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平成最後の夏に観た『バンコクナイツ』

もう暑さは懲り懲りななか、以前から気になっていた『バンコクナイツ』を観た。バンコクの美しい夜景がひろがるガラス窓にLUCKの洋服の模様が重なるところから物語は始まる。LUCKは長い黒髪に浅黒い肌、はっきりした顔立ち、スレンダーな体型の典型的なタイの美人さんといった感じである。仕事は体を売ること。故郷にいる母や弟妹をはじめとした一族郎党がLUCKを頼みにしている。

LUCKはたどたどしいながらも日本語もしゃべり、在籍している店のナンバーワンであるという自負もある。折り合いの悪い母親に家も買い与えているし、愛犬の首輪には本物のダイヤモンドもついている。LUCKの仲間である女たちも、みな美しくてたくましい。お客の男たちの悪口をさんざん言い合ったあと、笑顔で誘い、夜に消えていく。

登場してくる男たちの誰にも一ミリも思い入れを持てない映画というのも珍しいが、ちょっと小金を持ったからタイにくりかえし来ているといった男がLUCKに心までしつこくねだるのも、ずうずうしくて気持ちが悪いと思ったし、LUCKに他の男がいないか探って、関係を切るややパトロンめいた男もセコいと思った。客引き兼女たちをしきる男とか、薬を調達する男、LUCKの元恋人で、よりをもどしていくオザワでさえ、タイに住みついている日本人の男たちのネットワークと得体の知れなさが恐い。

ふりかえると、LUCKをはじめとしたおねえさんたちは、惜しげもなく胸元や手足を出していて、つねに色気はたっぷりなのだが、ベッドシーンはいっさいなく、バンコクのいろんな人間がうごめいてる夜とLUCKの故郷の美しい風景がよみがえる。

LUCKの弟の、出家か兵士になるか、の二択も悲しいと思ったし、小さなライブハウス的な店でバンドが演奏している曲の歌詞が、君は売られていく、でもしかたがない、家族のため、といった内容のラブソングだったのも悲しかった。

全体に音楽がいちいちすばらしく、思わずサントラ盤も買ってしまった。LUCKが占ってもらうシーンがあって、その占いの語尾はことごとく歌になってしまうのだから、これはどこかに誘(いざな)われてしまうと思った。タイの冠婚葬祭には、日本でいうところのチンドン屋さんみたいな楽隊に来てもらうという風習があるらしく、これはとてもいい。ここにはお金をだすぞ、という考えはすごく豊かだ。あと、おみやげをもらったLUCKの小さな妹が手をあわせるしぐさをみて、祈る姿は美しいなと思った。

ラストに近づくと、LUCKとオザワが夜の浜辺にいるシーンがあるのだが、この浜辺のそれはそれは美しいこと。青い光と黒い影が貝殻の裏がわを横長に切って貼りつけていったようなのだ。


#平成最後の夏 #映画 #バンコクナイツ

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