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観劇感想:ミュージカル「マチルダ」◆20230603昼公演

◆2023.06.03 12時半開演 梅田芸術劇場

◆子どもキャストチーム:BLUE/マチルダ:嘉村咲良
 ミス・トランチブル:大貫勇輔
 ミス・ハニー:昆 夏美
 ミセス・ワームウッド:大塚千弘
 ミスター・ワームウッド:田代万里夫
 ミセス・フェルプス:岡 まゆみ

 ロアルド・ダール原作の児童文学「Matilda」のミュージカル版を観劇した。幼稚園の頃から大好きな原作だったのだが、ミュージカルの存在を知ったのは遅いほうで、今日は念願の観劇となった。前日、評論社コレクション版の『マチルダは小さな大天才』を再読し、ミュージカルに備えたためもあってか、わりと原作からアレンジされた場面や展開が多いと思った。とりわけ冒頭のマチルダ誕生の場面や、ミセス・フェルプスに物語を話すマチルダ(奇しくもミス・ハニーのこれまでとリンクする)、最後のブルガリアマフィア・セルゲイが出て来る箇所などが大きく違った要素だった。

 私にとってマチルダは、物語を読む少女であった。自分と同じように本が好きで、でも自分よりもっとずっと勇気があって賢い少女。それがミュージカルのマチルダは、もちろん読書はしているのだが、それよりも物語る少女の側面が強く、随分印象が変化すると感じた。まるで幼い子どものように物語の続きをせがむミセス・フェルプスとの関係もまた、変わっていたように思う。ミュージカルのマチルダは、家庭で傷ついた自分の心を癒すために物語を話しているようにも見えた。物語を話す以外にも、自分は両親に大切にされているとミセス・フェルプスに話す姿は、原作のマチルダよりもリアルさを感じられた。……慣れ親しんだこともあり、愛着があるのはどうしても原作のマチルダになるけれど。これはこれで、描き方。膨らませ方として、納得がいくものだった。

 嘉村さんのマチルダは、とても凜としていた。仕返しを企むワルい表情もよかった。それこそ原作のマチルダのように小さな体から、あんなに声量のある歌声が響くとは。父親に「坊主」と呼ばれるたびに訂正していた彼女が、最後の最後に父親が(もしかしたらうっかりと?)「娘はどうする」というような発言に、飛びつくように反応していたのが痛々しかった。父親から初めて正確に認知された場面だったのかもしれないと思うと、ミスター・ワームウッドの罪は重い。

 昆さんのミス・ハニーは原作を読んでいて想像していたミス・ハニーより少しコミカルだった。ただ、これはミュージカル全体に言えることかもしれない。優しくのびやかな歌声が、とても素敵だった。〝いつか〟は意味を取りきれない原語で聞いているときも、ミス・ハニーのことを考えて涙していたのだが、翻訳された歌詞もよかった。

 ミス・トランチブルの大貫さんは、リボンの場面がとても優雅だった。ミス・トランチブルは横暴無慈悲の擬人化ともいえる人物だけれど、どことなくチャーミングだったのが意外なような、そうでもないような。劇場が明るくなっても鳴り止まない拍手に、帰れ帰れという感じで手を振ってきたのも面白かった。

 ミスター・ワームウッドの万里夫さんは、私にとっては「エリザベート」のフランツ・ヨーゼフで馴染みのある方だ。聞き慣れた深みのある歌声ではなく、がらがらのダミ声でぎゃんぎゃんとやかましくがなり立てるような歌声が新鮮で楽しかった。客席いじり含め、関西弁交じりだった気がするのは気のせいだろうか。東京公演を観ていないので判断がつかない。

 ミセス・ワームウッドの大塚さんは、すらりとした雰囲気が原作のミセス・ワームウッドとは真逆で、だけどキンキンと叫ぶ感じが非常にらしかった。ルックスとブックスの場面があって嬉しかった。でも、ビンゴがダンスになったことで、謎の人間関係が生まれたのは、私には少しノイズだった。

 曲目としてはやはり、〝いつか〟と〝子どもたちの戦い〟が群を抜いていた。ブロードウェイ版のCDを購入できて、とても嬉しい。


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