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2022年8月1日 ビンス・マクマホンの功罪。

 近頃、社内不倫とかその口止め料とかいろいろなスキャンダルが噴出して世界最大のプロレス団体WWEのCEOと経営から引退したビンス・マクマホンという人物がいます。彼については「罪」の部分も数多いような気もしますが、プロレスというエンターテインメントを巨大にしたという功績について。
 彼は元々父親ビンス・マクマホン・シニアが経営するプロレス団体WWFに勤務していました。当時のWWFはニューヨークで興業を行う団体でした。アメリカでは地域ごとに数多くのプロレス団体が存在しており、例えばシカゴのAWA、太平洋岸のプロレス団体連合のNWA等。日本人的にはプロレス団体といえばNWAという時期がありました。全日本プロレスと親密だったからですね。
 つまりプロレス団体は地元で興業をする団体、だったのです。それをビンス・マクマホンは、父親からWWFを買収(?)し、新たな戦略に打って出ます。それがテレビによる全国放映です。当時の感覚では、金もかかるし、遠くのエリアで誰が勝とうが負けようが観客は盛り上がらないという否定論が多かったわけですが、マクマホンはテレビで全国放映し、地元での興業を全国巡業に切り替え、年に一度「レッスルマニア」という大きなイベントを開催しました。いずれも大金がかかるビジネスだったのですが、彼は成功しました。特に「レッスルマニア」の成功が大きかったと言われています。立役者はハルク・ホーガン。
 次に彼が取り組んだことは、各地の競合団体を潰していくことです。買収したり、選手を引き抜いたりして、唯一無二の団体になってしまえば安泰、ということですね。ところが、業界と関わりのないところで「あれ? プロレス団体って儲かるんじゃないの?」と考えた人が現れました。テッド・ターナーです。彼はCNN等のオーナーとして有名な人物ですが、NWAという団体が苦境に陥ったときにテレビ放映権ごと買収しました。初期にはいろいろ混乱があったようですが、エリック・ビショフという人物をゼネラル・マネージャーに据え、一説には「いくらかかってもいいからWWFが潰れるまでやれ」と命じたといいます。ビショフはまずハルク・ホーガンを連れてきて、あとはリック・フレアー等に代表されるかつてのNWAのレスラーたちを使うのですが、そこからは金にものを言わせてWWFの選手を引き抜きまくります。さらに「nWo」というムーブメントを生じさせることに成功し、このWCWという団体は完全にWWFを凌駕します。
 WWFが経営的に一番厳しかったのはこのWCWとの抗争「マンデー・ナイト・ウォー」の頃だったと言われています。とにかく大型選手はことごとく引き抜かれてしまうし、TV番組は月曜日の裏番組にぶつけられました。WCWは豊富な資金力で現役のチャンピオンを引き抜いて、翌週の番組でそのチャンピオンベルトをゴミ箱に捨てるということさえしました。どうしようもくなったマクマホンは大型の選手が肉体をぶつけ合うという路線を諦め、選手同士のトークとシナリオを重視することにしました。マイク・パフォーマンスに時間をかけていくことになりました。「アティテュード時代」と言われましたが、トリプルH、ショーン・マイケルズ、ストーンコールドといった選手が大活躍をしてWWFを救いました。同時にマクマホンは、自分がどんどん出演して悪役を演じました。どの悪役レスラーよりも劇的に登場し、誰彼なく偉そうに無理難題を命じ、自分に屈服した証拠として尻にキスをさせ、逆にピンチに陥るとブザマに腰を抜かして許しを請う役柄を演じるわけですが、彼の恐ろしさについてある選手は「彼はレスラーでもないのに試合では俺の耳元で、もっと強く殴れ、もっと本気でやれと囁くんだ」と言いました。
 やがてWCWが崩壊してテッド・ターナーが手を引きWCWは終焉を迎えます。選手へのギャラが高すぎたり、選手を集めすぎて使い道が決められなかったり、フロント側の能力が不足していたと言われました。最終的にWCWはWWFに買い取られて終焉を迎えたのです。
 再びWWFの時代です。この頃かな? 自然保護のWWFから訴えられて団体名をWWEに変更しました。ビンス・マクマホンは彼の野望であったNFL以外のアメリカンフットボールリーグ「XFL」も立ち上げましたし、WWEの配信サービス「WWEネットワーク」はアメリカのスポーツ配信サービス上位(野球とアメフトがトップだったかな?)にのし上がります。
 WWEはニューヨーク証券取引所に上場も果たしました。上場企業の宿命として説明責任を果たさざるを得ず、WWEの試合には台本が存在することを発表しましたが、ファンの熱気に変化はなかったように感じられます。
 現在、WWEのCEOは長女のステファニー・マクマホンに引き継がれました。彼女もまた、マクマホン一家の一員としてレスラー同様にリングに登場した人物です。レスラーと恋に落ちリング上で結婚式を挙げるときにさらわれ、誘拐したトリプルHと無理矢理婚姻させられてしまう、なんてこともありましたが、実際にはトリプルHが元々恋人で、父親のビンス・マクマホンも認めていたカップルでした。この二人を結婚させるのに、そんな芝居を打っていたわけですね。旧態依然とした興業を、世界規模のエンターテインメントに変貌させたビンス・マクマホンですが、依然としてファミリービジネスでもあるんだよな、とも思わされます。彼は依然としてWWEの最大株主です。今後どうなるか、ただ単に引退するとは信じがたかったりも…。

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