変わる消える/ Cornelius


Change and Vanish / Cornelius




コーネリアスの新曲がやっとリリースされた。といっても昨年はカルチャー誌「nero vol.14 VOICE」の創刊10周年を記念した限定7インチ(プライマル・スクリームのキーボード奏者で昨年12月に他界したマーティン・ダフィーとの両A面)用に発表した曲があり、今年1月にはお茶とアーティストを繋ぐ"BYSAKUU"というプロジェクトにてコラボ曲を提供しているし、mei eharaのヴォーカルで配信済みの"変わる消える"も、2011年にsalyuに提供した"続きを"も、既存の曲を小山田圭吾のヴォーカルで新たに再録したので、完全な新曲ではない。しかし、リリース直前のMETAFIVEの2ndアルバムが突然発売中止になった2021年のあの夏を思い出せば、大いなる一歩を踏みだしたこのリリースを喜ばずにはいられない。

2曲とも原曲とアレンジはほぼ変わらず。"変わる消える"は既発のヴァージョンにギターの揺らぐ音色が加わった。昨年夏のフェスで披露した際にも感じたけれど、歌う人が違うだけでなぜこんなに違って聴こえるのか。mei eharaや salyuの歌声から伝わるまっすぐな意思や芯の強さはすうっと消えて、小山田圭吾が歌うとなぜこんなに物悲しく優しく、淡い曲になるのだろう。優れた作詞家はあらゆる角度からの視点を捉えた普遍的な言葉を選んで組み合わせる能力が秀でている。それは2011年の視点でもあるし、2023年の視点でもあり、作り手の視点にも、聴き手の視点にもなる。坂本慎太郎の歌詞を歌う小山田圭吾の声は本当に魅力的だ。

余計な感情はいっさい捨てて、違う国の知らない言葉を聴くような感覚で音だけを耳で追ってみると、"変わる消える"は2018年にリリースされた編集盤『Ripple Waves』にも収録された"Audio Architecture"の延長線上にあるサウンドデザインの美しさを発揮した曲だとわかるし、"続きを"も同じく『Ripple Waves』収録のドレイクのカバー"Passion Fruit"と"Not Bad, This Feeling (悪くない、この感じ) "を掛け合わせたようなAORポップスに近い感触がある。コーネリアスの音楽は数年前と本質的には何も変わっていない。変わったのは音楽を取り巻く状況と、見ているものや聴いている側の心境だ。もしかすると本当は"変わる消える"を本人が歌うこのヴァージョンは2021年のフジロックで披露される予定で、順を追って配信リリース、アナログ化する計画がまるごと1年遅れたのかもしれない。真相は定かではないけれど、とにかく"変わる消える"という曲は"続きを"とともにコーネリアスの最新シングルとして2023年の2月に発売された。今回新たに蘇った2曲は、辛い出来事を経て、そして数々の大切なものを失ったいまこの時期に聴くことで、より深く胸に響いてくる。音楽は人のためにあり、誰かが受け取ることでもっと豊かに広がって大きな意味を持つことを改めて実感した。

どこかの街角で、つけっぱなしのラジオで、知らない人のプレイリストで、小さなクラブや開演待ちのライブハウスで、この曲に初めて出会う人がきっといる。世界中の人々がコーネリアスの新曲を再び聴くことができる、そんな2023年が訪れたことが心から嬉しい。

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