タニア・ブルゲラ「NOTES ON POLITICAL TIMING SPECIFICITY」について

  前回の続きで、タニア・ブルゲラが「ポリティカル・タイミング・スペシフィシティ」という概念について論じた文章に関して書いてみたい。前回のクレア・ビショップの論考と同じARTFORUM2019年5月号に掲載されたものようだ。以下のサイトで全文を読める。https://www.artforum.com/print/201905/notes-on-political-timing-specificity-79513
おそらく前回のビショップの文章はこれを受けて書かれたものなのだろう。全文を訳したほうが早いのではと思うくらい短い文章だが、そういうわけにもいかないので、とりあえず冒頭の段落だけでも訳してみよう。

事後的(アポステリオリ)な反応やコメントとして美術を制作するだけではもはや十分ではない。今や、いまだない(not yet)ものとこれから来たるべきもの(yet to come)のために美術を制作する時だ。美術は、政治と政策が形作られていく瞬間に介入すべきだ。

  それ以降をざっくりまとめると…
  ブルゲラは2009年にポリティカル・タイミング・スペシフィック・アートという概念にたどり着いたという。特有かつダイナミックな政治的風景がつねに彼女の主な興味である。彼女の作品は、政治家と一般観衆両方に向けられたものである。政治的タイミングは政治家が活動する際のメディウムであるが、彼女はそれを自らの作品の素材とした。自らの美術で政治的状況を生み出したいならば、それはただその言及においてコンテクスト的・文化的に特定のものであるだけでなく、政治的タイミングとその結果に従って働くべきでもあるとブルゲラは認識した。ポリティカル・タイミング・スペシフィック・アートは、キューバ政府のプロパガンダをその言葉どおりに受け取ることによって彼女がそれをテストするための方法として生じた。美術作品は、プロパガンダと現実のあいだの距離の指標となる。ポリティカル・タイミング・スペシフィック・アートは、他の者が何が政治的であるかを決定することに対していかにして反応すべきか権力者が分からないような一時的情勢を創り出す。窓はとても素早く開いて閉まる。政治的決定がいまだ定められたり実行されたり文化的に受け入れられたりしていない短い瞬間に、正確さをもって入らなければならない。ポリティカル・タイミング・スペシフィック・アートは、権力者が反応するまでのあいだに存在するのである。

  前回のビショップ論文と合わせて読むと、「ポリティカル・タイミング・スペシフィック・アート」の掛け金がより分かりやすくなるだろう。この文章の終わりにあるブルゲラのプロフィールには、現在ポリティカル・タイミング・スペシフィック・アートに関する本にビショップとともに取り組んでおり、今年(2019年)中に出版予定であると記載されているが、いまだ刊行されていない。来月刊行予定のこの本のことだろうか。(Amazon USを見ると9月刊行予定となっているが…)
Tania Bruguera in Conversation With Claire Bishop
https://www.amazon.co.jp/dp/0984017399/
ビショップによるブルゲラへのインタビュー本のようだが、そちらでもポリティカル・タイミング・スペシフィック・アートに関する議論が深められていることを期待したい。

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