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きいろちゃんの短歌まとめ 12

吾輩は三代目である先代と先々代とおなじ名を持つ

新しいワンピースを着て家を出てコートを脱がずに帰宅し二月

透き通るクラゲ越しに見る世界わたしはそこで生きていきます

品川の地下の深くで作られるリニアの駅と次のおはなし

もう二度と会えない人の写真とか捨てられないじゃん片付け終わり

泡だけのビールをミルコというらしい知らないことがまだある喜び

新しいシャンプーやけに泡立ちがよくて泣いてたことも忘れた

もういいよ夜も遅いし寝ていいよ(いいわけないじゃん会いに来いバカ)

休憩のたびに抱き合いこの部屋にふたりがいたこと擦り込んでいく

大人でも回転木馬に乗りたいし一緒にはしゃげる彼氏が欲しい

味噌煮込みうどんは冬期限定でここだけ春が来ないで欲しい

男よりIKEAのサメは役に立つ私が泣いても抱かせてくれるし

飲みすぎて夜更けに送るLINEだけ素直なんです、いやしらんけど

何回かしたあと午前二時だった日は切なくないのに 夜更け

何年も何十年も読まれずに眠ったままの初版本たち

生きていく意欲が稀薄になっていく君の匂いが部屋から消えて

冷えきった身体で帰ればストーブと炬燵とお茶が待っていた頃

すんなりと別れを飲み込む君がいて世界の終わりもきっとこんなだ

白月は暗喩だろうか続かない恋のため朝帰る空には

あたたかい羊水みたいだ眠ってるあなたの温度が布団に沁みて

少しだけ餅巾着の重たさが堪えてもうすぐ誕生日です

経血が太腿つたい落ちてゆき繋がれなかったいのちが消える

密室の鍵はたとえば音楽で二度と聴けない恩師の音色

人間は百年すらも生きられず古都の息吹を繋ぐたすきだ

内腿に鳩のタトゥーを施して誰も知らないわたしの祈り

わたくしを飲み込むほどのウサギ穴めいた新宿駅の改札

刺さらないコトバばかりのTLに突然あなたの歌が現れ

飼い犬に一日三度の散歩を!とデモ行進する凛々しいポチ太

光あれ だからと言って四六時中太陽になんてならなくていい

肩に荷をどんどん積んで家族とか犬とか猫とか平和だとかも

おじさんを見上げる犬を見る君が愛しいふたりで犬を飼おうね

まだ町がぼくの全てであった頃、都会と月はおなじ遠さで

十二年前の手帳に記された予定がわたしを微かに照らす

想い出の中の部室で落日があなたの和毛(にこげ)を照らしつづける

銀色の画廊で出会った絵のなかの子犬みたいな犬を飼いたい

東北の訛りを忘れてしまっても雑煮に入れる芋がらを探す

この猫をしあわせにする義務を得る代わりに手放す権利いくつか

正しさの洪水が来るぞ悪戯の浮き輪で波に乗ってやろうか

今もまだ残るメロディ下校路の夕陽に歌った黄色い子犬

かつて龍が昇った空だ早朝の露天風呂から繋がる古代

行き先を変更しても生きていくあなたを見守る(わたしを見ていて)

わたくしの頭のなかの最果てにあなた以外の光を灯す

さよならの歌ならすでに作ってていつでもさよならできる(できない)

右マルチ 左パパ活 休日のカフェで聞こえる世界の縮図

ほろ酔いの、笑顔の、涙の帰り道 いつでもそこには百円自販機

着尽くせないほどに多くの服があり、それでもデートに着る服がない

牡丹雪 やけに明るい夜なのにひとりで食べる蜜柑は酸っぱい

ふるさとの雪も忘れて下駄箱にヒールしかない暮らしになった

誰も居ない展望台に残された二枚の枯葉とうさぎの気配

司会者の進行通りに恋からの結婚みたいに生きられなかった

三年は開いていない戸棚にはわたしが忘れたわたしの気配

外は雪 地球が回転する音と君の脈拍だけを感じる

カニカマになりたい蟹もいるだろう何者でもないわたしのように

返信がない人がいる それだけで生きているかも分からないんだよ

シャンプーもトイペも醤油も買い忘れタルトタタンを抱えて帰宅

みてごらん夕方の空の複雑さ うまく伝える言葉がなくて

君の手が欲しかったから手袋は故意におうちに置いてきました

はつふゆにコートを取り出しポケットに君とあつめた応募券あり

全力で何もしないをしているし土曜のわたしは無敵なのです

ぼくからの指令が途絶えて兵隊のテディベアは眠りつづける

寒くない日でもあなたのポケットに手を入れたいですなんて告白

ねこの方が可愛いでしょう?ねこを見て。スマホよりもねこを見なさい

本物が裏にいるかもしれないし「神の気まぐれサラダ」ください

幸せが花吹雪みたいに降ってきてこのまま圧死できたらよかった

どんな日も共に過ごした魂を労わるような一面の雪

通知音全部無視して玉葱を炒め続けて作る飴色

思い立ち鮭ではない具のおにぎりを買えばそこから始まる異界

ほろほろと日本酒を飲む人だったあん肝ポン酢も教えてくれた

「本棚の漫画のセンス、実家みたい」「それって褒めてる?」「さあね、どうかな」

もういいよ点Pの歌見飽きたしグラフを飛び出し羽ばたきなさい

する前となんだか違うした後にあなたと繋ぐ手の感情は

人間は時間を活用するらしい それは猫には難しすぎます

元カレに貰ったままの日本酒を真冬にバニラアイスにかける

あの夏にセーブをしたから大丈夫 リセットボタンを握って眠る

もう全部リセットしたくて引っ越した街でも金木犀が香って

先代は三枚乗せてたチャーシューがおまけだったと年の瀬に知る

しんしんと京都の冬は耐え難く湯葉を重ねて布団にしたい

ここからが冬ですよって境界線みたいに青いマフラーを編む

ツイートをポストと表すひとが増え私を置いて世界は進む

大輪の向日葵を柄に閉じ込めて来夏もあなたと居られるように

伝線したストッキングをビリビリと破ればそこから飛び出す小鳥

自分では上手に嘘がつけたつもりの日、きみが奢ってくれたコーヒー

どうしてかポッキーゲームはキュンだけど、ひもQゲームじゃ絵にならないね

もし君と別れたら、とかは考えず一緒に行きたい街を言い合う

またどうせボーダーの服買う気でしょ。わたしが選んであげるから、来て。

午後九時のいつも通りの帰路なのに今日はあなたと手を繋いでいる

買ってきたお粥に少し塩を振り実家の味にしようともがく

春の日の恋に惰性を振りかけてカラッと揚げた、これが愛です

難しい試験に挑むような顔で君がパフェを選んでいる午後

いつの日か一緒に見ようと話してたクリオネを別の人と見ている

ふゆが来る ひとりで作る寄せ鍋に小さじ二杯の劣等感を

二次会の隅でひっそり知恵の輪をふたり並んで解いていました

面白い本の購入費用になります。