終わりの季節
定期的に担当していたJFNラジオ番組内の選曲コーナーの仕事が先週で終わってしまった。秋の改編期なのか、2014年の開始から7年続いていた番組自体が9月いっぱいで終了ということで、心にぽっかりと穴が空いたようで寂しい。私は2019年の12月から季節が変わるたびにお声をかけていただき、最後の回を除いてはいつも金曜日の2週分を担当をしていた。計8回、全部で15週分の放送。短いあいだではあったけれど、どの回も思い出深くて、こんなに楽しい仕事があるの?と思うほどだった。
最初に連絡が来たときには怪しいお誘いかと思いきや、れっきとしたFMの番組だったことに驚いたし、「音楽の仕事に関わる人による選曲コーナー」と聞いて、なぜ私に⁉︎と後ずさりしそうになったものの、番組担当者が女性ライターを探していて、ele-kingのウェブから私のnoteの記事を読んで興味を持ってくれたこと、その担当者のかたも女性で、しかも私と同じ名前だったところに親近感が湧き、思い切って引き受けてみた。けれどその初回の1回きりだと思い込んでいたし、別の担当者に変わってもまさか依頼がくるとはまったく想像していなかったので「今は特にライター仕事はしてないんですけど……」と前置きするたびに申し訳ない気持ちになりながら、こんな機会は滅多にないぞ、せっかくだから楽しもう、と心に決めて真剣に取り組んだ。
コメントを含めた20分程度のコーナーで、選曲は5曲15分程度、毎回季節に合わせたテーマを決めること、平日のランチタイムなので騒がしい曲は控えること、Eマークのついている楽曲に注意、となると、おのずと選ぶ範囲は狭まってくるので、逆にやりやすいところもあった。選曲をするときは、まずかけたい曲を1曲決めてからテーマを考え、それに合わせて候補になったほかの曲を長さを見ながらパズルのように組み合わせて、流れを重視つつなるべくエイジレス、ジェンダーレスにバランスよくすることを心がける。それから自分本意にならないように、選曲コーナーのコンセプトどおりの心地よい選曲を。自分がラジオを聴いていていいなと思った曲が手に入りにくいものだと残念だし、知っている曲がラジオから流れたときの喜びを思い出して、日本人の曲もなるべく優先して使った。5曲で15分はやはり至難の業で、いつも4曲16分を目安に作成していた。
マイルールとしては1度使ったアーティストの曲は流さないこと。そう決めていたのに1度だけ例外でDeca Joinsを2回流したのはなぜかというと、今年の4月の「夢の中へ」というテーマの回で、直前にリリースされたばかりのミツメの大好きなアルバムから「睡魔」を選んで、そこから流れとテーマを決めて早めに作り、今回は完璧!と提出したら、その日の選曲コーナーのあとにミツメがゲストで出演するので違う曲に変更できないか、と連絡があったから。これは嬉しいハプニングだった。しばらく悩んで、ここはもうテーマを変えずにミツメにゆかりのある人に差し替えよう、とあえて彼らと交流の深いDeca Joinsの最新アルバムからの曲を選んだ。当日はスタジオに見学に行きたい気持ちをグッとこらえて、ドキドキしながら放送を聴いたっけ。
コロナ以前の初回だけは担当者のご好意に甘えてFM東京のスタジオにコメントのみを取りに行ったことも、今となっては貴重な経験だったな。緊張したけど。ラジオを聴いてくれた親や友達が喜んでくれたのも嬉しかった。休みの日は別の曜日の放送もよく聴いていたし(COMPUMAさんの選曲がいつも好みだった)、1分程度の音声コメントにもやっと慣れてきた頃だったので、ちょうど夏休みが終わった頃に最後の選曲依頼メールがきた際は、あまりに突然で動揺した。なんとなく、まだまだ続くと思っていた。でもここ数年の自分の動向からするとちょうどいいタイミングだったような気もするし、終わりがあるからこそ美しいのだ、と誰かの言葉を借りて今は自分に言い聞かせている。
最後になった9月17日の回は「金曜日に愛をこめて」という選曲テーマにした。マイルールにならうとすでに使っていたので流せないはずのコーネリアスの曲を今どうしてもラジオで流したくて、考えあぐねた結果ピチカート・ファイブの名曲「マジック・カーペット・ライド」を数年前に野宮真貴がセルフカバーした際にコーネリアスがリアレンジしたものを選んでみた。これなら表記に名前は出ないけれど、音さえ聴けばコーネリアスサウンドだと誰でもわかるから。世の中の嫌な流れに対する反発でもあった。そしていつも聴いてくれてありがたいコメントをくれた人に届けるつもりで流した。平日の昼間なので残念ながらコーネリアスのファンにはあまり届かなかったようだけれど、最後の記念にとその日は番組のタグをつけてTwitterでリアルタイムで呟いてみたら、沢山の方々から曲についての反応があったのが嬉しかった。いい音楽は音でちゃんと伝わることをしっかりと感じ取れたのは、私が音楽に関わる最後の仕事で得た大きな成果だった。番組が様々な地域の人々に長年愛されていたことも改めて実感し、終わりの大事な回にSimple Styleに関われたことに心から感謝をしている。
選曲コーナーの最後に、いつもお付き合いいただいた金曜パーソナリティーの山本真由美さんがこんな素敵なコメントをしてくださった。
"実はまだ面と向かってお会いしたことがないのに、音楽とラジオと声とで繋がっていて、この番組を通して出会えたこと、嬉しく思っています。愛のこもった選曲、本当にありがとうございました"
こちらこそありがとうございました、とその言葉をゆっくり噛み締めながら、心のなかでお礼を言った。
坂道を駆け下りるような気分で。
選曲テーマと選曲リストはこちらに追記しています。
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