見出し画像

CROSS THE BORDER

「CROSS THE BORDER」はもともと仮のパーティー名でした。時間がなくてサッとつけてしまった名前なので、今後変わる可能性もあります。わたしの心の中での最初の仮タイトルは「FLAG」でした。事の発端は今年6周年を迎えた武蔵境のカフェondのデリ担当の元さんと、近頃仲良くしてもらっている元新宿リキッドルームのスタッフのaokinokoさんと3人で、皆で好きな音楽をかけてお喋りできるようなゆるいパーティーをやりたいね、と昨年あたりから何度か話し合いをしていたのが始まりです。しかし場所、設備、資金、それぞれのスキルや経験などを考慮してみるとなかなか現実的に厳しく、話は一旦無くなりかけていました。ちょうどその頃、中野古着屋LITTLE BIRDのくさのさんが新宿OPENで不定期に行っているパーティー「SKA ROCK STEADY RAGGAE NITE」にお誘いいだき、何十年かぶりにDJをやってみたらこれがまた楽しくて、自分でも何かやりたい気持ちが沸いていたので、わたしだけがまだそのイメージを手放せずにいました。そこでたまたま遊びに行った四谷BAR DOCTOR HEADにて店長の柳原さんに軽く相談してみたところ、仲間内でワイワイやるだけでも構わないのでぜひ使ってください、と快くご承諾いただき、思い立ったが吉日、考えるよりまず行動してみる無茶な性格でいつものように突っ走って、1人でもいいからとにかくやってみるか!と翌月末の水曜を仮押さえして始めてみることにしました。当初はCDやレコードでのDJが難しいと話していた元さんも自身の機材(GODJ)を持ち込むことで可能になり、aokinokoさんも初回だけ参加してくれて(現在はしばらくお休み中)足りない穴はゲストで埋めたり埋めなかったりしつつ、現在に至ります。

開催を基本的に水曜日にしているのはいくつか理由があります。仕事柄わたしたちは平日のほうが休みやすいこと、平日だとチャージフリーで使用できるので経験値の低い身としてはありがたいこと、世の中の大半は土日休みの人々に優しくできているけれど昔のようにもっと平日に遊びに行く環境があればいいと考えていたこと、そして「FLAG RADIO」のことがずっと頭にありました。

「FLAG RADIO」は京都のFMラジオ・α-STATIONの番組で、各曜日を様々なミュージシャン達が担当する魅力的なプログラムで構成されています。その隔月の水曜日を任されていた小山田氏が急に担当を外れてしまったのが2年前の夏のこと。約1時間ほぼMCは無し、その月のテーマに合わせた曲を次々と流していくこの番組の構成がわたしはとても好きで、毎回楽しみにしていたので、突然聴けなくなったことにかなりショックを受けました。それなのに毎週水曜日の夜になるとradikoからお知らせの通知だけがくるのが悲しくて、ついにエリアフリーを解約したほどです。コロナ禍の期間でも特に鬱屈としたあの空気の中で、いくつかの失ったものについて思い巡らせていた時に、ふと自分の中でのこの番組の重要性について考えました。


わたしが10代の頃はもちろんインターネットはまだ全然無くて、情報は雑誌や誰かのおすすめから受け取るのがいちばん手っ取り早く、その中でもミュージシャンやDJがレコメンドする音楽に出会い、掘り下げていく行為は何より楽しいものでした。まだジャンルが細分化される前のクラブでは夜な夜な行われているパーティーの途中に当たり前のように深夜にライブアクトがセッティングされていたし、愛読していた「remix」というクラブミュージック中心の雑誌のレビューにはインディーロックもヒップホップもテクノもハウスも再発ものの古い音楽やサントラも一緒に紹介されていて、邦楽も洋楽もまったく分け隔てなく並べられていたので、とりあえず隅から隅までチェックするのが常でした。その時代の音楽の聴き方や楽しみ方は、のちに渋谷系と呼ばれたムーブメントや当時の活気ある音楽シーンから受けた恩恵として、今でも自分の中にまだ根強く残っています。特に小山田さんが紹介するレコードは、音楽リスナーとしての目利きのセンス、そして絶妙な親しみやすさが滲み出ていて、それはFLAG RADIOの選曲においても変わらず反映されていたように感じます。失ったものをいつまでも追い求めて嘆くよりは、受け取ったことを別の何かに循環して残していくほうが大切だと思い、せっかくだから水曜の夜に開催してみようと、さらにフリッパーズギターにゆかりのある名前の付いた四谷ドクターヘッドでやることに意味があるのではないか、という考えが自然とわたしを後押ししてくれました。

試しにやってみると予想以上にたくさんのお客さまに来ていただき、なんとか形になったようで少しホッとしています。とはいえ2人とも素人でまだまだ未熟ですし、DJと名乗るのはおこがましいのでSelectorと記載しています。その分、気軽に音楽を楽しめるようないい雰囲気ができているのではないかと感じています。アティチュードの継承なので、新旧洋邦ジャンル問わずセレクトすることを心がけていますが、前回ゲストで出てくれたヤマダさんが遊びに来てくれた際に「90年代前半頃のremix誌のバトンを継いでいる」と言ってくださった時には、ちゃんと伝わってる……!と感激しました。いいパーティーはいいお客さんが作り上げてくれるものだと実感した瞬間です。

そして興味を持ってくださった方から、なかなか平日は難しいので土日だとありがたい、とのお声を幾つかいただいて、特別に今月は24日の日曜日に開催してみることにしました。選曲テーマは「ストレンジ・ポップス」です。仕事終わりだと長居できないという方にもたっぷり楽しめるように開始は早めの16時から、日曜なので時間は通常より長く、ゲストも2名呼んでいます。まず、毎回遊びに来てくれているHeronAlphaさん。現行の音楽にも詳しそうなので期待しています!そしてもう1人はymssのドラムのNoghchiさん。ymssはSNSをきっかけに知った、とてもかっこいいバンドです。かなりの音楽通のNoguchiさんのセレクトも楽しみです。


大人になるにつれて趣味の合う友人や好きな場所や居心地のいい空間がどんどん失われていくことを実感していて、せめて自分の居場所くらいは自分で作ろうと模索する日々です。そして音楽にせよ人にせよ、新しい出会いというのはインターネットのその先にいつもあるのではないかと信じています。遊びに来てください。


※来月(10月)はいつも通りの水曜日、25日に開催します。テーマは「パンク・アティチュード」です。そちらもよろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?