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【Lisztomania!】Case1:ブート盤とTシャツマニアの話 後編

各地に生息する音楽好きの方々にそれぞれの音楽遍歴や音楽にまつわるあれこれについて
お話を伺う連載企画です。

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Ond店内の入口付近にある
店員さんセレクトのマーコールデリ文庫には
「続 コーネリアスのすべて」が!


〜Case:1 大八木元太郎(マーコールデリ店員)の話 後編

♦︎前回までのあらすじ

小学生の頃に従姉から貰った1本のブートのテープを聴いて音楽にハマりはじめた大八木少年。孤独だった中学生時代を経て、バンドTシャツをきっかけに次々と仲間を増やしていき、バンド結成、クラブデビュー、更には人生最高のフェスを体験したのも束の間、持病の腰痛が悪化し緊急手術をする羽目に。彼の音楽への情熱は途絶えてしまうのか、そして持病の腰痛は完治するのか……。果たして大八木青年の運命やいかに⁉︎

前編はこちら

──サマソニ、緊急手術ときて、それ以降はどんな感じでしたか?

大八木 はい。2008年辺りに知り合った音楽オタクの外国人がいまして、そいつと2人で宅録ユニットを組んだんですね。阿佐ヶ谷に住んでて家も近いし世代も近かったので、アメリカで聴いてた音楽の話なんかを聞いて、じゃあナード同士で国をまたいで仲良くやろうぜってなって。それまではひとりで宅録をしてたので、そこで初めて本格的なサンプリングだったり、ダンス・ミュージックを人と一緒にやりましたね。高校の時と同じで、彼の一軒家にはいろんな人が出入りするんです。外国人が沢山来るのでいろんな人種の人達と接して、ブロークン・イングリッシュで語りかけてどんな音楽が好きなのかを聞いたり、そこでまた趣味が広がりましたね。

──で、ここ(前編はじめに出てくる履歴書)に書いてある松本さんっていうのは……?

大八木 「溺死ジャーナル」っていうZINEを作っている松本亀吉さんという方がいまして、関西の中京地区の有線の会社の人事部長さんなんですけど、社会人をやりながら昔から日本の音楽をフックアップしていて、関西のアングラシーンに色々と関わってる方で、ボアダムスの最初の音源のレコーディング費用を出してる人です。のちに僕はトマトゥンパインというアイドルにハマるんですけど、それは松本さんの影響がやっぱり大きくて、元を辿ると中学校の頃からクイック・ジャパンとか、あと「BUZZ」でも連載を持っていたので、松本さんの文体が好きで影響を受けてて、その松本さんがお薦めするアイドルがデビューするってことで聴いてみて、有休を使ってイベントに行ったりとか、ラジオの公開収録に行ったり。本格的に楽曲アイドルにハマったのはそれが最初で最後ですね。

──最初で最後⁉へえー。音楽好きの人って結構、昔はロックなどを聴いてた人がだんだんアイドルにハマっていく傾向があるじゃないですか。そっちに寄って行くわけでもなくて、並行して聴くような感じで?

大八木 そうですね。典型的なアイドルっていうと衣装だったり、ツインテールとか萌え声みたいなイメージがあったんですが、トマパイは普通の女の子3人を集めて、正直歌が上手いわけでもないし、ものすごく美人ってわけでもないんですけど、楽曲が本当にハイファイだったんですよね。アゲハスプリングスっていう団体がプロデュースしてるんですけど、歌詞をジェーン・スーさんが全部手掛けててそれも強かったし、リアルな話をするとラジオの公開収録でCMに入るとメンバー全員が携帯を見ちゃうんですね(笑)。バリバリのビジネス・パートナーですよ!それをファンが見て楽しむっていう(笑)。

──ああ(笑)。

大八木 コンセプトが「戦わないアイドル」でやってて、奇抜なことをしてチャートに残ろうとか爪痕を残そうみたいなことはまずなくて、とりあえず楽曲で勝負しようという人達だったので、僕の温度に合ってたんですよね。

──でもすぐ解散しちゃうんですか、2012年で?

大八木 そう。しかも不遇なアイドルで、デビューしたときが2011年でレコ発が震災で全部潰れて、期間短いながらも頑張って活動をして翌年末に解散を発表するんですけど、その日が野田内閣の解散と同じ日になっちゃって、最初も最後も誰も注目しないっていう(笑)。でも最後の解散ライブは行きましたね。ライブDVDが出てるんですけど、号泣してる僕が映ってます。

──(笑)。「泣きました?」って聞こうとしたら号泣なんですね。そして要所要所で何かに映り込む大八木さん(笑)。ありがとうございます。ではこの辺で、自分にとって重要な盤を3枚と、何かお宝があれば出してもらってもいいですか。

大八木 まず盤でいうとこの3枚かなと。

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上から時計回りに
・PS4U/Tomato n' Pine
・Performance/Spacemen3
・Roseland NYC Live/Portishead

──おー、ポーティスヘッドはこれなんだ。

大八木 ライブ盤が好きですね。最初に選んでる時にブート盤も考えたんですけど、一応やめといたほうがいいかなと思って。この3枚だとネタだろうって思われるかもしれないけど、ガチで僕の人生を変えた3枚なので。

──これ、3枚を選ぶときに迷いました?

大八木 ものすごい迷いました。邦楽でいうとスカート、ブルーハーブ、S.L.A.C.K.でも迷いましたし、UKもので言ったらプライマル・スクリームもあるし、スミスだってあるし、マイブラもだし、最後までほんとに迷いました。3枚って難しいなーと思って。

──そうですよね。何をチョイスしてくるか、バランスを取るのかとか。だけど多くても結局難しい(笑)。選択肢が広がっちゃうから。

大八木 そうですよね。けど、ファースト・インパクトといまだに聴いてるものっていう理由で選んだら、自然とこの3枚になりました。今の自分を構成しているものですよね。

──選ぶ時に若いときに聴いたものを選ぶか、むしろ最近のを持ってきてみるのかなと想像したんですよ。でも最近のものってやっぱ3枚になるとなかなか選びづらいのかな。また10年後にくらいに選ぶならいま聴いてるものが熟成されて、もっと自分の中に入り込んでくる音楽もあるかもしれないですけど。

大八木 でも多分ですけど、10年後も20年後もポーティスヘッドは入ると思いますね。遺伝子レベルで刷り込まれちゃってるので。

──じゃあポーティスヘッドがNo.1じゃないですか。……暗い(笑)。大八木さんを象徴する1枚(笑)。

大八木 ダウン・ビートの、これだけ隙間が多くてメロディはそんなにない音なのに、これだけ残るっていうのはすごいと思いますね。ましてや活動も全然してないし、新作も出してないのに。

──スミスとか、シューゲイザーで何か持ってくるか、あとはリッチー・ホウティンとかも来るかなと想像してたんですけど。

大八木 ブリット・ポップもシューゲイザーもでかかったので、それも考えたんですよね。でもリスナーとしての愛着、それこそ1枚買って何十年もというコスパで言ったらこっちかなあと。好きなサイケとかシューゲ感覚はスペースメン3で選んでますね。ループ、ミニマルとか、サイケ、シューゲの要素も入ってるので。

──ああ、なるほど。そうですよね。

大八木 トマパイは最初に聴いたときにニュー・オーダーが鳴ってる、と感じたんですよね。楽曲アイドルなんで全部いいんですけど、「旅立ちトランスファー」っていうデビュー曲を聴いて完全に掴まれちゃいましたね。トマパイファンのことを"残党”って言うんですけど、その残党おじさんの行事としては「ジングルガール上位時代」っていう曲の中で"銀のソリ、日比谷線に乗って、仕事終わりの彼の元に、愛を届けに行く"というような歌詞があって、クリスマスにその歌詞に沿った行動をファンは8年間続けていて、僕も続けてます(笑)。去年のクリスマスも秋葉原から日比谷線に乗って、ネイビーのダウンっていう歌詞があるのでそれだけの為に買ったダウンを着て……。

──それだけの為に⁉︎(笑)。

大八木 で、日比谷線の中で歌詞に出てくる時間に写メを取るっていう。今までは残党同士がそこで会うとみんなで「8時23分!」って時間を確認し合ったりしてたんですけど、去年はソーシャル・ディスタンスで2人しか会えなかったんで、コロナが落ち着いたらまた残党同士で仲良くしたいですね(笑)。

──コロナの影響がそんなところにもありましたか(笑)。今年は通常通りにできるといいですね(笑)。

大八木 はい(笑)。そしてお宝が、まずレディオヘッドのTシャツで、94年のEPの「My Iron Lung」の発売時に西海岸で2週間だけツアーをやったんですけど、そのツアー限定のグッズです。

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──へえー。超レア⁉

大八木 超レアなんです、これ。まず刷ってる枚数が少ないのと、そのツアーは全然お客さんが来なかったので売れた母数自体も多分少ないんですよね。最初はレアだって知らなくて、たまたま小金井公園のフリーマーケットでこれとトーキョーNo.1ソウルセットのバッジがセットで500円で売ってたのを買って、価値がわからなかったのでこれ着て草野球をしたり、海に入ったりしちゃってたんですね。あとで友達に「ゲンの着てるあれ、すごいやつだよ」と言われて調べたら、450ドルだったんですよ。で、サーっと血の気が引いて、これでヘッドスライディングしちゃったんだけど、って(笑)。それ以降は大事に着てます(笑)。

──周りに知られたらやばいやつですね(笑)。レア度はそれが一番ですか?

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左上から時計回りに
・ヴァーヴの98年ツアーTシャツ
・スミスの「The Queen Is Dead」のTシャツ
・ティーンエイジ・ファンクラブのキャップ
・マッシヴ・アタックとプライマル・スクリームのテープとクリエイションのVHS


大八木 あとは大好きなヴァ―ヴが「Urban Hymns」のツアーの最後に、彼らの地元ウィガン城でライブをやったんですね。そのときのツアースタッフのTシャツです。

──それは何で持ってるんですか?

大八木 これは渋谷の古着屋に吊るして置いてあって、明らかにレアじゃないですか。非売品って言われたんですけどどうしても欲しくて通いつめて、通うあいだも毎回違うヴァ―ヴのTシャツを着て行って、僕はブートも全部集めてるし本当に好きだから頼む!頼みます!と口説き落として手に入れた1枚です。

──努力の結果ですね(笑)。これはどのようなときに着るんですか?

大八木 リチャード・アシュクロフトがソロで来日した時に着て行きました。その帰りに気づいたんですけど、クルーって書いてあるのは背中なんですよね。リチャード気付かない(笑)。でもこのTシャツは他でも見たことないですね。あとは単純に思い入れで、初めてアルバイト代で買ったスミスのTシャツ。オリジナルのヴィンテージで当時で1万円して、高校生にはだいぶ高かったですけど20年も着てます。

──生地がもう金魚すくいの網みたいに薄くなってますよ(笑)。

大八木 元を取ったなと思います(笑)。スミスはジャケットが主張があってかっこいいですからね。井出靖さんのTシャツ展覧会のイベントでもいっぱい買いましたし。それこそヘルニアの4回目の手術した後に、コルセットして松葉杖ついて痛み止めしながら行ったので、井出さん引いてましたね(笑)。大丈夫ですか、大丈夫ですか⁉って(笑)。

──(爆笑)。やばいやつが来た!って(笑)。

大八木 そして前回やった時に回復した姿をちゃんと見せに行ったら、覚えてます!って(笑)。また来た!って感じで(笑)。井出さん、いい人ですね。で、Tシャツはある程度というか必要最低限は集め終わったので、30代になってから帽子が欲しいなと思って集めはじめて。その中でいうとこれですね。ティーンエイジ・ファンクラブの。

──これ可愛いですよねぇ。バンドワゴネスクのマークがいい。

大八木 そうなんですよ。これは数年前に原宿の古着屋さんで見つけて、バンド名だけじゃなくてあの印象的なジャケットの絵と、なんでこの配色なんだよっていうのに惹かれて(笑)。オフィシャルじゃないんですよね、おそらく。これも他に被ってる人はいないので。あと、お気に入りは奥沢のVIVA Strange Boutiqueで買った靴下です。(※すいません写真撮り忘れました)

──エイフェックス・ツインですね。袋から出してない(笑)。

大八木 次に来日したときに履いていこうと思ってるので(笑)。あのお店はやっぱり沼ですね。いつ行ってもすごいグッズやワッペンもあるので。あとカセットと、クリエイション・レーベルのVHSですね。確か下北沢のフリマで買ったと思うんですけど、御三家のPVが入ってます。

──普段はレコードは買わなくて、CDかカセットテープですか?

大八木 8割か9割はCDで、どうしても好きな名盤はコレクターとしてカセットでも欲しいなってぐらいで、LPはほとんど買わないですね。よっぽどレコードでしか手に入らないもので、ダウンロードコードがついてるやつじゃないと買わないですね。

──レコードは場所を取りますからね。データでも買いますか?

大八木 そうですね。リッチー・ホウティンの「Minus Orange」はiTunesにあるのは知ってたけどコレクターなのでどうしても盤で欲しくて、でもずっと探してたのにどうしても見つからなくて、ある日の夜、急に心が折れまして、まあ800円で手に入るならいいか、と(笑)。横浜や埼玉や柏や、関東中を遠征してそれでもなかったので、もういいだろうと思って。そこで1つハードルが下がったので、買いやすくなりましたね。テクノもですけど、ヒップホップは盤によって結構高い値段がついちゃうことがあるので、iTunesにあると安く買えますし、抵抗はだいぶなくなくなりましたね。

──やっぱり手頃な値段でいかに見たことないものを探すかっていうのが基本ですか?

大八木 そうですね。西新宿がまとまってて買いやすいのはあるんですけど、高いものも多いので、関東中のユニオンを回って安く売ってる中古盤のブートを買うのが僕のライフスタイルになってて、暇さえあれば中古屋に(笑)。

──そんな生活は何年続いてますか?

大八木 四半世紀は続いてますね。最初は地元のユニオン、バナナレコード、ワルシャワで済んでたんですけど、外にもあることを知ってからはいろんなところに回るようになりましたね。レコード屋基準で地図ができてるので、観光地はあんまり覚えなくて。音楽に対する愛が強すぎちゃって、他のものへの興味があんまりないですね。

──今まで生きてきてその情熱が冷めたことはないですか?すごく忙しいとか、精神的につらいとか、生活スタイルが変わってとかで。

大八木 あ、言われてみればないですね。今の質問で自分でもハッと気づきましたけど。人生での自分の中の優先順位の1位が常に音楽で、それ以外のものが上回ることはないので。そっか、言われてみたらないです、僕。

──周りの人に引かれたりとかは?

大八木 それはしょっちゅうあります(笑)。でもこれも昔の話なんですけど、最初に話したりえこちゃん家のお婆ちゃんから「人間って一番最後に残るのは聴覚なんだ」って話を聞いたんですよ。だから長い目で見ると死ぬ直前まで好きな音楽を聴けるんだったら、一番コスパのいい趣味なんだなと思って。

──ふふふ(笑)。そのお婆ちゃんの言葉がずっと生きてるんですね。買ったCDを売ったり、処分したりすることはないですか?

大八木 それもないですね。たまにコレクター同士でトレードはありますけど。この間もサイズ的に着れなくなったバンTをごっそりまとめて友達に渡したら、シュプリームのマイブラのGジャンになって帰ってきました(笑)。

──わらしべですねぇ(笑)。じゃあそういうの以外はどんどん貯まっていく一方ですか。それ、今後も管理できる自信はありますか?

大八木 これが例えば家庭を持ったりしてたら多分できなかったと思いますけど。

──家庭を持たないと無限ですか?

大八木 そうですね。やっぱり優先順位がまず音楽なので、結婚して家庭を持つことで音楽が聴けなくなったりするのもそれはそれで幸せだろうなとは思うんですけど、自分がそうなるっていうのは想像がつかないですね。宅録が出来る時間がなくなるならまあひとりでいっか、音楽があれば、という感じなので。

──たくさん買ったものはちゃんと全部聴けてます?聴かないで置いておくことはないんですか?

大八木 聴けてます。もちろん入れ替えはしますけど、基本的に全部iTunesに通してから必ず聴いてますね。聴かないのは失礼だと思ってるので。大体は覚えてると思います。

──すごいですね。Tシャツの件もそうですし、記憶力を全部音楽だけに費やして。でもそれ、幸せですよね。いろんな人生がありますけど、それができるなら理想的だと思います。やっぱりどこかで音楽を聴けなくなる時期がある人って多いと思うんですよね。ずっと続けられるってことがすごいなと。音楽を聴きながら別の趣味にハマるようなこともなかったんですか?

大八木 あんまりないですね。ファッションもバンTだし、宅録もやっぱり音楽ですし。他に興味を持つことが特になかったので。

──大八木さんって今まで音楽に関わる仕事をしようと考えたことはなかったんですか?

大八木 いろいろやってみたんですけど、僕はやっぱりリスナー体質だなと思って。DJとかもそうですけど、自分はゼロから1を生み出すタイプじゃないと思ってるんです。1を2に変える方が向いてると思ったので、曲を作ってバンドをやるよりサンプリングしたものをリミックスしようとか、加工するほうが長く楽しめるのかなと。音楽評論家みたいに文章を書いて人に読ませるっていうのは自分にはない才能だし。趣味の合う人と一緒にZINEを作りたいというのはありますけど、それで食っていこうってのはないですね。

──リスナーって楽しいんですよね。レコード屋はさっき言ったようなところに主に行きますか?

大八木 そうですね。定期的に。あとはグッズでいうと、大学時代から通っている高円寺のロアールっていう古着屋さんがありまして、そこの店員さんにすごく音楽好きな方がいて、日本語ラップとかも教えてもらったりして、情報交換をしたり影響を受けましたね。

──結構お店に通いつめて、店員さんと仲良くなるタイプですか?

大八木 そうですね。ずっと同じ所に行くことが多いので。

──レコード屋に行ったらどのくらいちゃんと見ます?

大八木 時間があれば大体見ますね。でも年々こう、サーチアイが進化してくるので、必要のない情報は遮断するようになってくるんですよ(笑)。あとは基本的に僕はCDの棚しか見ないので。

──そっか。私は両方見るので、かいつまんで途中で今日はもうここのジャンルだけでいいや、みたいになりますね。でもあれが欲しいな、と思って探しに行くとなくて、全然違うものに出会っちゃうんですよね。すごく悩んだ挙句それ買うんだ、とか、あれ買っとけばよかったかなー、とか家で後悔したり(笑)。

大八木 一期一会ですからね。ましてや遠征した時とかはここまで来たから、っていうのもあって買っちゃいますね。来月の給料が入ったら買おうと思って行ってもないとか、何度も痛い目に合ってるので(笑)。

──痛い目に合った経験があるから全部買う、とかね(笑)。

大八木 そうそう、そうなんすよ(笑)。なんていうか、自分VS人類、みたいになってるので。他の人が手に入れるか、俺が手に入れるか(笑)。基本的に博愛的な人間だと思うんですけど、CDのことに関しては自分がよければいいと思う気持ちが強いので(笑)。

──買わないで後悔はめちゃくちゃありますからね。買って後悔は意外とね、飛んでったお金のことはもう考えないですよね(笑)。

大八木 うん、ほんとに。これはもう大きく変わることはないと思いますね。

──そうだ、好きだった雑誌などを教えてもらえますか?

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大八木 こんな感じですね。「BUZZ」、「ele-king」とか、これは音楽全般ではないですけどさっき言った松本亀吉さんの「溺死ジャーナル」、あとはファクトリー・レーベルのカタログとか、それからやっぱりNMEですね。インパクトのある写真とか、ファッションを見るのも楽しかったですし。ここら辺はもう殿堂入りですね。

──音楽の聴きかたで影響を受けた人は、やっぱり最初の従姉のお姉さんですかね。

大八木 そうですね。あと音楽評論家でいうと坂本麻里子さん。国内盤の解説が坂本さんだったらとりあえず信頼して買います。推しですね(笑)。あとはさっき言った松本亀吉さんと、なんか僕は音楽評論家だと女性の文章が好きみたいで、粉川しのさんとか、井上貴子さん、児島由紀子さんなども。

──じゃあやっぱり音楽雑誌を読んで影響を受けましたか?

大八木 影響は強いですね。あとディスクガイドが好きですね。多分電車が好きな人が路線図とか時刻表を覚えるのと一緒で、好きなバンドのアルバムの発売が何年とか、丸ごと暗記するっていうのがすごく好きだったんです。


~ここでベル&セバスチャンの「Best Friend」のイントロが店内に流れる~


──これ、今日も大八木さんの選曲ですよね?

大八木 そうです。開店して3年半ですけど、当初からBGMは全部丸投げすると言われたので。僕のiPodが1800曲のと900曲のを2台置いてあって、それを毎日シャッフルで流してもらってます。

──定期的に更新してる感じですか?曲を選ぶときの基準は?

大八木 前回買ったもの中から、これは店で使えるなっていうのを分けて入れてます。あんまり極端なのは押し付けになっちゃうので邪魔にならない音、でもある程度はOndの音だよ、っていうのを出せるプレイリストを組んでますね。基本的に言葉の意味を拾わないほうがいいと思ってるので洋楽が多くなりますし、会話の邪魔にならないこれぐらい(ベルセバ)のメロディーやビートのものを選んでます。

──じゃあポーティスヘッドじゃなくてやっぱりホイットニーですよね(笑)。

大八木 はい(笑)。嬉しいのは、最近音楽のことで話しかけてくれるお客さんがいたり、シャザムをしてる人がいて、最初それ見たときにすっごい感動しちゃって、わ!俺が選んだやつを気になってくれる人がいるんだ!って(笑)。

──(笑)。話しかけに行かなかったんですか?

大八木 さすがにしませんでした(笑)。でも「友達にここの音楽がいいよって言われたから来ました」って言ってくれる人もいたり。前からよく来てるなと思っていた大学生の子がいるんですけど、PCに音楽もののステッカーをいっぱい貼ってたのでちょっと話しかけてみたら、すごく趣味が合う子で、PARCOのWAVEの隣のスペースでポップアップショップをやったり、自分達でレーベルやアパレルやZINEも作ってるらしく、面白いことをやってる若手の学生の子としてなんと「i-D JAPAN」にも取り上げられたりしてて、それは驚きましたね。あとはパステルズのTシャツを着てるお客さんがいたので「それ見たことないですね」って話しかけたら「自作です!」って言われて、仲間いたー!って(笑)。そういう人が集まるのは面白いですね。

──へえー(笑)。東京ならではの話ですね。カルチャーが根付いてるというか。

大八木 そうですかね。通りを挟んで横が姉妹店ですし、三鷹にも店があるので、3店舗合同でフェスというか何か自分達で発信できるイベントをやりたいなと思ってるんですけど、やっぱり今はコロナ禍で人を呼ぶのがしんどい状況なので難しくて。

──大八木さん個人としてはコロナ以降、音楽の聴き方が変わったりしましたか?

大八木 うーん。やっぱりこの仕事になってからは店の定休日にしかライブに行けなくなって、腹を括ってたしずっとそれに慣れてたんですけど、いざコロナ禍になって全部ダメってなると、かつて当たり前のように行ってたライブやクラブにものすごく行きたくなって、いかに恵まれてたかに気づいたんですよね。いつかまた再開したらとにかく一晩中、音を浴びたいと思ってるので、嫌なことも多いですけど今はそれを楽しみに頑張ろうって思ってます。

──大事なものが見えてきますよね。贅沢だったなと。だって自分が行くか行かないかを選べたんですから。もう今は行けないし、誰も海外から来ないし。

大八木 うんうん、ほんとにそうです。1年ちょっとでこんなに世界が変わるなんて思わなかったですから。

──新しい音楽もずっと追いかけて聴いてますよね。

大八木 聴いてますね。合う合わないはあるとしても、最初に耳を通してみる、時間に余裕があったら現場にも行って、身銭を切って盤を買う、チケットを取る、極力足を運ぶ、っていうのは自分の中で決めてるので。やっぱりちょっと置いていかれるのが怖いのはありますね。若い子達の中で何かカルチャーが起きてて、自分は年齢が上で加担できないから聴けないっていうのは悔しいですしね。おじさんにもそれ聴かせてくださいって思うし(笑)。やっぱりイギリスで今どんな音楽が流行ってるかは、ひと通り耳を通しておきたいと思ってます。

──最近聴いてる音楽を教えてください。

大八木 邦楽だとスカート、それから舐達麻はよく聴いてますね。あとは身内びいきなしで、うちのパブリック・カウンターの店長の山里がやっているプログレ・バンドのウルマ・サウンド・ジャンクション(2019年にドイツで行われたエマージェンサというインディー・バンドの大会で世界3位を受賞。山里さんはベスト・ギタリストにも選ばれた)。2月14日に新しく発売されるEPに「Perfect Rapture」っていう曲があって、その4分10秒から6分20秒にかけての展開はちょっと邦楽に爪痕を残せるなってぐらいすごいです。ブラック・ミディとかバトルスが好きな人にもおすすめです。

──曲の長さがわかりました(笑)。

大八木 あとは洋楽だとThe 1975ですね。最初は興味がなくて正直ハイプだと思ってたんですけど、「Love It If We Made It」っていう曲を聴いてすべてがひっくり返ってしまって、あ、天才だって。ポップ・ミュージックっていう形態の中でリベラルな発言をしながら、最先端の一歩手前で落としていかに多くの人に届けるかっていう才能が、マシュー・ヒーリーは秀でてると思うんですよね。ダウン・ビートの曲もあって、店のBGMにも使ってますし。他には粉川しのさんが紹介してたデクラン・マッケンナとか、それからフローティング・ポインツも好きですねー。絶対オタクじゃないですか、あの人。あとはやっぱりD.A.N.も。

── D.A.N.はこの間のライブ・アルバム、あれ良かったですよねー。「Tempest」に行くまでの流れがすごくて!

大八木 「Tempest」を最初に聴いたときはびっくりしましたね。それこそ自分が音楽の職に就かなかった話に戻るんですけど、前にウェブのエレキングで大久保さんが書いてた「Tempest」のレビューを読んで、こういうことを表現できる人が書くべきだなと思ったんですよね。ずっと残ってる文章です。

──ははは、ありがとうございます(笑)。最後に私に何か質問ありますか?私も聞かれたい!

大八木 これまったく同じ質問なんですけど、今日の、今の大久保さんが人生の中で重要な3枚を選ぶとしたら何ですか?

──え!今ですか⁉フリッパーズ・ギターの「ヘッド博士の世界塔」と、プライマル・スクリームの「Screamadelica」。……もう1枚は何だろうな、難しい……。3枚って難しいですね。うーん、どうしよう。いま選ぶならカラフトのMIX CDなんですけど、ノベルティのCDが入っていいのかどうか。でも入れちゃおう(笑)。田中フミヤは私の音楽人生の中で重要なので。

大八木 さっき途中で、あ、これ最後に聞き返そう、と思ってたんですよ。なるべく考え込まないで脊髄反射で出てきた3枚が知りたくて。ありがとうございます(笑)。……あとこれは余談なんですけど、さっきまで隣にいたお客さん、マリリン・マンソンの「Beautiful People」のTシャツ着てました。高いやつですよ、あれ(笑)。当時のオリジナルですよ、多分。

──えっ、他のお客さんのTシャツまで見てる!

大八木 つい目が行っちゃうんですよね(笑)。


2021年1月某日 
武蔵境Ondにて

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※ちなみに私がこの日に着ていたOn-Uサウンド・システムのTシャツは大八木さんから譲り受けたものです。


〒180‐0023 
東京都武蔵野市境南町3-2-13
Ond内 マーコールデリ


#音楽 #インタビュー



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