンを作れば陣地を稼げるからです。

22mライン内側から蹴るアーロン・クルーデン

中盤では「陣地確保」のキック

 22mラインとハーフラインの間くらいからは、「テリトリーキック」と呼ばれる、陣地(=テリトリー)を稼ぐキックが中心になります。

 キックで相手のディフェンスを下げ、タックルで止めてブレイクダウンを作れば仮に相手ボールだったとしても陣地を稼げますし、あるいは相手を追い込んでタッチキックを蹴らせればマイボールラインアウトになります。

 もう1つ、そのエリアでのキックとしてあるのが「ハイパント」です。ラグビーではキック時にも「オフサイド」のルールがあって、キックした地点より前にいる選手がボールをキャッチすることはできません(それどころかボールの落下点から半径10mに入ってはいけない)。
 そのためキックしたボールを再確保するには、キックした選手本人か、その選手より後ろにいた選手が落下点まで走っていかなければなりません。そうやってキックの再確保を試みるのが「ハイパント」です。
 これはうまくいけば有効な攻撃ですが、相手にキャッチされてしまうこともよくあります。

サンゴリアスのハイパントをキャッチするイーグルスのマフィ

 

キックをキャッチするアーロン・クルーデン


ハイパントを処理するリーチ

 フランス対ニュージーランド戦の前半で、フランスは5本ほどハイパントを試みましたが、うち4本でフランスがボールを確保しましたね。

攻め込んだら「勝負」のキック

 さらに、敵陣22mラインより奥に入れていれば、相手ディフェンスの裏にボールを転がすキックを蹴ったり、あるいは「キックパス」という、長距離のキックをあたかもパスのように蹴ってトライを狙うことがあります。
 キックはボールを失うリスクもあるわけですが、攻め込んでいるからにはそうしたリスクを冒してでもトライを取りに行くということです。

イーグルス、小倉順平からのディフェンスの裏を狙うゴロキック(ゴロパント)
ディフェンスの裏を狙うサンゴリアスのアーロン・クルーデン

 フランス対ニュージーランド戦では、最初のニュージーランドのトライがその形でした。


まとめ:プレーエリアによって変わるキックの目的

 ポイントは、このように、プレーエリアによってキックの目的が変わってくるということです。
 「攻め込まれていたらタッチキックでプレーを切るか意図的なノータッチで陣地を回復する」
 「中盤やや自陣寄りの攻防だったら『テリトリーキック』で陣地を進めたり、『ハイパント』でボールを確保しての前進を図る」
 「攻め込んだらトライを狙った勝負のキックをする」
 と覚えておいて頂ければ、キックの意味が理解できると思います。

 より詳細には井上さんのこの本に詳しく書いてあるので、より深いことを知りたければ是非。


(続く)

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