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あきらめた先にある風景

そして1人だった。

朝が来て、昼が来て、夕暮れが来て、夜が来る。
そして再び朝が来て、昼が来る。
それに合わせて現れては消えていくカーテンの影。
14時を過ぎていた。ただそう思っただけのことだった。

友人との会話は全てスクリーン越しだった。けれどある時、通話が終わってパソコンの画面に反射する自分の顔を見たときに、実は友人の映像は録画されたものでこの世には自分以外は消えていなくなってしまったのではないかと思った。その時から、パソコンを通してでは誰とも話せなくなった。

窓を開けてベランダから外を見る。
通りには誰もいないが、水溜りには波紋が広がっていた。
今朝からの雨は既に止んでいるから、誰かが水溜りの上を歩いたのだろう。
風は湿気と若葉の匂い。変わりやすい天気の6月の、ある日の風景。

「君って繊細だよね、

ある人はそう言ったけれど好きでそうしている訳ではないし、そうなりたいと思ったこともない。逆に何故、他の人と違うのかを悩んでいたからその言葉が辛かった。

部屋に戻ると、机の上にはコップの跡が残っていた。
コップの結露とその水面に映る風景は既に過去のものだった。

こんにちは。お久しぶりです。
最近、どう過ごされていますか。私は

開いたままのパソコンには、それ以降の文章が思い浮かばないメールが表示されていた。

ある人は、遠くに行ったまま二度と戻ってこなかった。
それからは、自分の生命線の短さだけが生きがいだった。
光の元で生命線が伸びていないか、それだけをいつも確かめていた。

窓際に立って、雲の合間からの陽の光で久しぶりに生命線を見る。
短いままだった。
ふと外を見ると、風船が目の前を空高く飛んでいく。
急に言葉が思い浮かんだ。

私は繊細だけど、君も繊細だったよね。

コップの跡はもう、消えかかっていた。

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