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2021年度卒業制作:『マイクロノベル集』

 京都産業大学現代社会学部菅原ゼミの4回生の卒業制作として『マイクロノベル集』を作りました。マイクロノベルとはSF作家の北野勇作氏が積極的に推進している小説形態で、おおむね100字程度の文字数の作品を指しますが、今回の卒業制作にあたってはマイクロノベルの定義をより広く捉えて、短いものではたった1行、長いもので数ページにわたるような超短編小説を自由な形式で書いてもらいました。

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 最終的に、文庫本サイズで160ページの立派な短編集になりました。カバーイラストは3回生の山田瑠菜さんにお願いしています。

 内容も充実しています。以下、いくつかの作品を引用して紹介したいと思います。

 止める者もいないし、自ら消える勇気も無いので、仕方なく鮫と一緒に泳いでいるが、いつまで経っても食べてくれることはなかった。
(作者:鳩麦)
来世に期待
 男は十四年間女に愛を伝え続けていた。九百九十九本の真っ赤な薔薇の花束を、毎日欠かさずに女のもとへ届けていた。十五年目にして、とうとう女は観念し、「私が歳をとっても好きでいてくれたのなら」と、十五本の真っ赤な薔薇の花束を男に届けた。女は、自分を愛し、自分が愛した男と幸せな生涯を過ごし、男は女を愛し続け、そして女が死ぬその間際のみ、花束は持たず、自分の身一つで女に会いに行った。
 男はそこで初めて、女は自分を愛してなどいなかったのだと気づいた。
(作者:NN)
捨てる
 彼氏と別れてから一日目。
 まず家にある私以外のモノを捨てた。自分の肌に合わない化粧品、吸わないタバコ、髭剃り、歯ブラシ、それ以外の自分のモノじゃないなら捨てた。
 でも服は捨てられなかった。部屋着のTシャツ、ズボン、パーカー。だってサイズはちょっと大きいけど着れないことはないし。別に捨てなくてもいいか。この服は自分のモノ。
 それから彼のスペースを捨てた。例えば歩道を歩く時は真ん中を堂々と歩いた。以前は左寄りにあるいていた。一人で歩くのに隣にスペースがあるのはおかしい。だから私は彼のスペースを捨てた。ベッドも真ん中で大の字に寝た。ずっと前からこうやって一人で広々寝たかった。でもやっぱりダブルベッドは広いかな。朝起きたら左側に寄って寝ていた。しかたないからくまのぬいぐるみを横に置いた。
 しかし困ったことが起きた。自分のモノなのに自分のモノではないものがあることに気づいた。コンビニで出した財布、左手首に着いている腕時計、カバン、ピアス、ネックレス。誕生日に彼が選んだプレゼントだ。捨てようか、いや、今すぐに無くなれば困るものもばかりだ。気に入ったものがあれば直ぐに買い換えよう。そう思ったけれど、気づけば半年経っていた。未だに彼の服は綺麗に畳んだままタンスにしまってあるし、ぬいぐるみはベッドの半分を占拠している。私はまだ「彼」を捨てれずにいる。
(作者:ゾイ)
 解けない氷が発見された。その氷は暑い真夏の日差しに晒されても解けることはなく、さらには燃え盛る炎の中に入れても解けることはなかった。しかしある日、人の手のひらに乗せるとその氷が解けてしまうことが発見された。
(作者:まのくふ)

 他にもここに紹介しきれないほど優れた作品がいっぱい載っています。現物(文庫判の紙媒体もしくはPDF)をご希望の方には配布いたします。詳細は菅原ゼミTwitterもしくは教員のメールアドレス(pozegnaniejesieni[at]yahoo.co.jp)のほうにお問い合わせください!

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書誌情報:
『マイクロノベル集』京都産業大学現代社会学部 菅原ゼミ(編著)、2022年。


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