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映画メモ:Homme Less ニューヨークと寝た男

「それでも人は、マンハッタンに住むのだ」
というのが、映画を観終わった私の中に浮かんできた言葉。

ニューヨーク州マンハッタン島は極めて不思議な場所だ。アメリカンドリームを夢見て世界中から人が集まり、街は新入りを歓迎し、多様な文化でカラフルに彩られ、楽しく、自由で、いつも活気にあふれている。

8年前、私が初めてひとりで旅をした時も、ニューヨーカーたちは、私を観光客としてというより、自分たちと異なる地からやってきたひとりの人間として、好奇の目で歓迎してくれた。

しかしその一方で、いや、そんな土地だからこそ、人が密集した小さな島の家賃はとてつもなく高い。この映画の主人公の屋上生活は極端ではあるが、ほとんどの夢追い人たちは、居心地が悪そうな狭い住処でルームシェアをして、失業、医療保険、食費、いつも何かの心配をして“Homme less”な生活をおくる。ソーシャルディスタンスなんてないし、感染症も流行る。それでもみんな、郊外のゆったりとした庭付きの家ではなく、マンハッタンで暮らしたいのだ。

これは東京も、ロンドンも香港もムンバイも、世界中の大都市どこだって同じだ。人は都市に集まり、人が集まるところでは新しいビジネス、文化が生まれ、またそれが人を惹きつける。

今、世界中の大都市の多くが閉鎖されて、テレワークが進み、人々は都市に魅力を感じなくなるのではないかと言われている。確かに、移り住む人も相当数いるかもしれない。オフィスへの通勤のためだけにアクセスのいい都心に住むことを選んだサラリーマンは、もはや高くて狭いだけの家にとどまる必要はなくなる。ただ、マンハッタンや渋谷などの超中心部エリアの景色は、今後もあまり変わらないのではないかと私は思う。

彼らは、必要があってそこに住んでるのではなくて、都会という空気が好きなのだと思う。いつもどこかで何かが起きていて、慌ただしく余裕がない、何か足りない気がして虚しくもあり、たまに実家に帰って人生をやり直そうかと考える。それでも、ふと外を見れば、同じように虚しい隣人が一生懸命もがいていて、どうしたんだと声をかけてくれる。街を歩いていると不意に新しい人と出会い、訪れるチャンスの予感に心が動き、いつの間にか、また全力で走っている。そんな人間に、都会の空気は心地よく酸素を与えるのだ。

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