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夕凪のとき(1)
飲み慣れないワインのせいか、珍しく日付が変わりそうな時刻にうつらうつらとする。
ふと気がつくと、隣に夫が眠っている。私は、夫との距離を掴みかね、少し戸惑う。少し白いものが目立ち始めた柔らかい髪が、額にかかり、呼吸と共に微かに揺れている。揺れる髪に思わず手を伸ばしかけて、私は躊躇う。「もう出会った頃の彼ではない。」私の胸に響いたのは、誰の声だったのか?それでも、確かにその時、私の隣には無防備な寝顔の夫がいた。そして、その時の私には、夫が隣にいることが当たり前だった。
目覚めて初めてそれが夢だったことを知る。夢は、二重に残酷だ。夫の夢を見たのはいつ以来だろう。あまり夢を覚えている質ではないが、少なくとも夫の背中を見送ったあの日以来、初めてのことなのではないかと思う。
遠い昔にひとり寝を嘆く歌を残した女性たちの気持ちは、このようなものだったのだろうかと、想いを馳せる。ベッドサイドにある古典は、中々ページを進められずにいる。文庫本にかけたブックカバーがやけに色鮮やかに見えるのも、すっかり、目が冴えてしまったからだろう。
スマートフォンの画面を確認すると間もなく2時を回るところだった。明日も仕事だ。眠らなければ、ならない。結局今日は飲まずに済みそうだと思っていた眠剤に手を伸ばす。
明日は、くる。どう足掻いても、明日は、これまでと同じリズムでやってくる。そして、同じように、明後日も、明明後日も、1週間後もやってくるのだろう。そして、1週間後、私は、夫との離婚調停に臨まなければならない。
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