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2021年1月〜3月で良かった音楽アルバム15選

早くも1年の1/4が経過したところで2021年初note更新です。

年々新譜を聴く数が増え続けているのと、年末になって1からベストを考えるのはとても大変なので、このタイミングでここまでの2021年のリリース作から厳選した15作品をコメントと共に紹介出来ればと思います。

ランキングは付けていませんが、前後の作品の繋がりを多少意識した並びになっているので、是非上から順に読み進めて頂ければ幸いです。

2021年1月〜3月で良かった音楽アルバム15選

SIRUP 「cure」

特に昨年以降から若者のメンタルヘルスの問題や、SNS時代の人との距離感、コミュニケーションの在り方を意欲的に発信し続けてきたSIRUPの2ndフルアルバム。考え方は人の数だけ、互いが互いを理解し合い尊重し合おうというメッセージがグルーヴィで心地よいトラックと共に染み渡る、まさにcure(=癒し、治療)のミュージック。前作と比べるとノリノリのアッパーチューンよりもミドル〜スローテンポのメロウな目立つ印象だが、今のご時世にはそうしたタイプの楽曲の方がよく馴染む。

ESME MORI 「隔たりの青」

iriやchelmico、Awesome City Clubなどの楽曲を手掛ける実力派プロデューサーのソロアルバム。青空や海をはじめ、戻れない過去、辿り着けない場所など、人と人を隔てるものの象徴として"青"を描いている。爽やかなポップソングもありつつ、先述したアーティスト等の楽曲にも感じられる緻密なプロダクションが冴え渡っており聴き応えは抜群。その繊細な感性は三浦大知の傑作「球体」に通ずるような気も。

Cwondo 「Hernia」

ガレージロックバンドNo Busesのフロントマンによる一枚。ソロプロジェクトということで自由度も高くて先鋭的ではあるが、7曲21分のミニマルさもあってかなり聴きやすい。トランシーなブレイクビーツも良し、ローファイでアンビエントや質感も良し、本家バンド顔負けのギターソロも良し、何より歌とメロディの平熱感が妙に心地よい。

For Those I Love 「For Those I Love」

音楽好きのタイムラインで話題を集め、海外のレビューサイトでもかなりの高評価を得ているアイルランドのプロデューサーによるデビュー作。エクスペリメンタルでトランシーなビートに恍惚感のあるシンセの広がり、そして一番の特徴と言えるポエトリーとラップを行き来するように畳み掛けるリリックには、音楽活動を共にしたパートナーが命を絶ってしまったことに対する悲しみ、色褪せぬ友情と愛が込められている。先鋭的なダンスミュージックと独特な歌唱スタイルを併せ持つスタイルから、次に選んだラッパーとのシンパシーを個人的には感じた。

KID FRESINO 「20,Stop it.」

昨年の先行シングル「No Sun」「Cats & Dogs」「Rondo」の時点で新境地を確信づけ、2021年のスタートを高らかに告げた快作。ラップミュージックと様々なジャンルとの接続を内側からも外側からも押し進めた楽曲が次々と繰り出されていく展開は圧巻でもあり異質でもある。ただ、一番のシグネチャーであるフレシノのキレキレのフロウと独特な言語表現はアルバム通して一貫しており、タイプの異なる楽曲をスムーズに繋いでいく。セルフプロデュースの先鋭的で攻撃的なトラックも、凄腕プレイヤーが集ったバンドグルーヴを軸にした楽曲も一級品。まだまだ時間をかけて読み解き甲斐のある作品。

Cassandra Jenkins 「An Overview on Phenomenal Nature」

NYのシンガーソングライターによる、喪失と回復をテーマにした7曲入りの作品。穏やかな波のように揺らめくアンビエントの意匠、海から吹くそよ風のようなサックスの音色、ジャジーで膨よかに広がるビート、音の空間を広く使った幽玄なフォークサウンドがゆったりと流れゆく体験に心が浄化される。フィールドレコーディングで自然のさざめきを収めた最後のインスト曲まで通して聴いて欲しい。

The Weather Station 「Ignorance」

気候変動をテーマに据えた詞を淡々と紡ぐアルトボイスがとにかく染みる。フォークロックを軸に、タイトなビートとストリングスがグルーヴしていく洗練されたアンサンブルは、自然本来の美しさを音で表現したような仕上がり。アルバムを通してサウンドのトーンが統一されていて、良質なサウンドがじんわりと熱を帯びて広がっていく1枚。

Indigo la End 「夜行秘密」

結成10年を迎えたバンドの成熟したアンサンブルがひとつの境地に達したような作品。前作から続いているシティポップやR&Bを昇華したグルーヴィで洗練された演奏に加え、中盤では武骨なオルタナティブロックも炸裂。失恋ソングならではの淡くてエモいメロディも流石だが、今作の魅力は上質なバンドサウンドに尽きる。良質なポップソングをこの4人で演奏することに確かな自信とプライドを感じるし、時流に乗ることと時流に対するカウンターであることが共存しているようで素晴らしい。

For Tracy Hyde 「Ethernity」

毎回コンセプチュアルに作り込まれた良質なアルバムを世に放つ、日本が誇るドリームポップバンドが"アメリカ"テーマに掲げた4枚目のフルアルバム。みずみずしい歌と轟音ギターに、エモやグランジなど90年代のオルタナティブロックのザラッとした質感が加わったダイナミックなサウンドに心躍る。14曲1時間弱を聴き通した後には映画のような余韻が残る一枚。

Wild Pink 「A Billion Little Lights」

アメリカ西部をテーマとした、こちらも1本の映画を観ているようなアルバム。スプリングスティーンに代表されるアメリカンロックのダイナミクス、インディーロックの静かで内的な響き、そしてフォークやカントリーの繊細さが程よくブレンドされたバンドサウンドが、ドリーミーなシンセやストリングスと共に膨よかに広がっていく。曲間の繋ぎ方が素晴らしいので1枚通して聴いてみて欲しい。個人的にGalileo Galilei〜BBHFが好きな人には特にオススメ。

NOT WONK 「dimen」

一つひとつの音の輪郭やその広がり方が独特過ぎる音響に驚き、ジャズやブルース、テクノなどを自由にクロスオーバーしていく楽曲に更に驚く。前作以上に3ピースのパンクバンドという枠はどこかへ吹っ飛んで行ってしまったのだが、その自由なインスピレーションに広大な北の大地の匂いを感じるし、とにかくロマンに溢れている。インタビューで楽曲の詳細をあまり語らないことや、歌詞カードに英詞の対訳をつけないことにも確かな意図を感じる。市井に生きる一個人として、頭と身体と心でこの作品と向き合い続けた先には、大切な人の名前を呼び合うような濃密な体験が待っているだろう。ということでこれからもっと深く聴き込みたい。

Weezer 「OK Human」

総勢38名のフルオーケストラと共にアナログサウンドのみを用いて制作。タイトルの通り、人と人との繋がりが紡ぎ出す膨よかで有機的な音色が包み込む。つまりはエレキギターが一切鳴っていないのだが、歌とメロディはまさしくウィーザー節で、ロックダウンで経験した変わり映えのない退屈な日常やメンタルの移ろいを詞に込めて憂鬱混じりながら優しく歌い上げる。曲間はほぼシームレスで繋がっており、30分で1つの組曲を聴いているようでもある、神聖さとナードさとフレンドリーさが共存した1枚。

Lana Del Rey 「Chemtrails Over The Country Club」

モノクロのジャケットやタイトルからも想起される、カントリーやフォークの牧歌的な響きに物静かで繊細な意匠を凝らした素晴らしいアルバム。今や世界的なアーティストとなった彼女がまだ何者でもなかった頃への憧憬を歌った1曲目をはじめ、ノスタルジックで逃避的に聴こえるが、それは時流や名声よりも自分の身の回りのことを大切にしようという想いの表れなのではないだろうか。ジャケットからしても女性に対するエンパワーメントの意味合いも強く含まれていると思うし、表層的なサウンドや言葉だけでは読み解けない魅力がまだまだ詰まっている。

Tempalay 「ゴーストアルバム」

前作と比べると近未来的な要素が後退し、一枚通してオリエンタルな響きと日本昔ばなし的なおどろおどろしさが漂う。2020年を"生きているのか死んでいるのか分からなかった1年"と捉え、生と死、都会と地方、デジタルと自然、シリアスとコミカルといった境界線を揺らめきながらサイケデリックロックの渦に飲み込む。ディストピアの中を盆踊りで進んでいくように、最後の「大東京万博」へ向かっていく流れがとても良い。

millennium parade 「THE MILLENNIUM PARADE」

2016年の「http://」というアルバムをプロトタイプとし、その後King Gnuとして日本のポップシーンを経由した末に完成した、常田大希による壮大なアートプロジェクト/コレクティブの序章にして最初の集大成。こだわり抜いた緻密なプロダクションと、文字通りぶっ飛ぶようなダイナミックさを兼ね備えたサウンドはまさにカオスであり、同時に想像以上にポップな仕上がりでもあった。このような志向の音楽は日本には過去に例を見ないと思うが、それぞれの楽曲を丁寧に紐解いていくと、彼らを形成してきた過去の優れた音楽へのリスペクトを存分に感じ取ることが出来る。リスナーにとって海外の音楽シーンと接続する入り口としても機能するポテンシャルも存分にあると思う。

(以前作成したプレイリストも合わせて是非...!!)


といった具合で、相変わらず各種ストリーミングサービスからのレコメンドやレビューサイトの評価、SNSでの評判などに良くも悪くも流されつつですが、海外の作品は依然インディー/フォーク系が個人的にハマっており、国内はロックバンドの良作が目立った印象の3ヶ月間でした。4月以降も引き続きこれらの作品を深く検証していきたいと思います。また、今回選ばなかった数多くの作品から年末のベストに選ぶ可能性も大いに有り得るのでその辺りも個人的には楽しみです。

昨年は特に自分の内側に知識を蓄積していくように音楽を聴いた1年でしたが、最近は音楽系の新しいSNSが続けて話題になったこともあり、それらも上手く活用しつつ、ライブにも足を運びつつ、音楽を外とのコミュニケーションの機会を増やしていきたいと思っている次第です。

最後に、今回選んだ15作品から2曲ずつセレクトしたプレイリストを掲載しておきます。お時間ある時に是非!!


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