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攻撃の鍵を握る2つのライン:ラグビー観戦ガイド 中級編(2)

 ラグビー観戦ガイド〔中級編〕、空けてしまいましたが第2回を。

 第1回では、なぜスクラムハーフ(9番)、スタンドオフ(10番)、インサイドセンター(12番)がゲームメーカーとしての役割を担っていることを説明しました。ただ、普通、サッカーでは「ゲームメーカー」と呼ばれるのは普通は1人です。なぜラグビーでは複数のゲームメーカーが必要なのでしょうか?

 その理由は、現代ラグビーが「奥行き」のある攻撃をするからです。これは「階層的な攻撃」とも言われますが、それぞれの階層ごとにゲームメーカーが必要になるのです。

 また図で説明してみましょう。

 ラグビーでは、ボールを持った選手がタックルを受け、人がごちゃごちゃっと集まったところを「ブレイクダウン」といいます。



 ほとんどの場合は、タックルを受けた選手が倒れると同時にボールを地面に置いた後に(「ダウンボール」といいます。ボールを離さなければ「ノット・リリース・ザ・ボール」という反則になります)形成される「ラック」という状態です。


 こうやってラックができると、その両端にオフサイドラインが発生します。どちらの側も、このオフサイドラインより前には立てません。前に行ってしまうと「オフサイド」として反則になります。

 こうやってブレイクダウンを作ると、ボールを持っている方(攻撃側)は、前回説明したように、「9シェイプ」、「10シェイプ」、「12シェイプ」として3段に並びます。

 一方、ボールを持ってない方(防御側)はディフェンダー(図ではDFと表記)を、オフサイドラインを踏み越えないように並べます。こうやってディフェンダーが並んでいるラインを「ディフェンスライン」と言います。

 このとき、ディフェンダーは、ただ並んでいるわけではありません。それぞれ、誰に向かってタックルにいくかを決めます。これを「ノミネート」といいます。

 ただし、ここで、攻撃側のラインが「階層的」になっていることが効いてきます。ブレイクダウンのすぐ横に立っている9シェイプは、ディフェンスラインから近くに立っていますから、タックルの届く距離にいます。
 しかしその後ろに立っている10シェイプは、ディフェンスラインから離れてますから、すぐにはタックルが届かないのです。


 実際の流れで見てみましょう。

 ブレイクダウンからスクラムハーフがボールを出します。

 このときスクラムハーフには、自分で走るとかキックといった選択肢がありますが、ここでは9シェイプのフォワードにパスしたとします(下図の①)。そのとき、ディフェンダーはあらかじめノミネートした選手めがけてタックルを仕掛けます(下図の②)。


 このとき、9シェイプでパスを受けたフォワードには2つの選択肢があります。1つはタックルを受けて新しくブレイクダウンを作ること、もうひとつは、タックルを受ける寸前に後ろにいるスタンドオフ(10番)にパスすることです(下図の③)。
 こうやって後ろのラインにパスすることをスイベルパスと言います。この段階で、9シェイプにはディフェンダーのタックルが届いてますが、10シェイプに対してはまだタックルが届いていません(下図の③')。

 つまり、この段階でスタンドオフの周りにはスペースが生まれており、スタンドオフにはいくつかのプレーの選択肢があるのです(下図の④)。

 第1は、そのスペースを自分で使い、ステップを切って相手のディフェンスをかわして前進すること、第2は、タックルしようと前進してきている相手のディフェンスの裏にボールをキックすること、第3は、10シェイプのフォワードにパスすること、第4は、後ろに立っている12番にパスすることです。


 このように、9シェイプがいることで、10シェイプにはいくつかのプレーの選択肢が生まれます。
 このように、9シェイプと10シェイプの2つのラインを組み合わせた攻撃を「ダブルライン攻撃」と言います。前のライン(9シェイプ)のことを「フロントドア」と呼び、後ろのライン(10シェイプ)のことを「バックドア」と呼びます。なお、12シェイプも加えた3つのラインによる攻撃は「トリプルライン攻撃」です。


 このように、現代ラグビーでは、2つないし3つのラインを駆使してディフェンスを崩していくのです。

 ポイントはゲームメーカーにできるだけ多くの選択肢を持たせた状態でボールを渡すことです。選択肢が多ければ多いほど、ディフェンスが難しくなるのです。

(続く)

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