こぼれたミルクに泣かないで

相変わらず来日アーティストのスケジュールだけはとどまることを知らずに毎月決まっていますが、自分の好きな人、興味のある人、来てほしいなぁと思う人がいても、実際本当に来るとなるとちょっと面倒くさくなったり、自分の都合の悪い日程だったりして、結局は行くのをやめたりすることがあると思います。でも生の音楽って映画みたいにいつ見てもそれ自体の質が同じってわけじゃないから、やっぱり損したくないとかあんまり良くないかもとか警戒心が強くなるのも当たり前。でもだからこそ、行けなかった時の後悔やいいものに出会えた時の喜びが待っているのでしょう。

私の最近の後悔の例としては、5月17日のLOOPAでのREGISのライブ。混雑確実の石野卓球のパーティー、会場はリキッドルーム、もう1人のゲストは若者に大人気のSURGEON、更に次の日は仕事。もうどう考えても私を来させない為にそうしたと言わんばかりの悪条件。前日になってやっぱりREGISのライブは観たいな…とふと思ってはみても、一度決めた意思は貫き通してしまうのでした。しかしその後、ライブを観た人の感想を聴いて大ショック。なんでもREGISは座ったままの異色のライブを行ったそう。しかし座っているのであまり姿が見えないため、ほとんどの客は後ろでスタンバイ中のSURGEONのDJが始まったのだと勘違いしたらしく(普通気づくだろうに…)後ろを向いて盛り上がる異様な光景だったとか。それはともかく、地味ながらじわじわくるいい感じのライブだったそうで、何度も来そうなアーティストでもないし、やっぱり行くべきだったと今更ながら後悔の嵐。

それに対して久々に行って良かったと満足したのが、6月27日のハーバートのライブ。宣伝は控えめでフライヤーもあまり目立つ感じじゃなかったので、来たことすら知らなかった人もきっと多いのではないでしょうか。場所は渋谷ON AIR WESTの上の小さな会場で、次の日はハーバートのDJが予定されていたのですが、DJは多分ハーバート名義のしっとりハウス路線、ライブの方は間違いなくドクター・ロキット名義のはずだと予測して、どちらかといえばライブが観た〜いと1日目に足を運びました。でもその選択はきっと間違ってはいなかった。その日の深夜2時頃にステージに現れたマシュー・ハーバート氏の姿は、今までその辺で寛いでいた時の普通の服から白衣へと衣替え。うわ〜、ドクターかよぅ、と思った瞬間から30分はもう、笑いの連続。まず機材はほとんど用意されず、サイド・テーブルみたいなものにちょこんと乗っているものだけ。運搬が面倒だからなるべくコンパクトに抑えたのかなと思っていると、後ろの方に何やら物がいっぱい。そしてテーブルの上の機材から流れるリズム(ハーバート名義の曲をもっとヘンにしたようなリズム)に乗せて、大道芸人ばりのパフォーマンスとともにポテトチップスを開けてバリバリ食うわ、袋を膨らませて手で叩くわ、ペットボトルの水を叩くわうがいはするわ、棒であちこち叩きまくって機材を落としてトラブル起こすわ、もう大変。まさにドクター・ロキットのノリそのまんまのライブ(いや、もっとヘン)。小さな会場だからこそのアットホームな雰囲気と、終始笑顔で眺めるお客さんのノリも非常に良くて、その日は一睡もせずに仕事に向かっても全然大丈夫なくらいの充実感でした。次の週のブロスで卓球がバルセロナかどこかのライブについての記事を書いていたので、それが出た後だったらまた雰囲気が違っていたかも。誰でも楽しめる内容なのに、周りの友達もみんな来なくて残念。できれば次の日のDJも観たかったな〜。

と、まあこれを機会に迷った時はなるべく行くことにしよう、と私は決めました。だって行ってつまんなくて後悔したとしてもほんの2、3日のことだけど、行かなかった時の後悔っていつまでも続きますからねぇ…。

(SUGERSWEET第9号 1997年7月)      

☆イッツァブラスト!ウィーンからやって来たヘンな外国人

今年一発目のクラブは渋谷M.O.での「SIMPLE696」。そう、CHEAPの貴公子、パトリック・パルシンガー!前回ハーバートを呼んでくれたこのパーティー、まじで人選ばっちりっす。しかもM.O.って元FFDよ!もう雪降ったばかりで寒いのも忘れて、痛快ウキウキってな感じで出掛けもします、そりゃ私も。

自分の中ではパルシンガーって結構人気者なイメージがあって、勝手にうわ〜混みそう、なんて思ってたけど、友達に口々に「いやぁ、それほど入んないよ。だってパルシンガーだよ?」と言われ、軽くショックを受けていたけれど、割とちょうどいいくらいに人が入っていたのでとりあえず安心。パルシンガーの前にやっていたHIMEさんのDJ は、少し前にOTOで聴いた時は結構ハードめでMAYURIさんっぽいイメージがあったんだけど、この日はハウスでいいグルーヴを作っていて、かなり私好みでした。そしてパルシンガーに交代すると、それに反応してフロアも喜ぶ。もう誰もが「パルシンガーのDJ ってヒップホップかけるらしい」という事前の噂に惑わされていたところへ、甘いマスクに真面目な顔つきでしぶ〜いハウス、続いてノリノリのエレクトロ。それほど確信犯的な感じではないんだけど、どこまで本気かわからない、まるでCHEAPみたいなノリ。みんなも「どこがヒップホップなんだよ!」とか言いながら、結構嬉しそうな顔と動く腰。前回もそうだったけれど、海外のDJ が来てちょっとだけスペシャルだけど普通の日常的なパーティーというか、肩肘張らない、DJ に過剰に何かを求めようとしない雰囲気がこのパーティーのいいところで、当然私もやや高めのテンションで楽しく遊ばせてもらいました。まあジャングルに変わった途端に踊れなくなったって別にいいじゃないの。

ということで、現時点での今年のベスト・パーティーはこれに決まり!(まだ1月)ちなみに知り合いから前号のハーバートの記事を見せてもらい、とても喜んでくれたというオーガナイザーの美人姉妹、次もまたやるからと嬉しいことを言ってくれました。楽しみ楽しみ。  

(SUGERSWEET第10号 1998年4月)

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